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賃貸事業による節税~相続税の計算方法と気を付けること~

公開日: 2022.10.28

最終更新日: 2023.04.11


公開日:2022年5月11日




平成27年の税法改正により課税対象となる方が増えたため、今まで自分には関係ないと思っていた方からも「相続税」を気にする声をよく聞くようになりました。

一方で相続税は、特例の要件を整えたり、建物賃貸事業をしたりすることで節税が可能です。

そこで今回は、相続税の基本と建物賃貸事業による節税の基本、相続税の節税対策検討時の留意点についてお伝えします。


相続税の算出方法

相続税を含めた税金は、税法という一定のルールに沿って課税されます。一方で税法は、時代の状況や流れを反映して少しずつ変化していきます。

まずは、税法というルールと、今後の世の中の動きについて知っておきましょう。

相続税の基本と算出方法

相続税が課税されるかどうかは、相続税評価額が「相続税の基礎控除額」を超えるかどうかがポイントとなります。


現在の相続税が課税されるのは10人に1人程度、およそ1割の人が課税されますから、誰もがしっかり理屈を知っておきましょう。

相続税の基礎控除額は、以下の計算式で求められます。

    • 3,000万円+600万円×法定相続人の数=相続税の基礎控除額

※法定相続人とは、配偶者や子供などのこと


相続財産の評価額が上記の基礎控除額を下回る場合は課税されず、基本的には上回った部分にのみ課税されるのが相続税です。
相続財産の評価額は、課税されない財産や特別に加算される財産、様々なルールや特例があり変動します。


基本的に多くの資産を持つ方ほど対象となりますから、上記の基礎控除額を一つの目安にして、相続税がかかりそうかどうかを確認しておきましょう。

相続税の沿革

現在の相続税は8段階の税率に区分されており、最高税率は6億円を超える資産がある場合の55%となっています。

たとえば、相続人が一人の状態で10億円分の財産(課税遺産総額)を相続する場合は、10億円×55%7,200万円=4億7,800万円が相続税額です。

相続税の最高税率は、景気の良かった昭和の頃は75%、バブル崩壊に伴う景気悪化によって平成14年までは少し下がって70%でした。

その後、長く続く平成不況によって50%まで引き下げられたものの、景気の持ち直しを理由に平成27年から現在の55%に引き上げられています。

合わせて平成27年からは大幅に基礎控除が引き下げられ、納税者も一気に増加したのが昨今の沿革です。

資産を持つ方への課税強化の兆し

令和3年10月の岸田内閣発足当時、運用益(資産運用で得た利益に対する税金)への課税強化が話題になりました。所得税の最高税率が45%の今でも、運用益の税率は基本的に一律20%のためです。


資産運用は資産を多く持つ方ほどしているとされていますから、これは実質的に資産を多く持つ方への課税強化という側面もあると言われています。

特に具体策は示されていませんが、いずれ運用益の税率を所得税などに近づけるのかもしれません。コロナ関連でも頻繁に話題になりましたが、今は様々な優遇・助成制度でも年収が高いほど対象外とされる時代です。


平成27年の相続税改正は元より、令和元年に行われた全国民に影響がある消費税改正も、資産を多く持つ方のほうが生活水準は高く、ひいては納税額も多くなるため、実質的に資産を多く持つ方への課税強化の一環といえます。

成長と分配の旗印のもと、今後さらに資産を多く持つ方への課税が強化されても不思議ではないかもしれません。

建物賃貸事業による節税

相続税対策として賃貸建物を建てる話はよく挙がりますが、初めて検討する場合はイマイチ意味や理由が分からないという声をよく聞きます。


まずは浅くても広く、賃貸建物の特例や特徴について知っておきましょう。

小規模宅地等の特例

これは簡単にいえば、相続財産のなかに事業用または居住用の宅地等がある場合、一定の面積の範囲に限って大幅に相続財産としての評価額を下げてくれる特例です。


具体的には、以下のような内容になっています。

該当する宅地等の種類
限度面積
減額割合
特定事業用宅地
400
80%
特定同族会社事業用宅地等
400
80%
貸付事業用宅地等
200
50%
特定居住用宅地等
330
80%


