賃貸経営におけるインフレの影響を考える
公開日: 2022.10.28
最終更新日: 2022.11.11
最終更新日:2022年6月16日
2022年度に入ってからというもの、1万品目とも言われるほどさまざまなモノの値段が上がっています。これによって消費者からは多くの嘆きの声が聞こえますが、一方で事業者にとっても「モノが売れにくくなる」という懸念から、危機感が強まっているのが実情です。
そしてその事情は、もちろん賃貸業にもつながってきます。
そこで今回は、賃貸経営における昨今の物価上昇(インフレ)の影響について、基本と大局的な考察をお伝えします。
目次
1-1.建築費の上昇
1-2.インフレによって「家賃に回せるお金」が減る?
2-1.昨今のインフレの原因は
「戦争」による「原材料の高騰」・「海外との金利差」を原因とした「円安」
2-2.昨今の賃金の伸びは極めて悪い
2-3.今後も当面、厳しい経済環境が続く可能性が高い
3-1.コロナによる消費者の意向の変化
3-2.「エリアの選定」と「綿密な需要の調査」が極めて大事
1.インフレが与える賃貸経営への影響について
家賃は、物価と連動しているのが基本です。
この30年は物価が安定していた=大きな上昇はなかったので、家賃を据え置くことが普通でしたが、昭和の時代は物価が安定的に上がっていたので、更新の度に家賃は上がることが普通でした。
つまり、インフレ下では、家賃を上げやすくなるメリットがあります。
しかし同時に、デメリットになる側面もありますから、インフレのリスクについてしっかり知っておきましょう。
1-1.建築費の上昇
まず、インフレ下で真っ先に気を付けるべきことは「建築費の上昇」です。
賃貸物件を建てるには様々な原材料が必要になります。インフレによって原材料の値段が上がれば、おのずと建築費も上がり、イニシャルコスト=初期費用が膨らむことになります。
実際に、建物物価調査会の2022年5月「建物物価建築費指数」によると、以下のような結果になっています。
出典:建物物価調査会 2022年5月「建物物価建築費指数」
建築費というイニシャルコストが上がればその分だけ、その後の賃貸経営にもマイナスの影響を及ぼします。
そして、その影響は設備費用だけでなく、将来の修繕費や原状回復費などのランニングコストにも影響を与えます。
大家としては、不可避の補修以外はインフレが落ち着くまで待ちたいかもしれませんが、経験則上、物価は一度上がると中々下がりづらいと言われています。
ですから、インフレ下では、物価が低い早期になるべく建築してしまうほうが有利ということになります。
1-2.インフレによって「家賃に回せるお金」が減る?
インフレ下では、「家賃に回せるお金が減りかねない」という点もリスクです。
入居者は家賃以外にもさまざまな局面でお金を使います。つまり、インフレによって家賃以外に必要な費用が増えれば、その分だけ家賃に回せるお金が減る可能性が高まることになります。
また、物価が上がっても同じ水準で収入が増えれば問題ありませんが、残念ながら収入は中々上がらない時代です(詳細は後述)。
さらに物価が上がれば、先々を見据えた「預貯金」も今まで以上に多くの金額を積み上げておく必要がありますから、目先の家賃に回せるお金が減ってしまう可能性が高まります。
一般的な商品では原材料費(原価)が上がれば値段も上がるのが基本です。賃貸経営でも原材料費が上がれば家賃を上げるのが必然といえます。
しかし、あらゆるモノの値段が上がるインフレ下においては、消費者はむしろ家賃を上げたくないという気持ちになりますから、ソフト・ハード両面で新たな付加価値を付けていくなど上手に家賃を上げる必要があります。
建築費というコストは上がるのに家賃は上げにくいというインフレの悪影響について、しっかり理解しておきましょう。
1-3.金利安とインフレによる納得感の影響に期待
賃貸経営は、銀行などから融資を受けて、事業を進めている方がほとんどでしょう。
融資を受けるに際して気になるのが「金利」です。幸いなことにその金利は現在、最低水準となっています。
住宅金融支援機構(フラット35)の2022年「民間金融機関の住宅ローン金利推移」によると、以下の通りです。
(賃貸経営で使うローンはアパートローンであり、金利も住宅ローンより少し割高ですが、基本的な値動きは同じものになります)
