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不動産投資で法人化するメリットは?行う手続きや法人切り替えの目安

公開日: 2022.10.28

最終更新日: 2024.09.04

不動産投資によって安定した売上を得られるようになると、法人化すべきかどうか考える方も多いでしょう。

法人化には税負担の軽減や経費の範囲拡大など、さまざまなメリットがあります。

しかし、法人化の手続きは複雑なので、しっかりと手順を理解しておくことが大切です。

そこで今回は、不動産投資の法人化を検討する際の判断基準から、実際の手続きの流れや法人化の目安について解説します。

目次

1. 不動産投資を法人化するメリット

1-1.課税額が少なくなるケースがある
1-2.経費を計上しやすくなる
1-3.欠損金の繰越期間を長期化できる
1-4.相続対策ができる
1-5.所得の分散ができる

2. 不動産投資を法人化するまでの手順

Step1.法人の種類を決める
Step2.会社概要を決定する
Step3.印鑑を用意する
Step4.定款を作成する
Step5.登記書類を作成する

Step6.法務局で設立登記を行う

Step7.法人の開業届を提出する

Step8.個人事業の廃業手続きを行う

3. 法人化した後の手続き

3-1.税務署と都道府県税事務所に書類を提出する
3-2.年金事務所に書類を提出する
3-3.労働基準監督署とハローワークに書類を提出する

4. 不動産投資の事業を法人化するかどうかの基準

4-1.現在の課税所得が900万円以上の場合

4-2.今後の賃貸事業を拡大したい場合

4-3.経費計上したい費用の範囲を広げたい場合

5. 不動産投資の法人化はメリットになるタイミングが重要

5-1.法人設立までに手間がかかる

5-2.会計処理が複雑になる

5-3.赤字でも法人住民税がかかる

5-4.代表になってもお金を自由に使えるわけではない

6. 不動産投資の法人化はメリットになるタイミングが重要

1.不動産投資を法人化するメリット

はじめに法人化によるメリットを5つ紹介します。

1-1.課税額が少なくなるケースがある

法人と個人事業主では、所得に対して課せられる税金の額が変わるケースがあります。

法人には法人税、個人事業主には所得税が課せられますが、法人税と所得税は税率の上がり方が異なっているためです。

たとえば所得税は累進課税が適用されますが、課税対象となる所得が900万円を超えた場合、税率が大きく上がります。

不動産所得は他の所得と合算され、最高で45%の税率が適用されるので、大きな負担になることもあるでしょう。

一方、法人税の場合、資本金1億円以下であれば税率は最大「23.20%」になるため、所得の増加によって税負担が大幅に増えるリスクを軽減できます。


所得税の区分

所得税の税率

法人税の区分

※資本金1億円以下

法人税の税率

1,000円 から 1,949,000円まで

5%

800万円まで

15%

1,950,000円 から 3,299,000円まで

10%

3,300,000円 から 6,949,000円まで

20%

800万円超

23.20%

6,950,000円 から 8,999,000円まで

23%

9,000,000円 から 17,999,000円まで

33%

18,000,000円 から 39,999,000円まで

40%

40,000,000円 以上

45%

 

 

1-2.経費を計上しやすくなる

法人は個人事業主よりも、経費計上できる範囲が広くなります。

たとえば事務所の賃料、従業員の給与、交通費、広告宣伝費、生命保険の保険料などを経費として計上できます。

その他、法人所有物件の管理や運営に関連する費用であれば、大部分が経費として認められるでしょう。

さらに法人名義にすると、個人では難しい大型の設備投資なども実施しやすく、それらの減価償却費も経費として計上できます。

ただし、経費の計上には適切な根拠と証明が必要なので、正確な経理処理が求められます。

1-3.欠損金の繰越期間を長期化できる

不動産投資を法人化すると、欠損金の繰越期間を長期化できるようになります。

個人の場合、不動産所得で生じた赤字は3年間しか繰り越せませんが、法人の場合は最長10年間の繰越が可能です。

特に初期費用が大きい不動産投資では、大きなメリットになるでしょう。

たとえば物件購入直後は支出が多く、赤字になりやすい傾向がありますが、将来的に黒字化した際、過去の欠損金と相殺して課税所得を減らして税負担を軽減する、などの活用方法が考えられます。

