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建物賃貸事業のキホン~所得税対策編~

公開日: 2022.10.28

最終更新日: 2023.05.01

公開日:2022年4月18日

相応の資産を持つ方向けに、建物賃貸事業経営が節税になる話はよくあります。

一方でその仕組みや方法などについて、イマイチ分かりにくいという声が多いのも事実です。

そこで今回は、テーマを所得税に絞り、建物賃貸事業経営を通した節税の基本や損益通算、法人化などについて幅広くお伝えします。

1.建物賃貸事業における所得税計算

節税をしたい場合は、まずそもそもの税金上のルールを知ることが大切です。

同時に減価償却や修繕費など、建物賃貸事業ならではのルールも知ることが大切になります。

関連する小規模企業共済なども含めて、まずは浅くても全体的に幅広く知っておきましょう。

1-1.所得税の計算の基本

所得税とは、いわば「儲け・利益」に対して課せられる税金です。具体的には所得税とは、ざっくり以下の計算を元にして課税されます。

    • 収入-経費=利益×税率=所得税額


つまり収入に対して課税されるのではなく、収入から経費を差し引き、残った利益に税率をかけて課税されるのが所得税です。
視点を変えると、経費が多くなるほどに利益が小さくなり、総じて所得税も小さくなります。
利益に対して課税されるため、赤字なら課税されません。

日本の所得税は「累進課税制度」という、利益が大きいほど税率も大きくなる制度です。経費がかかるほど、税率が小さくなる可能性があります。

また、実際の支出を伴わない経費もあり、経費を小さくしたほうが必ずしも有利とは限らない点も、まずは知っておきましょう。

1-2.建物賃貸事業における経費について

所得税の計算上、経費にできるのは「その収入を得るのに必要な支出、または関連する支出」です。具体的には、建物賃貸事業の場合は以下のような支出が経費になります。

    • 固定資産税や都市計画税などの税金
    • 火災保険や地震保険などの損害保険料
    • 建物や大きな設備などへの減価償却費(詳細は後述)
    • 建物や小さな設備などへの修繕費(詳細は後述)
    • 不動産管理会社などへの管理費
    • 借り入れをした場合にはその利息


他にも一般的な事業と同じく、給与や接待交際費、通信費や消耗品費など、幅広い支出が経費の対象です。


初めて事業をする場合は、プライベートとの支出区分に注意するのは当然ですが、まずは経費に計上できるかどうかを意識しましょう。

1-3.減価償却について


多くの経費は、その経費がかかった事業年度に一括で経費として計上します。

しかし、建物など一部のものは数年をかけて経費として計上することが、税法上のルールです。このような経費計上を減価償却といい、対象となるものを減価償却資産といいます。


減価償却資産に該当するものには実際の耐用年数に関係なく、国が細かく税法上の耐用年数を定めており(法定耐用年数)、事業者は一定のルールに沿って経費化することが必要です。

この法定耐用年数は、人それぞれ置かれている状況や事業目的が違いますから、その期間によって良い悪いというものではありません。


減価償却費(毎年の事業年度に経費にできる金額)は、具体的には、以下のように計算します。

    • 新築物件の場合:取得価格÷法定耐用年数(取得価格×償却率)


「備忘価格(残存価格:1円)」には少し注意が必要です。たとえば取得価格1億円、法定耐用年数10年なら、毎年の減価償却費は1,000万円になります。しかし最後の10年目だけは正確にいえば、1,000万円から1円を差し引いた999万9,999円が減価償却費です。

これによって法定耐用年数経過後も帳簿上、対象物件のことが残り続けるので管理がしやすくなります。
(本記事では以後、備忘価格については省略させて頂きます)


中古物件の場合は、そのまま法定耐用年数を当てはめるのではなく、改めて以後の使用可能期間(減価償却期間)を見積もったうえで減価償却費を計算することが必要です。具体的には、新たな減価償却期間は以下のように計算します。

    • 減価償却期間:(法定耐用年数-経過年数)+経過年数×20%(端数切捨て)

