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賃貸経営におけるランニングコスト~修繕費の目安と時期~

公開日: 2022.07.05

最終更新日: 2024.04.23

公開日:2022年7月5

はじめに

安定した賃貸経営をするためには、安定した家賃収入が得られること、そのためには建物の価値を維持し、家賃を下げることなく入居者を確保し続けることが重要です。

そのためには、長期的な修繕計画を立てておくことがポイントです。家賃収入ばかりに目を向けるのではなく、長期的な視点で、修繕費用にも目を配り、あらかじめ一定の経費を見込んで準備しておくことが大切です。


<この記事のポイント>

・国土交通省の「計画修繕ガイド」のポイント。修繕費の規模について。
・修繕工事には、「機能維持の修繕」と「価値向上の修繕」がある。
・賃貸経営の安定、修繕費用の抑制のためには、計画修繕が重要。

民間賃貸住宅の高齢化と計画修繕

ひとが歳をとるのと同様に、家、建物も歳をとります。
日本の住宅事情を見てみると、民間の賃貸住宅は、1,529万戸にのぼり、住宅全体の28.5%を占めているそうです。

民間の賃貸住宅が、社会の中で大きな役割を担っていることが数字の上からも分かります。
当然、この賃貸住宅の劣化を防ぎ、環境整備をすることは、日本の住環境の整備にもつながるわけです。
(上記数字は国土交通省資料 「2018年 住宅・土地統計調査の集計結果、住宅及び世帯に関する基本集計の概要」より)

日本の住宅政策をとりまとめている国土交通省では、住環境の整備、品質の維持・向上のためにはどのような対策をとればいいのか、その方向性とルール作りを進めてきました。

民間の賃貸住宅の老朽化、経年劣化については、「計画修繕ガイドブック」という資料を作って、計画的な修繕を推奨しています。

国土交通省のガイドブック

民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック
民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック(事例編)

そして安定した賃貸経営のために、「長期的な修繕計画」「適切なメンテナンスを」と呼び掛けています。

では、なぜ計画的な修繕が必要なのでしょうか。


その理由についてガイドブックでは、写真付きで丁寧な説明をしています。
メンテナンスを怠ると、下記のような恐れがあります。

屋根・・・・・・・塗装や防水処理の劣化によって、漏水や雨漏りが発生する可能性がある。
外壁・・・・・・・ひび割れやタイルが浮いて、外観の劣化とともに、雨水が建物内部に浸水する可能性がある。
手すり・・・・・・錆や腐食によって、美観が損なわれるだけでなく、損壊・崩落の危険性が増大する。
給排水管・・・傷みや詰まりによって、水道水の濁りや室内に排水が逆流する可能性がある。
給湯器・エアコン・・故障しがちになって、入居者からのクレームが発生する可能性がある。

と、例示されています。適切なタイミングで適切な修繕、メンテナンスをしないでおくと、劣化がさらに進み、より大規模な修繕が必要になるばかりでなく、住宅としての魅力もなくなって競争力が低下する、といったいわば「負のスパイラル」に陥ってしまうと指摘しています。


それを避けるために、計画的な修繕が重要だとしています。賃貸経営のオーナーにとっても、長期修繕計画を立てて住環境の整備、確保することは、資産価値の維持、改善につながり、事業安定のためのポイントになります。

賃貸事業における修繕費について

賃貸経営というと家賃収入ばかりに目がいってしまいがちですが、経営の安定のためには、さまざまな経費を計画的に織り込んでおくことが大切です。

中でも修繕費は、経費の大きな割合を占めています。定期的、かつ計画的に修繕を実施して資産の価値を維持することが経営の安定にもつながります。いつ頃、どのような修繕が必要になるのか。国土交通省の「計画修繕ガイドブック」に沿ってみていきます。

屋根
塗装・補修

    1115年目

防水工事、葺き替え 2125年目
外壁
塗装 1118年目
タイル張り替え補修 1218年目
給湯器、エアコン
交換 1115年目
給排水管
高圧洗浄 5年目
取替 30年目
階段、廊下
鉄の部分の塗装  410年目
塗装、防水 1118年目


このように経過年数に応じて、さまざまな部分がいたんでくるので、維持管理のためには一定の工事と、それに伴う経費がかかってきます。

下の表をご覧ください。国土交通省がまとめている民間賃貸住宅の建築年別の戸数です。2001年から2005年でおよそ151万戸、2006年から2010年でおよそ183万戸となっています。

