日銀 マイナス金利政策を解除!賃貸経営への影響は?
公開日: 2024.04.02
最終更新日: 2024.04.03
2024年3月19日、日銀がマイナス金利政策を解除しました。
政策金利の目標を従来のマイナス0.1%から0.1%に引き上げたということです。
2016年以来8年振りに政策金利を正常化させることで、今後、世の中に様々な影響が出てくるはずです。
中でも賃貸オーナーにとっては、建物賃貸事業経営の3大要素である「建築費・金利・家賃」との関連性が気がかりでしょう。
そこで今回は、マイナス金利政策の中身と、それによる建物賃貸事業経営の3大要素への影響について、一つずつお伝えします。
目次
1.日銀のマイナス金利政策とは?
そもそもマイナス金利政策とは、「銀行が日銀にある自分自身の口座にお金を預けた場合、通常なら金利がもらえるところ、マイナス金利下では逆に金利を支払うことになる」というものです。
こうすることで日銀は、銀行が日銀の口座ではなく、世の中に多くのお金を(安く)貸し出し、皆がそのお金を消費することで、日銀が掲げた2%の物価上昇や経済の活性化を期待していました。
マイナス金利が導入された2016年当時は、いわゆる黒田バズーカといわれる大きな金融緩和策を取っても、景気の先行指標である株価などは急騰しましたが、肝心の物価上昇についてはできませんでした。
結果として、数字的には経済成長をしていても、多くの方が景気の良さを実感できないことが問題視されていた時期ともいえます。
日銀の目論見通り、マイナス金利政策導入後は一段と低金利の時代になりました。
例えば、住宅ローンなどは極めて割安な状態になりました。
ただ、代わりに銀行の収益力低下や年金基金の運用力低下も発生した状況でした。
1-1.マイナス金利解除に至った経緯
マイナス金利政策を解除するに至った理由は、まず日銀が目指していた「2%の安定的な物価上昇」が見通せるようになったからでしょう。
2020年以降の新型コロナウィルスによるパンデミックによって停滞していた経済が、時を経て回復過程に入ってきました。
また、2023年・24年と物価上昇に合わせた「賃金の上昇」も顕在化し、「経済の活性化」が見通せるようになったことも要因です。
執筆時点では賃金の上昇割合よりも物価の上昇割合のほうが速いものの、徐々に賃金上昇が物価上昇に迫ってくるものと思われます。
最終的には日本経済が長く続いていたデフレ不況から脱出できるようになる...と見通しているのです。
2.金利と物価の関係性とは?
金利は需要と供給の関係のほか、さまざまな要因で変化します。
その要因の一つが物価であり、「金利が上がると物価も上がる」のが基本です。「物価が上がると金利も上がる」ほうが分かりやすいかもしれません。
例えば、今までなら1億円で買えていた賃貸物件が1億1000万円に値上がりしたらいかがでしょうか。
これを借入で実行しようとしていたなら、当然に1000万円多く借り入れる必要が出てくるため、こういうケースが増えることで金利が上がります。
これが、金利と物価の関係性の基本です。
金利が先に上昇した場合は、金利が上がる=資金需要が高まっている=購買意欲が高まっているわけですから、やはりいずれは物価が上昇する傾向にあります。
金利はさまざまな要因で変動しますから、必ずしも基本通りに変化するわけではありませんが、「そうなる可能性が高い」という程度に、原理原則を押さえておきましょう。
3.建物賃貸事業の収益性を決める3要素について
冒頭でもお伝えした通り、建物賃貸事業の収益性は「建築費・金利・家賃」の3要素で決まってきます。
(政策)金利が上昇すると、自然と建築費(物価)も上昇することになります。また賃貸経営に必要なアパートローンなどの金利も上昇する可能性が高く、(最終的に)家賃も上昇する傾向です。
建築費・金利・家賃の3要素は、一斉に変動するわけではありません。
一般的に、建築費は金利(≒経済変動・景気変動)に先行して、金利はそのまま一致して、家賃は金利に遅れて変動するのが基本です。
また建物賃貸事業の今後の(予定している)経営期間によっても、影響度合いは変わってきます。
4.建築費(物価)・金利・家賃への影響
マイナス金利が解除され、政策金利が上昇する局面においては、建築費も金利も家賃も、総じて上昇する可能性が高いといえます。
ただ、これらの上昇が、必ずしも良いことというわけではありません。
建物賃貸事業の収益性を決める3要素について、一つずつ解説します。
正しく状況を理解し、今後の賃貸経営に活かして下さい。
4-1.建築費への影響は?
政策金利の上昇に伴って、建築費は上昇する可能性が高いです。建築費は建物賃貸事業においてコストですから、上昇はマイナスに働きます。
なお、最近の建築費の動向は、一般財団法人建物物価調査会の2024年2月「建物物価建築費指数」によると、以下の通りです。
出典:一般財団法人建物物価調査会2024年2月「建物物価建築費指数」
そもそも建築費はコロナ以降、急激な値上がりを見せていました。それがそろそろ落ち着くのではないかと思われていましたが...ここから一段と上がる可能性が出てきたということです。
なお、金利が上がる状況下は賃金も上昇する局面となります。
サラリーマンの方にとっては嬉しい状況ですが、建物賃貸事業においては建物の資材だけでなく「職人の賃金」も上昇する、ひいてはさらに建築費コストが増す可能性が高い状況です。
4-2.金利への影響は?
