1. TOP
  2. 土地活用ナビ
  3. 賃貸経営
  4. 立ち退き料の相場や決め方は?交渉における3つのポイントや計算方法

土地活用に役立つ情報が満載!土地活用ナビ

立ち退き料の相場や決め方は?交渉における3つのポイントや計算方法

公開日: 2022.12.16

最終更新日: 2022.12.16

一定以上の築年数の経った建物は維持費が多くかかります。
大規模修繕やリフォームを適時実施すれば、長く利用することはできますが、いつかは建て替えを検討しなければなりません。 しかし賃貸物件で室内に関連する大規模修繕や建て替えを実施するためには、入居者に退去してもらう必要があります。
そのため、オーナーが入居者に対して立ち退き料を支払うことで解決を図るケースも少なくありません。

そこで本記事では、立ち退き料の相場のほか、立ち退き交渉の流れや計算方法について解説します。

1.立ち退き料の基礎知識

はじめに立ち退き料の意味や必要性など基礎的な内容を解説します。

1-1.立ち退き料とは

立ち退き料とは貸主側の都合により借主に契約解除を申し出る際、借主に対して支払う金銭のことです。借主が従前の賃貸物件から新居に移る上で発生する引っ越し代などの費用を補償するために支払われます。

また、引っ越しの手間や環境の変化によるストレスや心労を考慮して、慰謝料や迷惑料などを立ち退き料の一部分として含めるケースもあります。

1-2.立ち退き料の必要性

立ち退き料の支払いはあくまでも通例であり、法律上の規定や義務はありません。しかし普通家契約を結んでいる借主に立ち退きをお願いする時は、貸主が立ち退き料を支払うケースがほとんどです。

 

なぜなら普通借家契約では、契約期間中はもちろん、期間満了後も借主が「更新」を要求した場合、貸主側に「正当事由」がない限り更新拒絶できないことが借地借家法で定められているためです。

 

この場合の正当事由とは、貸主が賃貸借契約の解約を申し出るために必要な条件のことを指していますが、立ち退きが正当事由として認められる事例は、建物に危険性があると判断される場合などを除き、非常に少ないのが実態です。

そのため、正当事由を補完する目的で立ち退き料を支払うのが一般的な方法です。

 

一方、定期借家契約を結んでいる場合は、原則として更新がされず、契約期間が満了すれば退去となるため、立ち退き料を支払わなくても良いとされています。

また、家賃滞納などの契約違反を犯していて、強制的に退去させられることが可能となっている場合においては、当然ながら立ち退きを支払う必要はありません。

 

このほか、貸主が物件を別の用途で使用するようになった場合、立ち退き料を支払わなくて良いケースが考えられます。

例えばオーナー自身が住居用として物件を使用したい場合などです。
この場合、貸主に「自己使用の必要性」があるため、立ち退きが正当事由として認められ、立ち退き料が不要になる可能性があります。

1-3.立ち退きの交渉時期

立ち退きは原則として退去してほしい時期の6ヶ月前までに通知する必要があります。

まずは貸主が借主に対して契約を更新しない旨を意思表示するようにしましょう。

もし最初に通告を怠った場合、立ち退きの申し出が認められないおそれがあります。

 

【出典】「平成三年法律第九十号 借地借家法」(デジタル庁)

2.立ち退き料の相場と内訳

立ち退き料には法的な計算方法がないため、オーナー自身が任意で決めることになります。
しかし大体の相場は決まっているので、目安として知っておくと良いでしょう。

2-1.立ち退き料の相場

マンションやアパートといった住宅の立ち退き料は、通常は家賃の6ヶ月分が相場とされています。

例えば家賃8万円のアパートの部屋を貸している場合は48万円程度が目安です。ただし、店舗などの場合は営業補償などの他の権利が関係するため、家賃の6か月分では収まらないケースもあります。

立ち退き料の決め方に法的な決まりはなく、貸主と借主の関係性や交渉の行方によって変動するので、相場はあくまで参考程度と捉えるようにしましょう。

 

とはいえ、必要以上に高額な立ち退き料を支払ったり、反対に金額が少なく明け渡しを拒まれたりしないように、具体的にどの程度の金額が妥当なのか、前提となる基準を理解することは貸主にとって重要といえます。

2-2.立ち退き料の主な内訳

立ち退き料に含めるものは、立地条件や入居者の事情などによりさまざまなケースが考えられますが、主な内訳としては以下の通りです。

 

・移転にかかる費用

荷物の梱包や運送、家具の処分などの引っ越しにかかる費用のほか、移転先の家賃や敷金の差額、礼金、仲介手数料、保険などの新居にかかる初期費用が含まれるケースもあります

 

・通信環境の整備にかかる費用

新居に電話回線を引き込む費用、インターネット環境を整える費用などがあります。

 

・慰謝料・迷惑料

引っ越しにかかる手間、住環境の変化によるストレスや心労に対する対価として支払われるものです。

 

・借家権の補償

借家権とは、賃貸借契約によって得られる借主の権利を指し、経済的価値のある財産権の一つとして考えられています。

立ち退きによって借主は借家権という財産権を失うことになるので、これを補填する意味で立ち退き料に含めます。

 

・営業権の補償(店舗の場合)

立ち退きによって借主が損失することになる営業上の利益の補償のことです。主に店舗や事務所など、事業を営んでいる借主の立ち退きの際に支払われます。

3.立ち退き料の計算方法

立ち退き料の計算方法は定められていないので、オーナーがケースバイケースで決める必要があります。
そこで一般的に使用されている計算方法を以下で紹介します。

3-1.借家権の価格による算定

一つは該当する物件の借家権価格をもとに立ち退き料を算定する方法です。
算定方法は複数ありますが、代表的なものに収益還元方式があります。(または差額賃料還元方式とも呼ばれます)