築年数10年から20年あまりであわせますと、約334万戸になりますが、10年を越えた物件は修繕が必要になってくる時期に差し掛かってきています。

《全  国》
総戸数 民間借家戸数
住宅総数 53,616,300 15,295,300
1981年  1990年 9,122,600 2,738,100
1991年  1995年 5,208,200 1,718,000
1996年  2000年 5,575,900 1,645,900
2001年  2005年 4,968,500 1,511,000
2006年  2010年 5,089,200 1,827,400
2011年  2013年 2,855,200 981,200
2014年 962,900 343,100
2015年 897,700 311,300
2016年 877,100 321,600
2017年 816,900 318,100
2018年1月  9月 522,500 206,900


(上記データの引用元)

  国土交通省 令和3年度 住宅経済関連データ(1.住宅整備の現状 > 世帯数、住宅戸数の推移 > 所有関係・建築時期別居住世帯のある住宅数


ところが、国土交通省の資料によれば、実際に長期修繕計画を立てているかどうか、を調べたアンケートで、個人のオーナーの場合、「長期修繕計画を作成していない」と答えた人が87.9%にのぼりました。

その理由は、資金的余裕がない、最低限の修繕で十分、知識等が不足、建て替えればよい、見合う家賃をとれない、などの理由を挙げていました。


(上記データの引用元)

  国土交通省 社会資本整備審議会 住宅宅地分科会 民間賃貸住宅部会(第5回)">社会資本整備審議会 住宅宅地分科会 民間賃貸住宅部会(第5回) > 民間賃貸住宅ストックの質の向上について

では修繕費とはどれくらいかかるのでしょうか。間取り別に修繕費はどれくらいかかるのか、また、それは家賃の何%に相当するのか、を一覧表にしました。
間取り別の修繕費の目安と家賃に対する割合
経過年数 1LDK2DK
20戸
鉄筋
コンクリート造
1K
10戸
鉄筋
コンクリート造
1LDK2DK
10戸
木造
1K
10戸
木造
510 1棟約170万円 1棟約70万円 1棟約90万円 1棟約70万円
1115 1棟約1090万円 1棟約460万円 1棟約640万円 1棟約520万円
1620 1棟約460万円 1棟約180万円 1棟約230万円 1棟約180万円
2125 1棟約2320万円 1棟約900万円 1棟約980万円 1棟約800万円
2630 1棟約460万円 1棟約180万円 1棟約230万円 1棟約180万円
30年までの合計 4,490万円 1,770万円 2,160万円 1,740万円
家賃収入総計 10億8000万円 ※1 3億6000万円 ※2 4億6800万円 ※3 2億8800万円 ※4
家賃収入に対する 修繕費の割合 4.16% 4.92% 4.62% 6.0%
※1 1室あたりの家賃収入ひと月15万円として計算
※2 1室あたりの家賃収入ひと月10万円として計算
※3 1室あたりの家賃収入ひと月13万円として計算
※4 1室あたりの家賃収入ひと月8万円として計算

この試算は修繕費については国土交通省が、標準的な工事をした場合の予算規模のイメージを示したものです。家賃については、筆者が設定したものです。便宜上、30年間満室で稼働し家賃も下落なしの設定で計算しています。

実際には、個々の物件ごとに修繕の時期や金額は違ってきますし、家賃も地域や立地条件などで当然変わってきます。
経年劣化による値下げ、空室の発生などの可能性もありますので、この試算はあくまでもイメージをつかむためのものとして見ていただければと思います。

また30年以上賃貸経営を続ければ、30年以降もさらに修繕費がかかってくることになります。

修繕工事の種類

修繕工事とひとことで言っても、さまざまなものがあります。

一般的な工事の用語としては「補修」「修繕」「改修」といった言い方がよく使われています。
  • 「補修」:応急処置的な工事、例えば水漏れがあったので防水材を塗り替えるとか、朽ちてしまった木材部分を交換するとか、比較的簡単な工事。
  • 「修繕」:できるだけ、建物を当初の状態にまで戻す工事のこと。経年劣化等で発生した不具合の修理や取替などを行い、性能や機能を回復させる工事。
  • 「改修」:建物の性能や機能を当初の状態よりもグレードアップし、資産価値を向上させるもの。
賃貸経営の観点からしますと、「機能維持の修繕」「価値向上の修繕」という分け方をすることもあります。
「機能維持の修繕」とは、上でいう「補修」や「修繕」のことをいい、「価値向上の修繕」というのは上でいう「改修」にあたる工事です。

「機能維持の修繕」というと、例えば、上記の「補修」の例以外にも、窓のガラスが壊れて交換する、雨漏りの修理、蛍光灯をLEDランプに取り換える、などが考えられます。

また、「価値向上の修繕」というと、例えば耐震性や断熱性の向上、非常階段の取り付けバリアフリー化、省エネ化のための工事などさまざまな種類があります。

計画的修繕の重要性について

国土交通省の「計画修繕ガイドブック」には以下のように書かれています。

修繕しないと、負のスパイラルに!

