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アパートの建て替えに立ち退き料は必要?相場や手順、交渉の流れ

公開日: 2022.12.27

最終更新日: 2023.12.15

賃貸経営しているアパートを建て替えたいと考えたとき、入居者との立ち退き交渉が障壁になるケースがあります。立ち退き料の算定には法的なルールも明確な計算式もありません。あくまで貸主と借主の話し合いで決定することが前提です。

 

借地借家法で手厚く保護されている借主との交渉を円滑に進めるには、事前の知識が欠かせません。大家の都合で退去する賃借人に払う立ち退き料の必要性、その相場や手順、交渉の流れを知りたい方に向けて、本記事で具体的に解説していきます。

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>>関連記事:アパートやマンションの建て替えを判断するポイントや注意点

1.アパートの建て替えにおける立ち退き料の相場

アパートの建て替えにおける立ち退き料の相場は「賃料の6カ月前後」とされています。
立ち退き料の算定は、借主の新居となる賃貸物件の入居にかかる以下の費用を想定して行うのが一般的です。

 

・不動産会社に払う仲介手数料

・新しい家主に払う礼金

・現在のアパートと引っ越し先の賃料差額

・引っ越し費用

・慰謝料や迷惑料

など

 

不動産会社が受け取る賃貸物件の仲介手数料の上限は、宅地建物取引業法で「家賃1ヶ月分の1.1倍(家賃1カ月分+消費税)」と決められています。
礼金は民間賃貸住宅に入居する世帯の半数近くが負担しており、地域にもよりますが家賃の12カ月分が目安です。

 

また、新居の賃料が現在の賃料より高くなる場合、一定期間は差額を負担することも検討します。入居者がいるアパートの賃料は、「物件にかかる固定資産税が上昇する」、「物件の資産価値が上がる」といった特別な場合を除くと簡単に引き上げることはできません(借地借家法第321項)。そのため、建て替え時期を迎えている現在のアパートの賃料より、新居の賃料の方が高くなる可能性があり、借主から一定期間の差額補填を主張される場合もあるのです。

 

借主としては住み慣れたアパートからオーナー側の都合で出ていく立場になるため、精神的なストレスを感じることもあるでしょう。そのため、引っ越し費用だけでなく、慰謝料や迷惑料などで補償するのが一般的です。

 

以上で挙げた移転費用や初期費用、慰謝料などを考慮し、立ち退き料はおおむね6カ月と計算されることが多くなっています。

 

ただし、立ち退き料の決め方に法的な決まりはありません。立ち退き料の金額はあくまで賃貸人と賃借人の合意次第です。借主の家族構成や新居がすぐに見つかるかどうかなど個別事情によって異なります。貸主と借主の普段からの関係性や交渉方法などによっても変わるでしょう。

 

一方で、借主に家賃未払いなど著しい債務不履行があり貸主側から契約を解除できる場合や、定期借家契約で期限を迎えたケースなど、貸主が立ち退き料を払わなくてもよいケースもあります。

 

借主との交渉がスムーズであるほどストレスもコストも少なくなります。専門家に交渉を依頼すれば精神的な負担は軽減できますが、第三者が貸主に代わって立ち退き料の交渉を行うのは「非弁行為」となる可能性があるので注意が必要です。

 

非弁行為とは、弁護士ではない者が報酬を得るため弁護士だけに認められている行為をすることを指し、弁護士法で禁じられています。立ち退き料交渉を専門家に依頼したいと考えたときは、不動産会社や管理会社ではなく弁護士に相談する必要があります。

 

>>関連記事:立ち退き料とは?相場や内訳、計算方法、交渉のポイント

2.アパートの建て替えにおける立ち退き料の必要性

次にアパートの建て替えにおける立ち退き料の必要性を確認していきます。
立ち退き料の意味を理解することで、借主と交渉する際に適切な金額を示すことができるでしょう。

 

2-1.立ち退きの申し出には正当事由が必要

 

【出典】「平成三年法律第九十号 借地借家法」(e-Gov法令検索)

 

建物賃貸借契約を終了させるための更新拒絶などの要件を示した借地借家法第28条によると、貸主が賃貸借契約を解約し、そこで暮らしている借主に立ち退いてもらうには、立ち退いてもらうだけの「正当事由」が必要となります。

 

ここでは貸主が借主に立ち退きを求めることができる理由として以下の4つのケースについてみていきます。

 

1.貸主の都合

2.建物の著しい老朽化

3.借主の契約違反

4.定期建物賃貸借契約の契約期間満了

 

