経営者・個人事業主の方におすすめ。小規模企業共済とは
公開日: 2022.10.28
最終更新日: 2022.11.30
最終更新日:2022年3月17日
昨今では年金2,000万円問題やさまざまな税対策の話題が脚光を浴びています。本記事では企業の経営者、役員、個人事業主の方の退職・廃業後の年金資金準備として、また所得税対策にもなる「小規模企業共済」についてその内容、特長などをみていきたいと思います。
小規模企業共済とは
国の機関である独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営する小規模企業共済で、昭和40年に小規模企業の経営者、役員、個人事業主などのために作られ、年間最大84万円を所得控除でき、経営者、役員、個人事業主が退職・廃業した後の備えになる積み立てによる退職金制度であり、建物賃貸事業者においても広く活用されています。
<設立当時の設立趣旨>
小規模企業共済の設立趣旨には大きく以下のように2つ掲げられています。
- 小規模企業の経営者や個人事業主が廃業や退職の事態に陥った際に、その後の生活を安定させ、事業の再建に備えるため。
- 小規模企業経営者や個人事業主は一般の労働者・従業員と比べ、社会保険や労働保険など各種制度の恩恵を受けることが少ないことから、社会保障政策の不備を補完する機能を果たすため。
<加入者数の推移、運用残高など>
令和3年3月末現在、小規模企業共済制度の在籍人数は約153万人、資産運用残高は約10兆5,018億円となっています。
共済金の受給状況は(令和2年度実績で)共済金受給額約5,131億円、共済金受給平均額1,130万円、共済金受給者の平均在籍年数約19年となっています。
<加入資格>
次のいずれかに該当する場合に小規模企業共済制度に加入することができます。
- (1)建設業、製造業、運輸業、サービス業(宿泊業・娯楽業に限る)、不動産業、農業などを営む場合は、常時使用する従業員の数が20人以下の個人事業主または会社等の役員
- (2)商業(卸売業・小売業)、サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)を営む場合は、常時使用する従業員の数が5人以下の個人事業主または会社等の役員
- (3)事業に従事する組合員の数が20人以下の企業組合の役員、常時使用する従業員の数が20人以下の協業組合の役員
- (4)常時使用する従業員の数が20人以下であって、農業の経営を主として行っている農事組合法人の役員
- (5)常時使用する従業員の数が5人以下の弁護士法人、税理士法人等の士業法人の社員
- (6)上記①と②に該当する個人事業主が営む事業の経営に携わる共同経営者(個人事業主1人につき2人まで)
※1、 2つ以上の事業を行っている事業主または共同経営者は、主たる事業の業種で
加入することになります。
※2、「常時使用する従業員」に家族従業員、共同経営者(2人まで)は含みません。
※3、「会社等の役員」は、株式会社・有限会社の取締役または監査役の方、合名会社・
合資会社・合同会社の業務執行社員の方を指します。
(ただし外国法人の役員は除く)。
出典:中小機構WEB
小規模企業共済のメリット
小規模企業共済加入のメリットを掲げると主に以下のものがあります。
- 1.月々の掛金は1,000円から、加入後も掛金増減可能、全額所得控除
- 小規模企業共済の月々の掛金は1,000円から70,000円まで500円単位で設定でき、加入後も掛金の増額及び減額ができます。
また、掛金は所得税の確定申告の時に全額課税所得から控除できますので節税効果が期待できます。 - 2.共済金の受け取り方法は「一括」でも「分割」でも可能
- 共済金には満期や満額はなく、退職・廃業の時に受け取ることができ、共済金の受け取り方法として「一括受取」と「分割受取」「一括と分割の併用」があります。
なお、所得税課税の方法は共済金を一括で受け取った時は「退職所得」、分割で受け取った時は「公的年金等の雑所得」となります。 - 3.低金利の貸付制度が活用できる
- 小規模企業共済の契約者は掛金の一定範囲内で低金利という好条件で貸付制度が活用できます。(即日貸付も可能)
なお、種類としては以下のような貸付制度があります。
「一般貸付け」「事業承継貸付け」「廃業準備貸付け」「緊急経営安定貸付け」
「傷病災害時貸付け」「創業転業時・新規事業展開等貸付け」など-
最近の貸付条件(金利)は貸付制度によって年0.9%~1.5%の範囲で設定されています。