一般的に築年数が経つと、外観の劣化などにより、周辺の新築物件等と比べた競争力は低下してしまいます。これを放置しておくと、家賃収入にも響いてくるでしょう。

そうなると、いよいよ大規模な修繕が必要というときに、費用を確保することもできず、一層の老朽化が進み、さらなる競争力の低下...負スパイラルに陥ってしまい、人が住めない状態にもなりかねません。

すでに、お伝えしましたように、適切なタイミングで適切な修繕を、早めに実施することは、あとになってから、より大きな修繕が必要になるのを避け、大切な資産の価値を維持することにつながります。

そうすれば、周辺の物件と比較して競争力が低下することもなく、賃貸経営のリスクといわれる、家賃引き下げや空室の可能性を減らすことができます。

また長期的な修繕計画の重要性は、それだけではありません。修繕費は内容によっては高額になるケースもあり、いつ頃どれくらいの費用が掛かるのかを把握し、その資金をあらかじめ準備しておくためにも、長期的な計画は重要です。

資金手当てをどうするのか、積み立てておくのか、借り入れをするのか、など、お金の面でも万全の準備、検討に時間をかけることができるからです。

また修繕費用は、建物の価値を高める工事の場合など、耐用年数に応じて減価償却できる場合があります。経費として減価償却費が計上できると、所得税の申告にも関係してきますので、ここでも長期計画を立てておく意味があります。

また世代を越えて資産を継承していく場合には、修繕費の支出は、継承資産の圧縮にもつながりますので、事業継承の観点からも、修繕の規模やタイミングをどう計画していくかは大きなポイントになります。

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まとめ

賃貸経営は、20年、30年、あるいはもっと長い期間にわたるマラソンのようなものです。資産の価値を維持して、オーナーとして走り続けるためには、長期的な修繕計画が欠かせないことはお分かりいただけたと思います。


高齢化が進む日本では、最近「健康寿命」という考え方が広まっていますが、賃貸経営でいうと、いわば資産の「健康寿命」、あるいは「資産寿命」という考え方ができるかもしれません。

「健康寿命」は、高齢者が自立して健康に暮らせる年数のことをいいますが、「資産寿命」とは、オーナーが、所有する資産を劣化させることなく健全な状態で運用し、賃貸収入を生み出し続けて利益を手にできる年数、とでもいえるでしょうか。


長期修繕計画があれば、修繕工事そのものの長期的な展望だけでなく、資金の流れについても長期的に見ていくことを可能にします。

さらに、世代を越えて資産を引き継いでいく、言い換えれば世代を越えて「資産寿命」を延ばしていくためにも、まずは長期的な計画をたてて、賃貸経営というマラソンをどう走るのか、その道筋を「見える化」しておくことが、ゴールへたどり着くための第一歩です。

執筆者プロフィール
【「オフィス いけだ」主宰 池田 龍也】

マイアドバイザー®
ライフワークは「夢と笑顔あふれるシニアライフ」を実現すること。シニア世代がイキイキと暮らすにはどうしらいいのか、をテーマにファイナンシャルプランナーとして活動。
1981年 慶応大学経済学部卒業、2006年 CFP資格を取得、2013年 桜美林大学大学院老年学研究科修士課程修了、2014年 開業。
大学卒業後、放送記者として報道の現場で内外の経済情勢、最新動向について記事を多数執筆。開業後は独立系FPとして、おもにシニア層を対象にセミナー、相談などを通じて情報提供に努めている。

【保有資格】
・ファイナンシャルプランナー(CFP®
監修者プロフィール
【株式会社優益FPオフィス 代表取締役 佐藤 益弘】

マイアドバイザー®
Yahoo!Japanなど主要webサイトや5大新聞社への寄稿・取材・講演会を通じた情報提供や、主にライフプランに基づいた相談を顧客サイドに立った立場で実行サポートするライフプランFP®として活動している。
NHK「クローズアップ現代」「ゆうどきネットワーク」などTVへの出演も行い、産業能率大学兼任講師、日本FP協会評議員も務める。

【保有資格】
・CFP®・FP技能士(1級)・宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
・住宅ローンアドバイザー(財団法人住宅金融普及協会)

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