出典:住宅金融支援機構 2022年「民間金融機関の住宅ローン金利推移」
長年、金利は政策(ゼロ金利政策・マイナス金利政策)によって抑えられてきましたが、最近は海外の経済活動の再開に伴い金利が上昇しています。
そもそも、経済の原則として、物価が上がれば、購買意欲が上昇し、お金を欲する=借りる人が増えて、金利も上がることになります。
今後も金利は上昇基調だと思われるのであれば、執筆時点(2022年5月末)で未だに金利は低水準なので、金利や物価の上昇≒インフレの影響が表れる前に賃貸経営を始めたり、早期に補修をしたりしたほうが賢明かもしれません。
またインフレ下ではさまざまなモノの値段が上がります。
自分の建物の家賃だけを値上げすると避けられる可能性が高いですが、満遍なく値段が上がる状況下では一定の納得感(やむなし感?)もあるものです。
そういう意味で、インフレ下では家賃を上げやすいのも確かな側面といえます。
最終的に家賃は「周辺の家賃相場」に強く影響されますから、周辺の家賃動向を注視しておきましょう。
2.インフレや経済環境の今後の見通しについて
賃貸経営は長期的な投資ですから、現状だけで無く、将来の見通しも含め、検討する必要があります。
将来の見通しは、現状の原因やその背景を知ることで想定できます。この原因や背景が変われば、状況変化が起きるからです。
2-1.昨今のインフレの原因は「戦争」による「原材料の高騰」・「海外との金利差」を原因とした「円安」
結論からいえば、昨今のインフレの原因は、ロシアのウクライナへの侵攻=戦争により需給関係が逼迫し「原材料が高騰した」こと、
日本の低金利に対して諸外国の金利が上昇傾向のため金利差が広がり、急激な「円安が進展した」ことが重なったこととされています。
それぞれの原因をさらに簡単に掘り下げると、以下のようになります。
戦 争:ウクライナ戦争による物流の停滞と一部の需要の高騰(需要が高まれば値段も上がる)
↓
原材料:コロナ・パンデミックによる物流の停滞(供給が不十分になったことで価格が上昇)
海外との金利差:コロナ・パンデミックによる経済停滞からの経済回復の度合により金利差が発生&拡大
↓
円 安:特に金利の高い機軸通貨:米ドルが買われて、日本円が売られた
コロナによる影響は、今後も当面続くと見られています。
また、ウクライナでの戦争が早期に終結したとしても、その影響がいつまで続くかは未知数です。
アメリカとの金利差も、コロナによって日本経済が停滞している中では金利を上げにくい(上げたら返済中の方の負担が増してさらに経済が悪化しかねない)ため、やはり当面は続く可能性が高いと思われます。
2-2.昨今の賃金の伸びは極めて悪い
モノの値段が上がっても、同じ水準だけ収入が増えるなら誰も問題を感じません。
しかし、収入が変わらない中でモノの値段だけが上がると、少なくとも消費意欲を失ってしまうのが自然です。
そして、残念ながら、昨今の賃金の伸びは極めて悪い状況が続いています。アメリカでも賃金の伸びが物価上昇に追い付かずに、生活が苦しくなっているという話も聞きます。
実際、厚生労働省の令和2年「厚生労働白書」によると、平均給与は以下のように推移しているのが実情です。
出典:厚生労働省 令和2年「厚生同労白書」
収入は増えるどころか、実際には約30年前より低い水準となっています。
最近になってようやく少し上昇基調が出てきましたが、このタイミングで起こっているのが昨今のコロナ騒動です。
一般財団法人住宅改良開発公社の令和2年「賃貸住宅市場の動向と将来予測調査」によると、新型コロナによって以下のような影響が出ています。
出典:一般財団法人住宅改良開発公社令和2年「賃貸住宅市場の動向と将来予測調査」
7割近い方には特に影響がない反面、3割程度の方は一定の収入減少があったという結果です。
ただでさえ収入が上がらない中、コロナによってむしろ下がっているのが一般消費者の経済背景という点を、しっかり理解しておきましょう。
2-3.今後も当面、厳しい経済環境が続く可能性が高い
先ほどお伝えした通り、現在のインフレは当面続く可能性が高いと思われます。
一方で消費者の収入面は、ここから急激に上昇するとは考えにくく、当面は今までと同じかそれ以上に停滞する可能性が高そうです。
総じて今後も当面、厳しい経済環境が続く可能性が高いといえます。