1の貸主の都合は、例えば貸主本人が利用するため、あるいは、建物を売却したり再開発したりするなどの理由が考えられます。
2の老朽化は、建物が倒壊する危険や衛生的に問題があるため建て直しの緊急性が高い場合。
3の借主に契約違反があるとは、たとえば長期の家賃滞納や無断で改装工事を施すといった行為が考えられます。
4の定期建物賃貸借契約は、通常の賃貸借契約と異なり、契約で定めた期間が満了することにより、更新されることなく契約が終了する制度を利用しているケースです。

 

これらは貸主から賃貸借契約の解約を求める正当事由として認められる可能性があるものです。
ただ、立ち退き料が必要になる場合もあるので、次項で確認していきます。

 

2-2.法的な義務はないが立ち退き料を支払うのが通例

 

<立ち退き料が必要なケースと不要なケース>

立ち退きの事由

立ち退き料の必要性

貸主の都合(貸主本人が利用するため、再開発のためなど)

必要

老朽化により倒壊の危険や衛生的に問題があり建て替えの緊急性・重要性が高い場合

不要

借主に契約違反がある場合(家賃滞納や無断改装など)

不要

定期建物賃貸借契約の契約期間満了の場合

不要

 

先ほど挙げた貸主が借主に立ち退きを求める主な4つのケースで立ち退き料を支払う必要性があるのは、貸主の都合によるケースになります。

 

賃貸借契約は貸主と借主が合意すれば解約できます。そして立ち退き料の支払いに法的な義務はありません。ただ、実際には、貸主の都合で賃貸借契約を終了させる際には、貸主が立ち退き料を支払うのが通例です。それは立ち退き料には、貸主が賃貸借契約の解約を申し出て借主に退去してもらう場合の「正当事由」を補完する役割があるからです。

 

貸主本人が「使いたい」、「再開発したい」、「アパートを建て替えたい」というのは、そこに住み続ける権利がある借主の問題ではありません。突然家主に追い出され、住み慣れた家や土地から出ていかなければならない人があふれては、社会が混乱してしまいます。住居は生活の基盤であることから、特に借主の保護を重視した借地借家法という法律に守られています。

 

このことから、よほどの理由がなければ貸主側から一方的な契約解除ができないようにされているのです。
貸主と借主との合意がなければ期限の有無に関わらず契約が続く仕組みになっている賃貸借契約です。
これを終わらせる正当事由を補完する重要な要素として、立ち退き料が存在しています。    

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3.アパートの建て替えで立ち退き料の負担を抑える方法

アパートの建て替えで立ち退き料の負担を抑える方法としては、

 

・空室が増えたタイミングで申し出る

・原状回復を要求しない

・退去までの家賃を受け取らない

 

という3つの方法が考えられます。
ひとつずつ解説します。

3-1.空室が増えたタイミングで申し出る

 

アパートの建て替えに伴い借主に立ち退きを要請する際は、入居者が少なくなったタイミングがおすすめです。借主に支払わなければならない立ち退き料の総額を抑えられるからです。

 

さらに、立ち退き交渉をする相手が減ることで貸主の負担も大きく減ります。
必要な交渉の回数が減るためトラブルに発展するリスクを軽減できるのも大きなメリットです。トラブルが減れば、立ち退き料の増額リスクも抑えられます。

 

このため、建て替えを検討し始めた時点で、新規の入居者募集を停止するなどの対応をするのが得策です。新規で入居する人ほど長く住み続けたいと考えます。後々の交渉に伴う負担を減らす準備をしておくべきでしょう。建て替えを検討し始めてから入居を希望する借主とは、定期建物賃貸借契約を検討することをおすすめします。

 

一方で、空室の増加は家賃収入の減少を意味します。
残った入居者が退去するのを待っていては建て替えの目途が立ちません。空室率が上がってきたら時間をかけて退去を待ち続けるのではなく、ある程度の立ち退き料を払ってでも契約解除をお願いし、建て替えを早急に進めることも検討する必要があります。

 

※ただし、相続対策などで建て替えを目的している場合などは、アパートを新築する効果は早く実現した方が良いケースがほとんどです。このため、入居者の退去を待つより費用を掛けてでも一気に進めることを検討するのも有効です。

 

3-2.原状回復を要求しない

 

借主の退去時に原状回復を要求しない提案も、建て替えに伴う立ち退き料を抑えるコツです。

 

原状回復は借主が住んでいるうちに発生した建物価値の減少のうち、借主の故意や過失などが原因となったものを復旧することを指し、その費用は借主が負担することになっています。経年変化や通常の使用による損耗などの修繕費用は、賃貸料に含まれると考えて原状回復は請求しないのが一般的です。