小規模企業共済の活用効果
- 1.節税効果を中小機構の加入シミュレーションから試算してみましょう。
- >中小機構のシミュレーション(外部リンク)
- 条件:年齢50歳の方が65歳までの15年間(181か月)、
月々50,000円の掛金で加入した時の節税効果
(所得税及び住民税の合計:概算)
加入前課税所得金額600万円・・・約18万円/年
加入前課税所得金額800万円・・・約20万円/年
加入前課税所得金額1,000万円・・・約26万円/年 - 2.上記加入シミュレーションは受け取ることができる共済金額も試算できます。
条件:年齢50歳の方が65歳までの15年間(181か月)加入した時の
受け取ることができる共済金の金額を計算してみると、
共済掛金 月々30,000円・・・共済金A(事業廃止等)6,070,200円
共済金B(老齢給付等)5,856,000円
月々50,000円・・・共済金A(事業廃止等)10,117,000円
共済金B(老齢給付等)9,760,000円
月々70,000円・・・共済金A(事業廃止等)14,163,800円
共済金B(老齢給付等)13,664,000円
以上のような結果となり、共済金の給付条件に沿って給付を受ければ
共済掛金以上のリターンが期待できます。- 3.小規模企業共済の契約者は掛金の範囲内であれば低金利で貸付制度が活用できます。
- 急速に起こるさまざまな事業環境変化に対応するためには低金利で即時に借入で
きることが求められます。このような時に小規模企業共済の「緊急経営安定貸付」を活用することができます。
<緊急経営安定貸付け>
- 借入限度額・・・掛金の範囲内(掛金納付月数により掛金の7~9割の範囲)で50万円以上1,000万円以内(5万円単位)となっています。
- 借入期間・・・借入金額に応じて、借入期間が変わり、500万円以下は36か月、505万円以上は60か月となっています。
- 返済方法・・・借入金の返済方法は6か月ごとの元金均等割賦償還となっています。
- 借入利率と利息の支払方法・・・金利情勢等により金利が変わり、現在年0.9%でとなっており、6か月分を前払いします。
<事業承継貸付け>
事業承継(事業用資産または株式等の取得)に要する資金を借入することができます。条件等は上記「緊急安定貸付け」と同じです。
まとめ
所得税節税対策としての小規模企業共済を見てきました。所得税の節税対策(いわゆる所得税法上の各種控除)は小規模企業共済等の掛金控除を含め15種類あります。
その各種控除は単体では大きな節税金額とはならないかもしれませんが、複数適用することができるのであれば合計額として大きなものとなり、よって所得税の節税効果も大きくなります。また、所得税が変化すれば住民税も変化します。
今後も税制改正等で税の計算方法が変わっていくと思われますので、所得税計算の仕組みと毎年の税制改正について常に動きをチェックしていただき、
小規模企業共済を活用いただければと思います。
マイアドバイザー®
飲食業をはじめ多業種の財務経理、株式公開予定企業などの経理業務構築、ベンチャーキャピタル投資事業組合運営管理を経て、2002年ファイナンシャル・プランナーとして独立。2005年株式会社くらしと家計のサポートセンター、NPO法人マネー・スプラウト設立。「家計も企業の経理も同じ」という考えを基本に、「家計」「会計」「監査」の3領域を活用した家計相談、会計コンサル、監査関連業務、講師・講演、執筆など幅広く活動。
【保有資格】
・日商簿記 1 級・税理士試験 3 科目合格(簿記、財務諸表、消費税)・CFP®
・1 級ファイナンシャル・プランニング技能士・プロフェッショナルCFO
マイアドバイザー®。Yahoo!Japanなど主要webサイトや5大新聞社への寄稿・取材・講演会を通じた情報提供や、
主にライフプランに基づいた相談を顧客サイドに立った立場で実行サポートするライフプランFP®として活動している。
NHK「クローズアップ現代」「ゆうどきネットワーク」などTVへの出演も行い、産業能率大学兼任講師、日本FP協会評議員も務める。
【保有資格】
・CFP・FP技能士(1級)・宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
・住宅ローンアドバイザー(財団法人住宅金融普及協会)
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