収益還元方式は、現在の家賃と移転先の家賃の差額に複利年金現価率を掛け合わせる計算方法です。

 

複利年金現価率:将来支払われる年金額の現在価値を知るために必要な係数

現在価値:将来の価値から金利などを割り引くことで算出される、現時点の価値

 

<収益還元方式の計算式>

借家権=(移転先の支払い賃料 - 現在の支払い賃料)×複利年金現価率

 

3-2.損失補償による算定

移転に伴う損失や実費をもとに算定する方法です。

マンションやアパートなどの賃貸物件の場合、新規物件の賃料と現在の賃料との差額の一定期間分に相当する金額を、立ち退き料として計上するのが一般的です。

さらに引っ越し代や新居の敷金、礼金なども合算します。

 

店舗物件の場合には、上記のほかに内装工事費など営業開始するために投資した費用や、新規物件で営業開始するための初期費用や一定期間分の営業補償を立ち退き料と算定するケースがあります。

4.立ち退きの交渉を円滑に進めるためのポイント

立ち退きは借主にとって大きな負担になるので、交渉が難航するケースもあります。
そこで立ち退きの交渉を円滑に進めるためのポイントや注意点を解説します。

4-1.立ち退きを申し出る理由を明確に伝える

なぜ立ち退きが必要なのかを明確に伝えることが大切です。
曖昧な理由や伝え方で立ち退きを申し出た場合、借主が反感を抱きやすく、立ち退き料に加えて損害賠償を請求されるおそれもあるためです。

納得されやすい理由としては「築年数の経過により老朽化が進んでいる」「今の状況では入居者にも悪影響が出る」など、建物の老朽化や安全性を交えた説明が望ましいと考えられています。

 

また、建物の老朽化のほかに耐震性も立ち退きの「正当事由」として認められる可能性があります。

実際、2013年に行われた耐震性を満たさない賃貸住宅の立ち退きをめぐり、建物を所有する都市再生機構(UR)が入居者を訴えていた裁判では、貸主側に正当事由を認め、賃借人に退去を求める判決が下されています。

 

なお、耐震基準は1981年(昭和56年)531日に改正されています。この年以前に建てられた物件は現行の耐震基準を満たしていない可能性があるので、築年数の古い物件を所有している方は特に注意が必要です。

 

立ち退きの説明をする際は、物件を継続して使用し続けた場合の具体的な危険性を提示したり、耐震診断の結果を見せたりして、建て替えや大規模修繕が必要な根拠を明確に示すことが重要です。

また、交渉や話し合いの際は、後で「言った」「言っていない」と双方の主張に食い違いが生じて、トラブルが発生するリスクを回避するため、話した内容や合意した事項は必ず書面に残すようにしましょう。

 

4-2.移転先の代替物件を提案する

賃貸物件で立ち退きをする場合、借主は新規物件を探さなければなりません。
しかし、地域によっては移転先を簡単に見つけられないケースもあります。

特に居住用の物件では、次に住む場所が見つからないと借家人にとって大きなストレスになります。

 

一方、事前に居住できる物件の候補が見つかっていれば、スムーズに移転できるので、オーナー側が代替物件を提供することで、立ち退き交渉も円滑に進みやすくなるでしょう。代替物件を提供する際には、できるだけ生活環境に大きな変化を与えないように、借主の家族や生活の状況に寄り添えるような物件を用意することを心がけましょう。

 

4-3.弁護士などの専門家に依頼する

弁護士などの専門家へ立ち退き交渉を依頼する方法もあります。
専門家に依頼すると費用はかかりますが、交渉にかかる時間を短縮できたり、オーナーの精神的負担を減らせたりするメリットがあります。

 

また必ずしも交渉に関する全を依頼する必要はありません。
例えば、法律事務所に相談し、アドバイスを受けるといった方法も可能です。特に立ち退きを拒まれた結果、裁判に発展する可能性や、裁判所での実際の判例などを把握しておくために、外部の専門家から話を聞くことをおすすめします。

※実際に立ち退き交渉を行うのは非弁行為に当たる為オーナーもしくは弁護士しか行えません。

5.立ち退きを進めるには事前準備が大切

立ち退きに関する問題は、不動産オーナーが最も苦労する仕事の一つと言っても過言ではありません。
特に借主との立ち退き交渉まで、すべてを円滑に進めるには入念な事前準備を行うことが大切です。

 

そのためには物件の規模、借主側の事情などさまざまな点を加味して、適切な相場の立ち退き料を考える必要があります。また、解決が困難なケースにおいては弁護士をはじめとした専門家の意見を参考にすると良いでしょう。

 

大東建託では不動産投資や賃貸経営に関する相談を無料で受け付けています。入居者の立ち退き交渉に関して疑問点や不明点がありましたら、ぜひお気軽にご相談ください。

■監修者プロフィール

宅地建物取引士/FP2級
伊野 文明

宅地建物取引士・FP2級の知識を活かし、不動産専門ライターとして活動。賃貸経営・土地活用に関する記事執筆・監修を多数手掛けている。ビル管理会社で長期の勤務経験があるため、建物の設備・清掃に関する知識も豊富。

【保有資格】
・宅地建物取引士
・FP2級
・建築物環境衛生管理技術者