相続税対策として建物賃貸事業をすれば、上記の「貸付事業用宅地等」に該当し、200までの部分について50%減額になります。その宅地等を相続税の申告期限まで保有していること、その事業を引き継いで申告期限まで行っていること、などの要件には注意が必要です。平成30年の税制改正によって、相続発生前3年以内に賃貸業を始めた土地は対象外となっています(元々、別のところで賃貸業をしていたような方は除外)。亡くなる直前の対策はできない...ということです。こういった特例の適用要件は、賃貸業に限ったことではなく、自宅を相続する際にも影響が大きいので注意が必要です。後悔をしないで済むように、なるべく前もって対策を始めるよう心がけましょう。

貸家建付地の評価

貸家建付地とは、賃貸アパートや賃貸マンションなどの敷地のことです。このような土地は、賃借人がいる分だけ所有者が自由に使えないため、その分だけ相続財産としての価値を安く見積もることができます。具体的には、貸家建付地の評価額の計算式は以下の通りです。

  • 貸家建付地の価格=自用地価格×{1-(借地権割合×借家権割合×賃貸割合)}
    ※借家権割合は30%、借地権割合はおおむね6070%(地域によって異なる)
    ※自用地とは、いわば自分で自由に使える土地。固定資産税評価額や路線価で算出する金額
これによって満室なら自用地と比べておおむね2割程度、相続税評価額を低くすることができます。
貸家建付地として割安になった土地の相続税評価額を、さらに半額にできるのが先ほどの小規模宅地等の特例です。

債務控除(現金減らし)

賃貸アパートや賃貸マンションの建築費用などを借り入れた場合、その債務を相続財産から差し引くことができます。


仮に1億円の資産があっても、同じく1億円の債務があれば、財産はゼロという評価です。借入金には金利が発生しますが、節税の意味合いなら好都合にもなりえますし、その分を賃料収入でプラスにすることもできます。

借入をせずに、現金で建築しても同様の効果となりますが、遺産分割などにも配慮が必要なので、借入を上手く活用することも考えてみてはいかがでしょうか。

建物の固定資産税評価

建物の価値(評価額)とは、建築費ではなく固定資産税評価額になります。固定資産税評価額は、おおむね建築費の5070%程度です。

仮に1億円をかけて建築した場合、評価額は5,0007,000万円程度になります。建物の評価額は基本的に年月が経つほど下がるため、早く建築するほど有利です。

同じく土地の評価額は、地価ではなく相続税路線価で決まります。相続税路線価は、おおむね地価の80%程度です。

仮に1億円をかけて土地を購入した場合、評価額は8,000万円程度になるイメージです。資産背景によっては、土地と建物の両方での節税を検討しましょう。

収益と保険を使った納税・争族対策

不動産ではなく生命保険(死亡保険)を使った相続税対策もあります。生命保険に加入中の方が亡くなると遺族に保険金が支払われますが、その保険金には一定の非課税限度額があります。


具体的な非課税限度額は以下の通りです。

    • 500万円×法定相続人の数=非課税限度額


この非課税限度額を上回る部分のみ、相続税の課税対象になります。賃貸事業による収益を生命保険の保険料に充てることで、さらなる節税が可能です。

また、この保険金は、相続税の納税資金とできるほか、相続人が複数の場合の代償分割(不動産を相続しない人へ代わりにお金を支払うこと)も可能です。

不動産は即座の現金化や分割がしにくい財産なので、生命保険も併せて検討してみましょう。

相続税・節税対策検討時の留意点

次に、建物賃貸事業による節税上の留意点について、しっかり知っておきましょう。

建築や賃貸開始までの時間

賃貸アパートや賃貸マンションの建築には、更地に建てる場合でも一般的に「(階数×1ヶ月)+13ヶ月」程度は時間がかかります。


古い建物が残っている場合は解体に2週間数ヶ月程度が必要です。

入居者がいる場合は退去交渉次第ですが、賃貸借契約の内容によっては少なくとも半年ほど必要であり、数年かかっても不思議はありません。


相続税の節税効果が一番大きくなるのは建物完成後(竣工後)の相続(厳密にいえば、その後に賃貸経営を始めて満室になった状態での相続)ですが、万一、建築中に亡くなった場合も、「建築費用(亡くなるまでにかかった金額)の70%」が相続財産として評価されます。