この背景と合わせて賃貸経営を考えると、インフレによって建築費は上昇するものの、やはり上昇分を単純に家賃に転嫁するのは簡単ではないと考えたほうが無難です。
しかし、かといって何の対策も取らなければ、そのままインフレによる悪影響を受けて経営状態が悪化しかねません。
専門家・専門業者にも相談しながら、存分に今後の建物賃貸経営についての対策を練りましょう。
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3.インフレを受けての今後の賃貸経営について
賃貸経営においてインフレは、悪影響となる可能性が高い出来事です。そしてインフレが発生すると、節約志向が高まるなどを筆頭理由に、消費者の意向や行動が変わることもあります。
改めて十分なマーケティングをして、最新の需要を的確に汲み取りましょう。
3-1.コロナによる消費者の意向の変化
先ほどお伝えした通り、今回のインフレの原因の一つは新型コロナです。
そして新型コロナの影響は、インフレ前から消費者の意向を変化させていました。一般財団法人住宅改良開発公社の令和2年「賃貸住宅市場の動向と将来予測調査」によると、最新の消費者の意向は以下のようになっています。
出典:一般財団法人住宅改良開発公社令和2年「賃貸住宅市場の動向と将来予測調査」
従来だと「駅・中心部との距離」を優先的に考える方が多かったですが、もっとも気にするのは「住宅の広さや間取り」、そして「家賃・管理費の負担水準」という結果です。これらは総じてテレワークの影響とともに、コロナによる先行き不安が影響していると考えられます。
今回のインフレによって、さらに家賃を見る目が厳しくなった可能性が高いです。
しかし一方で「駅・中心部との距離」が後退していることから、「少しくらい駅から離れていても気にしない」という方が増えた可能性も考えられます。
あくまで一つの考えですが、駅から少し離れている代わりに住環境が良く、それでいて家賃がさほど変わらない...といった物件が求められるかもしれません。
3-2.「エリアの選定」と「綿密な需要の調査」が極めて大事
たとえば、学生街と高級住宅街では、経済的な余裕具合が全然違います。また賃貸経営に限らず、供給が多い地域ほど値上げがしにくく、少ない地域ほど値上げしても消費者に受け入れてもらえる可能性が高いのが基本です。
このため、コロナに続けてインフレが起こっている今後は、今まで以上に「どのエリアで賃貸経営をするのか」というエリアの選定が重要になってきます。
そしてエリアの選定を含めて、綿密な需要の調査が極めて大事です。そもそも地域ごとに事情は大きく違うものですが、インフレによって事情に変化が起きた可能性があります。
先ほどの「駅・中心部からの距離」が後退していたのは、最たる例です。
インフレによってさらに消費者の目は厳しくなっている可能性が高いですから、専門家・専門業者の力も借りながら、限界まで消費者の需要・意向を汲み取るよう努めましょう。
4.まとめ
昨今のインフレは、建築費の上昇等に家賃の値上げが追いつくまでは建物賃貸経営に悪影響となる可能性がありますが、
その中でも、金利安などを中心に、早期に動くほど有利になる可能性も高いといえます。
ただしコロナに続けてのインフレで、今まで以上に消費者の選別は厳しくなる可能性が高いです。
賃貸経営の経験が豊富で、市場変化に対応してきた実績をもつ専門家・専門業者にも相談しながら、少しでも需要を汲み取る精度を高めましょう。
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マイアドバイザー®。Yahoo!Japanなど主要webサイトや5大新聞社への寄稿・取材・講演会を通じた情報提供や、主にライフプランに基づいた相談を顧客サイドに立った立場で実行サポートするライフプランFP®として活動している。
NHK「クローズアップ現代」「ゆうどきネットワーク」などTVへの出演も行い、産業能率大学兼任講師、日本FP協会評議員も務める。
【保有資格】
・CFP・FP技能士(1級)・宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
・住宅ローンアドバイザー(財団法人住宅金融普及協会)
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