 ※したがって、中古物件の場合の減価償却費は、取得価格÷減価償却期間


たとえば法定耐用年数が27年、経過年数が15年なら、「27年15年+3年」で15年が減価償却期間となります。
ただし、すでに経過年数が法定耐用年数を超えている場合は、「法定耐用年数×20%」が減価償却期間となります。


減価償却の計算方法には、以前は「定額法・定率法」の2種類がありましたが、平成28年の法改正により、現在は後述する設備も含めて「定額法」に一本化されています。
今後、新しい建物で賃貸事業を始める場合は、迷わず上記の定額法の計算式で減価償却費を計算しましょう。

    • 木造
      木造の法定耐用年数は、以下の通りです。
        • 木造・合成樹脂造り:22年
        • 木造モルタル造り :20年


      たとえば5,000万円で木造モルタル造りのアパートを取得した場合、毎年の減価償却費は5,000万円÷20年で250万円となります。

    • 軽量鉄骨造・重量鉄骨造
      鉄骨造のものは鉄骨の厚みによって、軽量鉄骨造(6mm未満)と重量鉄骨造(6mm以上)に分類されます。しかし税法上では軽量・重量という分類ではなく、より詳細な鉄骨の厚みによる分類です。
      具体的には、鉄骨造の法定耐用年数は、以下のようになっています。

        • 4mm以上の鉄骨造     :34年
        • 3mm超、4mm未満の鉄骨造 :27年
        • 3mm以下の鉄骨造     :19年


      たとえば1億円で4mm以上の鉄骨造マンションを取得した場合、毎年の減価償却費は1億円÷34年で294万1,176円(1円未満は切り捨ての場合)です。端数処理については諸説あるため、正しくは税理士にご確認ください。

    • RC鉄筋コンクリート
      (鉄骨)鉄筋コンクリート造のものは、他の造りのものとは少し違い、以下のように法定耐用年数が分類されています。

        • 住宅用   :47年
        • 飲食店用  :41年(一部のものは34年)
        • 店舗や病院用:39年


      たとえば5億円で住宅用の鉄筋コンクリート造の賃貸マンションを取得した場合、毎年の減価償却費は5億円÷47年で1,063万8,297円(1円未満は切り捨ての場合)です。

    • その他の住宅(建物)設備

      その他の建物の付属設備として、以下のものにそれぞれの法定耐用年数が定められています。

        • 電気設備(照明なども含む):15年(蓄電池電源設備は6年)
        • エレベーター       :17年
        • 給排水・衛生・ガス設備  :15年
        • アーケード・日よけ設備  :15年(主として金属製以外のものは8年)
        • 店用簡易装備       :3年

       


      実際の建物賃貸事業においては、他にも多くの減価償却の対象となる資産があります。国税庁のサイトに「主な減価償却資産の耐用年数表」がありますから、一度は対象資産と耐用年数を確認しておきましょう。

    • 修繕をした場合
      修繕は少し注意が必要です。

      建物賃貸事業において建物や設備を修繕した場合は、その事業年度に一括で修繕費として計上できることもあれば、減価償却資産として元の減価償却資産と同じ種類・法定耐用年数で減価償却費として(資本的支出という)計上することもあります。


      修繕費に当たるかどうかの一つの目安は、以下の通りです。

        • 一つの修理や改良が20万円未満
        • おおむね3年以内を周期として行われる修理や改良
        • 被災資産の原状回復のための費用


      たとえば外壁塗装の場合、ひび割れや傷、色あせ、雨漏りなどを補修して元通りにする場合は修繕費、装飾の追加やデザイン変更、より耐久性を高めるための塗装など、元々の資産価値をより高める場合は減価償却費と見なされるのが基本です。

      修繕費か資本的支出か、どちらに該当するかは他にも様々なルールや特例があります。判断が難しい時は、税理士などに相談するよう心がけましょう。

1-4.小規模企業共済について

小規模企業共済とは、文字通り小規模な企業の経営者や役員のための退職金制度です。毎月、掛金を拠出することにより、将来的な退職時や廃業時に一括または分割で相応のお金を受け取れます。