 

1-4.相続対策ができる

法人化により効果的な相続対策を行うことができます。

個人で大規模な土地や建物を所有している場合、相続時に高額な相続税がかかる可能性があります。対策としては個人名義で現金を使うほか、借入するなどいくつかの方法がありますが、その1つ     「法人化」です。          

たとえば自分の家族を法人の役員にして給与を支払うことで、個人の財産を減らし相続財産を抑えることができます。

また、法人の株式を生前に少しずつ贈与することで、相続財産を分散させることも可能です。

ただし、相続税対策は計算が複雑で長期的な計画が必要なため、専門家のアドバイスを受けながら慎重に進めることが重要です。

 

1-5.所得の分散ができる

所得の分散ができることも、法人化によるメリットの一つです。

個人で不動産賃貸業を行う場合、家賃収入などの利益がすべて個人の所得となるので、高い税率が適用され、所得税額が高くなりがちです。

しかし、法人化すると、所得を分散させることが可能になります。

たとえば家族や親族を従業員や社員にし、不動産収入の一部を社員の給与所得とすることで所得を分散させられます。

社員への給与は前述したように経費として計上できるため、所得を家族や親族に分散しながら、法人としての税負担を軽減できる可能性があります。

2.不動産投資を法人化するまでの手順

アパート経営やマンション経営で法人化するということは、


個人ではなく法人(プライベートカンパニー)として資産管理や不動産投資をしていくことを指します。
投資家である不動産オーナーは法人から役員報酬を得ることになります。

以下に不動産投資で法人化するまでの手順を紹介するので、現在不動産経営を行っている方や、これから副業として賃貸不動産で収入を得たいと考えているサラリーマンの方などは、ぜひ参考にしてください。