政策金利の上昇は、アパートローンなどの金利上昇にも繋がります。
金利は建築費と同じく、建物賃貸事業においてはコストですから、やはり上昇はマイナスに働きます。
なお、近年の各金利動向は以下の通りです。
出典:住宅金融支援機構 賃貸住宅融資金利「参考金利推移」、日本銀行「長・短期プライムレートの推移」により筆者作成
長期金利については2017年頃から少しずつ上昇基調が出ていましたが、短期金利についてはほぼ変動がありませんでした。
しかし、今回のマイナス金利政策の解除は、まさに短期金利に直結する内容です。2016年にマイナス金利政策が導入された時も短期金利は変わらず、今回の政策もあくまで「マイナス金利をゼロ金利に戻すだけ」ですから、同様に短期間で一気に金利が上がるような事態は考えにくいと思います。
実際、日銀もそのような事態にならないよう注視している様子です。
ただし、今回のマイナス金利政策の解除は、「今後のさらなる(政策)金利の上昇の序章」となる可能性を秘めています。
そういう意味からも、変動金利でアパートローン等を利用している方は注意が必要です。
4-3.家賃への影響は?
(政策)金利の上昇は、家賃の上昇にも繋がる可能性が高いでしょう。家賃の上昇は純粋に収益性の向上に繋がりますから、建物賃貸経営にとってプラスに働きます。
ただし、家賃変動は経済(景気)変動に対して遅れる傾向な点に注意しましょう。
全国宅地建物取引業協会連合会、不動産総合研究所の2023年「不動産市場動向データ集」によると、東京23区の賃料推移は以下の通りです。
出典:全国宅地建物取引業協会連合会、不動産総合研究所2023年「不動産市場動向データ集」
賃料はコロナ以降(ファミリータイプを除いて)、東京23区でも上昇が鈍化していました。今回のマイナス金利政策の解除がキッカケとなり、また上昇基調に戻る可能性があります。
ただし現状、賃金上昇が遅れている傾向です。家賃上昇の具合によっては賃金と比べて割高感が出てしまい、逆に入居者離れを起こす可能性が否めません。
家賃を上げる場合は、頼れる不動産業者とも相談しながら、慎重に事を進めましょう。
4-4.実際にどのような影響が出る?
参考までに、一つの例を示したいと思います。
現状、以下のような賃貸経営をしていると仮定します。
建築費:新築の木造アパート...1億円(20戸、満室)
借入 :1億円(35年返済、変動金利2%)...月約33万円、年396万円≒400万円返済
家賃 :1戸7万円(総額140万円、年1680万円)
維持費:年400万円
※その他は考慮しない
家賃収入 |
1680万円 |
運営費用 |
▲400万円 |
ローン返済 |
▲400万円 |
概算損益 |
880万円 |
これが仮に、それぞれ以下のように(10%)数値が変わると、それに伴って経営状態も以下のようになります。
建築費:新築の木造アパート...1.1億円(20戸、満室)
借入 :1.1億円(35年返済、変動金利2.2%)...月約38万円、年456万円≒460万円返済
家賃 :1戸7.7万円(総額154万円、年1848万円≒1850万円)
維持費:年440万円
※その他は考慮しない
家賃収入 |
1850万円 |
運営費用 |
▲440万円 |
ローン返済 |
▲460万円 |
概算損益 |
950万円 |
変化前との差 |
+70万円 |
結局のところ、建築費や金利の上昇は気になるところですが、合わせて家賃も上げられるようであれば、そこまで恐れるものではないといえます。
ただし、家賃変動は経済変動に遅れる傾向ですから、当面の経営状態は悪化するかもしれません。
そして少なくとも、より高い家賃を安定して得るためには、入居者のニーズを見据えたプランニング・家賃設定が大切になります。
それぞれがどの程度上がるか、上げられるかは未知数です。
これから新規で建物賃貸事業を始めようか検討されている方は、しっかりタイミングを計りましょう。
5.どうせやるなら今が良い?
今回、マイナス金利政策が解除されました。
これによって建物賃貸事業の収益性に大きく関係する3要素「建築費・金利・家賃」のすべてが、上昇する可能性が出てきています。
プラス要因となる家賃上昇はともかく、マイナス要因となる建築費と金利の上昇が気になるところです。
将来的なコスト上昇が考えられる状況のため、建物賃貸事業をいつか始めるなら早いほうが良いともいえます。
頼れる不動産業者にも相談し、まずは土地診断や所有賃貸建物の診断、あるいは相続診断などから始めるタイミングを模索していきましょう。
■監修者プロフィール
株式会社優益FPオフィス 代表取締役
佐藤 益弘
マイアドバイザー®
Yahoo!Japanなど主要webサイトや5大新聞社への寄稿・取材・講演会を通じた情報提供や、主にライフプランに基づいた相談を顧客サイドに立った立場で実行サポートするライフプランFP®として活動している。
NHK「クローズアップ現代」「ゆうどきネットワーク」などTVへの出演も行い、産業能率大学兼任講師、日本FP協会評議員も務める。
【保有資格】CFP®/FP技能士(1級)/宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士/住宅ローンアドバイザー(財団法人住宅金融普及協会)
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