小規模企業共済の具体的なメリットは、以下の通りです。

1:月々の掛金の全額が所得控除になる(最大で年84万円。小規模企業共済等掛金控除)

2:共済金の一括受取時には退職所得控除が、分割受取時には公的年金等控除が使える

3:契約者は(掛金の範囲内で)低金利の様々な貸付制度が使える


1や2の節税目的のほか、執筆時点で確定拠出年金(DC)のように、修繕や補修を行うための準備資金を確保するための公的な積立制度がないため、上記メリットの3を利用して資金を確保しているオーナーもいるようです。


この共済制度は、たとえば会社員との兼業で建物賃貸事業をしている場合は加入できません。また掛金は個人的に支出する必要があり、事業上の損金や経費に当たらない点には注意が必要です。

制度を十分に理解し、納得のうえで節税などに活用していきましょう。

2.損益通算について

損益通算とは、たとえば建物賃貸事業が赤字に陥った場合、他の黒字収入(会社員なら給与など)において赤字分を差し引いて計算できる制度です。

これによって、他の黒字収入から発生する所得税を節税したり、すでに源泉徴収されている所得税の還付を受けたりすることができます。


そもそも賃貸事業においては、実際の支出を伴わない減価償却費や、不動産取得税などの諸経費の関係で初年度は申告上の所得が赤字になる場合があります。
こういった赤字は以後、数年にわたって繰り延べが可能です。他の黒字収入があるなら、賃貸事業は大きなメリットになる可能性があります。


ただし、以下の建物賃貸事業の赤字は損益通算の対象外です。

    • 主として趣味・娯楽・保養・鑑賞の目的である不動産貸付(たとえば別荘など)
      ※つまり通常の生活に必要ではない、元々は事業目的ではない不動産貸付
    • 土地に関する負債の利子


他の黒字収入がなければ損益通算はできません(純損失の繰越控除などは可能)。他の黒字収入から発生する所得税が少なければ、それだけ効果も弱くなります。 

しかしそれでも、実際の手取額よりも黒字でも減価償却などで税金計算上の所得が抑えられ、結果として所得税が抑えられる。また、それが赤字であれば他の所得と損益通算ができ、ひいては節税につながる可能性があるのが損益通算であり賃貸経営と考えましょう。

3.法人化について

建物賃貸事業を始める場合は、個人(事業主)としてスタートすることもありますし、節税などの観点から、法人化を視野に入れることもあるかもしれません。

まずは法人化の基本について、少しだけでも知っておきましょう。

3-1.法人化の意味合いについて


建物賃貸事業における法人化の大きな意味合いとは、収入の分散による節税と、より有利な税制の活用による節税です。個人には所得税が課せられますが、法人には所得税ではなく法人税が課せられます。それぞれの税率は以下の通りです。

<所得税>

課税される所得金額

税率

194万9,000円

5%

195万円329万9,000円

10%

330万円694万9,000円

20%

695万円899万9,000円

23%

900万円1,799万9,000円

33%

1,800万円3,999万9,000円

40%

4,000万円

45%



<法人税>(平成31年4月1日以後)

区分

税率

普通法人

資本金1億円

以下の法人等

年800万円以下の部分

15%(一部19%)

年800万円超の部分

23.2%

上記以外の普通法人

23.2%


収入を分散させれば所得税の税率が下がる可能性がありますし、分散させた法人としての利益に課せられる税率は、収入が多くなるほど個人より割安です。

これが、基本的な法人化の意味合いになります。

3-2.建物賃貸事業における法人化の種類

建物賃貸事業における法人化には、大きく以下の種類があります。

    • 管理型:建物を法人が管理する形にする。管理費の分だけ不動産収入を下げられる
    • 所有型:建物を法人所有(名義)にする。収入を給与にしつつ家族にも支払える

管理型法人は、いわば自分で自分に管理費を支払うかたちになります。管理費の分だけ自分は経費を増やせ、法人としてはその分だけ利益になるかたちです。

小規模企業共済と同じく、現時点で確定拠出年金(DC)のように、修繕や補修を行うための準備資金を確保する公的な積立制度がないため、管理型の法人を作って代用する方もいます。