Step.1法人の種類を決める

最初に設立する法人の種類を決めます。法人化する場合は株式会社が一般的ではありますが、ほかにも「合同会社」「合資会社」「合名会社」など複数の種類があります。

それぞれの会社の種類には、設立するまでの手続きや費用、税制、要件などに違いがあります。具体的には下記表をご覧ください。

Step2.会社概要を決定する

法人の種類を決めたら、次に設立する会社の概要を定めます。

下記が概要の内容です。

・商号
・本店の所在地
・資本金の額
・発起人(出資者)
・各発起人の出資額
・目的


但し、設立する会社の種類によってはさらに決めておくべき概要があります。

例えば、株式会社を設立する場合は取締役を1人以上置くなどの規定があることを覚えておくと良いでしょう。

Step3.印鑑を用意する

法人の設立に必要な印鑑を用意します。

・代表印
・銀行印
・社印


代表印は契約書の押印や会社設立の際に登記申請書に捺印する際などに使います。


代表印を作成する際の注意点はサイズです。
1辺の長さが1cmを超え、3cm以内の正方形に収まる印鑑を使用すると定められているため、間違わないようにしましょう。


銀行印は銀行口座の開設に必要です。社印は主に領収書や請求書の押印に使用され角印とも言います。

代表者印と銀行員、社印が3点セットになって販売されていることも多いため、3点セットの購入をおすすめします。

Step4.定款を作成する

定款とは法人を運営していくうえでの基本的ルールを定めたもので、会社法に則って作成し法人を設立するにあたって必要な内容を定義します。

内容はStep2で決めた内容と一部重複する部分もありますが、会社の商号、本店の所在地、代表者の氏名と住所、出資の財産と金額などを記載します。

定款の作成は難易度が高いため、司法書士に作成を依頼するのが一般的です。

Step5.登記書類を作成する

登記書類とは法人設立にあたって提出する書類の総称です。

・資本金の払込証明書
・就任承諾書
・役員全員の印鑑証明書
・印鑑届出書
・登記申請書


上記のように種類が多く複雑なので、定款と同様に司法書士に委託しても良いでしょう。

Step6.法務局で設立登記を行う

提出書類が準備できたら法務局で必要書類(登記書類)を提出して手続きを行います。

手続きの方法はオンラインとオフラインの2つの方法がありますが、初めての場合は書類等を窓口で対面で確認や相談しながら手続きを進められるオフラインがおすすめです。

また、登記費用が発生するので事前に金額を確認しておきましょう。

Step7.法人の開業届を提出する

司法書士による設立登記が完了後、税務署で開業届を提出します。
開業届が受理されると法人化が完了します。
開業の手続きで必要となる書類は下記の通りです。


・登記簿謄本
・定款の写し
・株主名簿の写し
・会社設立時の貸借対照表
・出資者の氏名、出資金額の証明書類


開業届と併せて提出する書類は決められているため確認しておくことをおすすめします。

Step8.個人事業の廃業手続きを行う

これまで行っていた賃貸経営等の不動産事業を法人に引き継ぐため、所轄税務署と管轄の都道府県税事務所に廃業届を提出します。

廃業した年の事業所得の確定申告も行う必要がある点に注意しましょう。

3.法人化した後の手続き

ここまで不動産投資で法人化する方法、手順を説明してきました。法人化した後も必要な手続きがあるため、それぞれ説明していきます。

3-1. 税務署と都道府県税事務所に書類を提出する

法人税を支払うための手続きを行います。税務署には法人設立届出書と源泉所得税関係の届出書、消費税関係の届出書の提出が必須です。
また、必要に応じて青色申告の承認申請書や減価償却資産の償却方法の届出書などを提出します。

それぞれの書類の詳細については国税庁のWebサイトに記載されているため、確認しておくと良いでしょう。

【参考】「No.5100?新設法人の届出書類」(国税庁)

3-2. 年金事務所に書類を提出する

法人化すると社会保険の加入が必要となるため、健康保険と介護保険、厚生年金保険に加入する手続きを行います。
従業員が自分一人だけでも役員報酬として給料を受け取るためには社会保険への加入は必須になるため忘れずに手続きしておきましょう。

3-3. 労働基準監督署とハローワークに書類を提出する

従業員を1人以上雇用する場合は労働保険に加入する必要があるため、労働基準監督署とハローワークに届け出が必要です。

なお、ここでいう労働保険とは、労働者災害補償保険(労災保険)と雇用保険とを総称したものです。
労働基準監督署には労働保険成立届と概算保険料申告書を提出します。

ハローワークには雇用保険適用事業所設置届と雇用保険被保険者資格取得届を提出することで労働保険に加入できます

4.不動産投資の事業を法人化するかどうかの目安

不動産投資で法人化するには節税対策や事業拡大、経費計上の金額などのタイミングがあります。

所得税と法人税の比較からどのタイミングが目安となるのか説明していきます。

4-1.現在の課税所得が900万円以上の場合

保有する所有する物件により高い不動産所得が得られ、課税所得が900万円を超える場合、法人が納税する法人税より個人事業主が納める所得税の税率が高くなります
法人化したほうが先に述べた法人税や法人住民税、住民税や相続税などの税金を抑えやすくなるケースが多いため、法人化するメリットがあるといえます。

自身の不動産投資における所得金額によって目安にしておくことをおすすめします。

【所得税率と法人税率の比較】

所得税の区分

所得税の税率

法人税の区分

※資本金1億円以下

法人税の税率

1,000円 から 1,949,000円まで

5%

800万円まで

15%

1,950,000円 から 3,299,000円まで

10%

3,300,000円 から 6,949,000円まで

20%

800万円超

23.20%

6,950,000円 から 8,999,000円まで

23%

9,000,000円 から 17,999,000円まで

33%

18,000,000円 から 39,999,000円まで

40%

40,000,000円 以上

45%

【出典】「No.2260 所得税の税率」(国税庁)
【出典】「No.5759 法人税の税率」(国税庁)


4-2.今後の賃貸事業を拡大したい場合

法人化することで銀行から融資を受けやすくなる可能性があります。
一般的に個人事業主よりも法人のほうが信用力が高いため、法人化することで金融機関の融資審査が有利に働くケースが多いためです。

