得なの?手続きは?みんなが集まる時期だから話しておきたい生前贈与
公開日: 2022.10.28
最終更新日: 2023.03.17
公開日:2019.12.23
通常保有している資産額によっては、相続時に高額な相続税がかかる場合もあります。そのため、相続よりも前に財産を譲る「生前贈与」を検討している人もいるでしょう。というのも、生前贈与をすることで、相続時に発生する税金を抑えられる可能性があるからです。そこでこの記事では、生前贈与に関しての概要や生前贈与の種類・仕組み、および注意点などを詳しく解説していきます。
生前贈与とは
生前贈与とは「生きている間に財産を贈与すること」です。生前贈与には色々な種類がありますが、まずは代表的な方法として以下2つを解説します。
項目 | 暦年贈与制度 | 相続時精算課税制度 |
---|---|---|
贈与者 | どなたでもOK | 60歳以上 |
受贈者 | どなたでもOK | 20歳以上の子・孫 |
控除 | 基礎控除 年間110万円(1人につき) | 特別控除:2,500万円まで |
税率 |
10%~55%(贈与額による) | 特別控除の2,500万円を超えた部分に一律20% |
相続時の扱い |
相続開始前3年以内の贈与財産は相続財産と見なされる | 贈与財産の全額が相続財産に加算、課税された贈与税額は控除 |
以下より、それぞれの概要とメリット・デメリットを解説します。
暦年贈与制度の概要とメリット・デメリット
暦年贈与制度は、1月1日~12月31日(1年)の間に「1人につき合計110万円以内の贈与」が非課税になる制度です。110万円を超えなければ贈与に税金がかからないので、非課税で財産を譲ることができます。
ただし、相続開始前3年以内の贈与については、相続時の財産と見なされるので注意しましょう。暦年贈与制度のメリット・デメリットは以下の通りです。
暦年贈与制度のメリット
暦年贈与制度を利用するメリットは、やはり「相続財産を減らすことができる」という点です。たとえば、現金6,000万円保有している場合で、妻と子供(1人)が相続人であれば220万円の相続税がかかります。
一方、この6,000万円の現金を、以下に合計7人110万円ずつ生前贈与しておくとします。
- 妻
- 子供(1人)
- 義理の娘(子の妻)
- 孫4人
つまり、保有している現金は6,000万円から5,230万円に減るので、相続時の相続税は104.5万円まで減額できるのです。
暦年贈与制度のデメリット
一方、暦年贈与制度のデメリットは「定期贈与」とみなされるリスクがある点です。というのも、暦年贈与制度を利用することで年間110万円までの贈与には税金が課せられませんが、毎年同じ金額の贈与を続けると「定期贈与」と見なされる可能性があります。
定期贈与とは、「一定期間において一定額の贈与を行うこと」であり、定期贈与と見なされると今まで贈与した金額に対して、通常の贈与税率が課せられるので注意が必要です。
相続税精算課税制度の概要とメリット・デメリット
相続時精算課税制度とは、贈与した財産が2,500万円まで非課税となり、その2,500万円を超える部分に「一律20%」の税金が課せられるという制度です。この制度に関しては、まずデメリットから解説していきます。
相続税精算課税制度のデメリット
上述したように、相続時精算課税制度を利用すれば2,500万円までの贈与に対しては非課税ですが、その「贈与したお金」は相続時に先送りしただけに過ぎません。
つまり、この制度を利用して2,500万円贈与した場合、その時点で贈与税は発生しませんが、その2,500万円は相続時の財産としてカウントされるのです。また、相続時精算課税制度を利用すると、上述した「暦年贈与」の利用はできなくなるので十分注意しましょう。
相続税精算課税制度のメリット
さて、前項のように相続時精算課税制度は、贈与した財産を「相続時に先送りした制度」です。そのため、結局相続税がかかってしまうので意味がないのでは?と思う方もいるでしょう。
しかし、相続時精算課税制度には以下2つのメリットがあります。
- 将来評価が上がる場合には節税になる
- 相続時の基礎控除が大きい
たとえば、相続する土地が「将来再開発される可能性がある」のであれば、相続時に今より土地の価値が上がり相続税も上がる可能性があります。一方、相続税精算課税制度の評価は贈与時なので、将来評価が上昇する財産については税金を抑えることができるのです。
また、相続税は贈与税よりも基礎控除額が大きいので、相続時の基礎控除に収まるのであればメリットは大きいです。具体的には、相続時の基礎控除は「基礎控除3,000万円+法定相続人×600万円」になります。
一方、贈与税は上述したように110万円なので、相続税の非課税枠の方が遥かに大きいことが分かるでしょう。そのため、相続時に先送りして非課税枠を適用させることで、通常の贈与なら高額な贈与税になっていたものの、相続時は全額基礎控除できた...という状況になり得ます。