所有型法人は、建物賃貸事業で得られる収入を最初から法人としての収入にするかたちです。自分はそこから給与というかたちで収入を得るため、収入の分散とともに給与所得控除が使えることになります。

家族がいる場合は、家族にも給与を支払うかたちにすることで、さらなる収入の分散や経費の増額を図ることも可能です。


事業が相応の規模になれば「所有型」のほうが節税効果は大きくなりがちです。後述する相続税対策にもなりますから、勉強を深めていきましょう。

3-3.法人化する効果について

法人化することでさまざまなメリットがある一方、デメリットもあるのが実情です。

いずれ個人から法人にするのか、最初から法人として建築・活動するのか悩む方も少なくありません。

簡単に、それぞれの場合の代表的なメリットを知っておきましょう。


<個人のメリット>

    • 帳簿や各種手続きが比較的簡単
    • 費用が割安、損益通算もできる
    • 相続において債務控除できる


<法人のメリット>

    • 所得を分散でき、それだけ税率も下げられる
    • 個人とは違った相続税の対策ができる
    • 個人より長期の欠損金の繰越控除ができる


税率を見比べると、課税所得が900万円を超えると法人税のほうが割安になっています。また年収1,000万円というのは、一つの区切りとして考えやすい数字です。

このため一般的に、年収9001,000万円を超えた頃には法人化したほうが得とされています。

収入の分散の観点から、既婚者や成人したお子様がいる方なら尚更ですが、最初からこの年収水準を狙うのかどうかで法人化を考えるのも一つの目安です。

3-4.相続税対策について

個人でも賃貸物件を建てることで、十分な相続税対策になります。所有型の法人を設立して不動産を法人名義にすれば、以後の賃料収入は法人に入るため、将来的な相続財産の圧縮が可能です。

法人名義にした不動産は(株式評価になって)、個人所有の状態より評価が割安になりやすく、個人とは、また違った相続税対策が可能になります。


相続税対策として所有型の法人を設立した場合、建物賃貸事業にかかるアパートローンが債務控除の対象外になる点には注意が必要です。設立後3年以内に相続が発生した場合は、不動産評価が割高になることもあります。メリットもあるものの、リスクもあります。

検討の際には税理士などの専門家からのアドバイスも参考にしましょう。


個人から法人へ名義を換えるには、大きく「贈与・売買・出資」の方法がありますが、いずれも相応の費用や税金が必要になります。場合によっては、節税額を上回る損がでる可能性もありますから、なるべく頼れる専門家やパートナーと相談のうえで判断しましょう。

4.まとめ

目的によって、用いる手段は様々です。ライフプランニング、現状分析、対策検討など、経験やノウハウを豊富に持つ専門家に相談してみるだけでも無駄にはならないといえます。


まずは自身での勉強も深めつつ、頼れるパートナー探しにも力を入れましょう。


以上

執筆者プロフィール
【山本FPオフィス 代表 山本昌義】

マイアドバイザー®
商品先物会社、税理士事務所、生命保険会社を経て、2008年8月8日に開業。
現在は日本初の「婚活FP」として、恋愛・婚活・結婚・離婚×お金をメインテーマに活動中。婚活中の方や新婚夫婦、または独身を貫きたい方など、比較的若い方向けのご相談や執筆、講演を行っています。趣味は漫画(約6,000冊所有)。

【保有資格】
・CFP®(婚活FP)

監修者プロフィール
【株式会社優益FPオフィス 代表取締役 佐藤 益弘】

マイアドバイザー®
Yahoo!Japanなど主要webサイトや5大新聞社への寄稿・取材・講演会を通じた情報提供や、主にライフプランに基づいた相談を顧客サイドに立った立場で実行サポートするライフプランFP®として活動している。
NHK「クローズアップ現代」「ゆうどきネットワーク」などTVへの出演も行い、産業能率大学兼任講師、日本FP協会評議員も務める。

【保有資格】
・CFP®・FP技能士(1級)・宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
・住宅ローンアドバイザー(財団法人住宅金融普及協会)

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