また、法人名義で融資を受ける場合は、保証人を自分に設定できるメリットがあります。

一方、個人事業主では法人名義ではなく個人名義の手続きになるため、連帯保証人が必要があり、保証人となってくれる方を探さなければなりません。

4-3.経費計上したい費用の範囲を広げたい場合

個人の場合、経費として認められるのは「収益を生むために必要な支出」のみとされています。

役員報酬や給与の支払い、金融機関の取扱手数料などの経費は法人化することで経費計上できる項目が増えるため、経費計上したい項目を広げたい場合はメリットとなります。

5.不動産投資の法人化を検討する際の注意点


最後に不動産投資の法人化を検討する際に注意すべきポイントを4つ紹介します。

5-1.法人設立までに手間がかかる

法人設立の手順は専門性が高いため、司法書士に依頼する方が大半です。

特に初めて法人を設立する場合は、多くの時間と労力がかかるので、法人設立のノウハウを熟知した専門家のサポートが必須になるでしょう。

さらに登録免許税などの設立費用も考慮しなければなりません。

資本金とは別に、法務局や公証役場といった公的機関に支払う費用があるほか、司法書士への報酬なども加わるため、数十万円程度の費用が必要になるでしょう。

法人化する前に、初期の手間やコストを理解して、準備することが重要です。

また、賃貸経営では維持費や修繕費などさまざまな費用がかかるので、毎年のランニングコストも頭に入れたうえで検討するようにしましょう。

5-2.会計処理が複雑になる

法人化すると、個人事業主の時よりも会計処理が複雑になります。

法人は複式簿記による帳簿作成が義務付けられており、日々の取引を正確に記録する必要があるためです。

また、決算書の作成や法人税の申告など、定期的な会計業務も発生するため、知識のない方は税理士や会計士に依頼することになるでしょう。

そのため、税理士や会計士への報酬など、会計処理にかかる費用も算出しなければなりません。

5-3.赤字でも法人住民税がかかる

法人化すると、たとえ赤字経営であっても、一定の税金が課せられる可能性があります。

特に注意が必要なのが法人住民税です。

法人住民税には、法人税割と均等割があり、このうち均等割は赤字でも課税されます。

均等割の金額は自治体によって異なりますが、資本金や従業員数に応じて決まり、年間数万円から数十万円程度になることがあります。

そのため、不動産投資を始めたばかりで損失が大きい時期や、収入が安定しない時期は、法人住民税による税負担が重荷になる可能性があることを認識しておくべきでしょう。

5-4.代表になってもお金を自由に使えるわけではない

法人化により自分が代表者になったからといって、会社のお金を自由に使えるわけではありません。

法人と個人は別の主体であり、法人の資産を個人的な目的で利用することは認められていないためです。

たとえば法人の賃貸収入によって得た資金を、私的な旅行や趣味の費用に充てることは、税務上問題となる可能性があります。

基本的には役員報酬を除き、会社のお金を個人的に支出することはできないと理解しておきましょう。

法人化にはさまざまなメリットがありますが、個人事業主より厳格な資金管理が求められるため、適切な経営姿勢を持つことが重要です。

*役員報酬を除いて、会社の金を個人的に支出することはできない


6.不動産投資の法人化はメリットになるタイミングが重要

不動産投資における法人化は、課税所得が900万円を超えるケースなどで節税効果が期待できるほか、今後の事業拡大や経費計上の項目増加、資金調達にもメリットがあることを説明してきました。

一方で法人化するための手続きは複雑なので、プロである不動産投資会社や不動産管理会社などの業者や法人化に精通している司法書士、税金関係や会計上の悩みは税理士などの専門家に問い合わせたり、相談したりしながら検討し、進めることをおすすめします。

土地活用について無料で相談できる業者もあるため、法人化のメリットやデメリットを理解し、ランニングコストなどの必要経費、物件売却などの出口戦略もシミュレーションしながら判断するのが良いでしょう。

■監修者プロフィール

宅地建物取引士/FP2級
伊野 文明

宅地建物取引士・FP2級の知識を活かし、不動産専門ライターとして活動。賃貸経営・土地活用に関する記事執筆・監修を多数手掛けている。ビル管理会社で長期の勤務経験があるため、建物の設備・清掃に関する知識も豊富。

【保有資格】
・宅地建物取引士
・FP2級
・建築物環境衛生管理技術者