一般的な生前贈与の特例
前項で、通常の生前贈与である「暦年贈与制度」と「相続時精算課税制度」についてご紹介しました。次に、その他の生前贈与の特例について解説します。
- 【教育資金の一括贈与
- 結婚・子育て資金の一括贈与の特例
なお、不動産取得に関する生前贈与もあるので、その贈与に関しては次章で解説します。
教育資金の一括贈与
この特例の概要は以下の通りです。
贈与者 | 直系尊属(祖父母) |
---|---|
受贈者 | 子や孫(30歳以下) |
目的 | 教育資金 |
控除 | 1,500万円まで(1人あたり) |
たとえば、大学に行く際にかかる「入学費」や「授業料」を、祖父から孫へ500万円贈与したとします。その場合、この特例を利用することで、本来かかる贈与税が非課税になるということです。
ただし、この特例を利用するためには金融機関と「教育資金管理契約」を結び、口座開設する必要があります。そして、贈与を受けた側は支払い時(授業料支払いなど)に口座からお金を引き出し、支払った証明として領収書を銀行に提出するという仕組みです。
結婚・子育て資金の一括贈与の特例
この特例の概要は以下の通りです。
贈与者 | 直系尊属(祖父母) |
---|---|
受贈者 | 20歳以上50歳未満(平成27年4月1日から令和3年3月31日までの間) |
控除額 | 結婚資金のみ:上限300万円 |
結婚・出産・子育て資金:1,000万円まで |
たとえば、結婚式の資金として親から子へ300万円贈与しても、この特例を利用すれば非課税となります。また、前項と同じく口座開設をして、実際に支払った後に領収書の提出などは必要です。
不動産取得に関する生前贈与の特例
最後に、「不動産取得」に関する生前贈与について以下を解説します。
- 配偶者控除
- 住宅取得等資金の贈与
上記はいずれも「不動産取得」に関する特例なので、それ以外の贈与に関しては適用外である点は認識しておきましょう。
配偶者控除
この特例の概要は以下の通りです。
対象者 | 婚姻期間20年以上の夫婦のみ |
---|---|
目的 | 居住用不動産or居住用不動産の取得資金 |
控除額 | 2,000万円まで |
たとえば、婚姻期間が22年の夫婦間で、夫名義のマンションを妻名義に換えた場合などに適用されます。夫名義のマンションを妻名義に換えたとしたら、それは夫から妻への贈与の扱いになるため、本来であればそのマンションの評価額に贈与税が課せられます。
しかし、配偶者控除を利用することで、2,000万円まで控除できるという仕組みです。また、これは通常の贈与税の非課税枠である110万円も別に適用できるので、2,110万円までの贈与は非課税になります。
住宅取得等資金の贈与
次に、「住宅取得等資金のための贈与の特例」について解説します。以下のように、この特例は直系尊属からの贈与であり、そのお金を住宅取得のために利用する際に利用できます。
贈与者 | 直系尊属(祖父母) | ||
---|---|---|---|
受贈者 | 20歳以上 | ||
目的 | 住宅取得 | ||
控除額 | 契約締結日 | 省エネ等住宅 | 左記以外の住宅 |
平成31年4月1日 ~ 令和2年3月31日 | 3,000万円 | 2,500万円 | |
令和2年4月1日 ~ 令和3年3月31日 | 1,500万円 | 1,000万円 | |
令和3年4月1日 ~ 令和3年12月31日 | 1,200万円 | 700万円 |
なお、上記の控除額は消費税等の税率が10%である前提です。また、贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与を受けた金額を全額「住宅取得等資金」に充てる必要があります。
そして、この特例は基礎控除(110万円)か、上述した相続時精算課税制度のどちらかと併用することも可能です。
まとめ
このように、生前贈与を活用することで、相続時の税金を節税することが可能です。特に、相続財産が高額になる場合は、相続税も高額になるので気を付けましょう。
その際は、上述した生前贈与を検討し、そのまま相続した方が良いか?生前贈与した方が良いか?を、きちんと計算する必要があります。ただ、税金の仕組みは複雑なので自分だけでは判断せずに、最終的には財産承継のプロに相談することをおすすめします。
2級FP技能士(AFP)、宅建士。
明治学院大学 経済学部 国際経営学科にてマーケティングを専攻。
大学卒業後は地元の地方銀行に入行し、窓口業務・渉外業務の経験を経て、
2011年より父親の経営する住宅会社に入社し、住宅新築や土地仕入れ、造成、不動産売買に携わる。
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