しかしそれでも満額評価と比べれば不十分です。そのうえ貸家建付地としては認められない可能性が高く、小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等)も認められない可能性がある点に注意が必要といえます。

高齢化による健康面や後見人制度の限界

相続のことを考える方は、お歳を召されている方であることが少なくありません。


建築中に亡くならなくても健康を害し、その後の経営や管理をする能力が不十分と判断される可能性があります。

相続対策の際には、自身の健康面も考えて時間的ゆとりを持って進めることが大切です。


万一、認知症などになった際には成年後見人制度がありますが、これは判断能力が不十分になった人を守り、本人の利益を守る制度で、財産が多いと家族ではなく弁護士などが後見人になることもあり、その場合は多額の報酬が必要になります。


それに特に、後見人が誰であろうと本人ほどには本人の思惑通りに動いてくれず、また(本人の利益を守る趣旨を優先して)相続対策は認められない可能性が高い点が危険です(建物建築は本人の財産を減らす行為とみなされることもあります)し、後見人と相続人の間でトラブルになることもあります。

代わりに家族信託などの対策などもありますが、いずれにしても、できれば健康なうちに相続対策を済ませるようにしましょう。

経営不振による損失

建物賃貸事業を始めたことで相続税は節税できても、相続後にその事業が赤字を生み続けるようでは本末転倒です。


節税効果を上回る損失になっては意味がありません。相続税だけを考えて動くのではなく、しっかりと安定経営ができる事業計画を立てましょう。

予期せぬ出来事

昨今の人生は、本当に何が起こるか分かりません。


自分のことは元より、家族に何かあれば、助けを求められるかもしれません。そもそも相続は、残される家族の都合や事情も大切です。

税金対策においても、なるべく関係者全員のライフプランを多角的に考えて行動するよう心がけましょう。

まとめ

当局の規制強化の対象となるような、タワマン節税などの瞬間的な節税対策に頼るのは危険です(途中で税制が変更され、節税にならなくなるかもしれません)。

そうでなくとも税制は毎年のように変更されますし、相続人との関係性の変化から相続(税)への考え方・思いが途中で変わる可能性もあります。

定期的な資産診断とライフプランニングなどにより、節税や円満な資産形成の実現を長期的視野で検討・実施することが大切と考えましょう。

執筆者プロフィール
【山本FPオフィス 代表 山本昌義】

マイアドバイザー®
商品先物会社、税理士事務所、生命保険会社を経て、2008年8月8日に開業。
現在は日本初の「婚活FP」として、恋愛・婚活・結婚・離婚×お金をメインテーマに活動中。婚活中の方や新婚夫婦、または独身を貫きたい方など、比較的若い方向けのご相談や執筆、講演を行っています。趣味は漫画(約6,000冊所有)。

【保有資格】
・CFP®(婚活FP)

監修者プロフィール
【株式会社優益FPオフィス 代表取締役 佐藤 益弘】

マイアドバイザー®
Yahoo!Japanなど主要webサイトや5大新聞社への寄稿・取材・講演会を通じた情報提供や、主にライフプランに基づいた相談を顧客サイドに立った立場で実行サポートするライフプランFP®として活動している。
NHK「クローズアップ現代」「ゆうどきネットワーク」などTVへの出演も行い、産業能率大学兼任講師、日本FP協会評議員も務める。

【保有資格】
・CFP®・FP技能士(1級)・宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士
・住宅ローンアドバイザー(財団法人住宅金融普及協会)

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