 

すべての借主が退去した後に建て替えを予定しているのであれば、原状回復の必要はありません。入居者としても家族が増えたり、子どもが成長したりするなどやむを得ない事情で転居先を探すことになる場合もあります。通常なら必要になる原状回復を免除する代わりに、立ち退き料を安くする交渉を行うことができるでしょう。

 

3-3.退去までの家賃を受け取らない

 

アパートの建て替えに伴う立ち退き料を抑えるには、借主がアパートを退去するまでの家賃を受け取らない提案をすることも有効です。
家賃を支払わなくてすむことは借主の大きなメリットであり、退去に納得してもらい、その後の立ち退き交渉を円滑に進める効果も期待できます。

4.アパートの建て替えで立ち退き交渉を進める流れ

次にアパートの建て替えに伴う立ち退き交渉の流れを解説します。スムーズに交渉を進めるには、時間的な余裕をもち、誠意を込めて正しい手順で行うのが近道。トラブルに発展して高額な立ち退き料が必要とならないよう慎重に進めたいところです。

Step.1 立ち退きを申し出る

まずは立ち退きが必要になる経緯を書面で伝えます。まだ住み続けたいと考えている借主にとって、大家から突然退去してほしいと伝えられることになる段階です。ショックが大きくなり過ぎないよう、文面には注意を払いたいところです。

 

老朽化に伴う建て替えの場合、安全面や機能性などを考慮してどうしても取り壊しが必要になることを、相手の気分を害することがないよう丁寧につづる必要があります。入居してくれたことへの感謝の気持ちも忘れずに伝えることが大切です。送付する書面の作成は不動産会社や弁護士など専門家に依頼可能です。不安な場合は相談するとよいでしょう。

 

借地借家法第27条では、貸主が賃貸契約の解約を申し出た場合、建物賃貸借は「解約の申し入れの日から6カ月経過後」に終了すると規定されています。賃貸借契約を契約期間満了で終えたい場合、書面での通知は満了する6カ月前までに行う必要があります。

Step.2 立ち退き料の交渉をする

 

書面で「立ち退きしてほしい」という旨を申し出た後は、時間を置かずに借主に会いに行って改めて立ち退きを求める理由や時期、条件を丁寧に説明しましょう。

 

貸主側としての事情を説明するばかりでなく、借主の事情をしっかり聞き取ることが大切です。
高齢者で新しい住まいを見つけにくい、子どもを転校させたくない、近くに住む親の介護があるなど、個別事情に配慮した交渉が必要になるからです。

 

立ち退き料を提示することで借主の金銭面の不安を取り除くことも大切です。
借主に原状回復を求めない、家賃の免除や減額も考えるなど、借主の事情や反応に応じた対応を検討しましょう。

 

一方で、立ち退き交渉にトラブルはつきものともいえます。
後日、裁判などで争うことになる場合に備えて、交渉経緯は書面に残しておくことをおすすめします。交渉が難しいと感じてきた場合は早めに弁護士に依頼することも検討しましょう。

Step.3 立ち退きの手続きを行う

 

立ち退き交渉がまとまれば退去手続きに移ります。部屋の掃除や退去時のカギの受け渡し、敷金の精算方法などについて借主側と打ち合わせを行います。

 

借主の都合による退去と異なり、貸主のお願いで出て行ってもらうことになります。
転居先を紹介したり、家賃相場を調べたりする配慮を見せるなど、通常以上に誠意ある対応が必要です。

5.アパートの建て替えで立ち退きを円滑にするには

アパートの建て替えに伴う立ち退き交渉は、不動産投資に慣れた人以外は一般的に数多く経験するものではなアパート経営する個人が基礎知識やノウハウを蓄積するには難しいものがあります。そのように難しい交渉が予想される立ち退きを円滑に進めるのに大切なのは、借主に対して誠意をもって接することに尽きます。

 

借主が退去することによるメリットとデメリットをしっかり考え、相手に寄り添って話し合いを進めて問題解決に向けて共に頭をひねることが、早期合意への近道です。

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■監修者プロフィール

宅地建物取引士/FP2級
伊野 文明

宅地建物取引士・FP2級の知識を活かし、不動産専門ライターとして活動。賃貸経営・土地活用に関する記事執筆・監修を多数手掛けている。ビル管理会社で長期の勤務経験があるため、建物の設備・清掃に関する知識も豊富。

【保有資格】
・宅地建物取引士
・FP2級
・建築物環境衛生管理技術者