賃貸物件の築年数が経っていくうえで気を付けるべきポイントとは
公開日: 2023.07.14
最終更新日: 2024.04.23
賃貸経営を始める際には、さまざまなことを調査・検討して事業を始めることになります。
しかし事前にさまざまな調査をしていても、時間の経過とともに建物は経年劣化を起こしますし、建築当時に想定していた状況・・・周辺環境や入居者ニーズなども変化することもあるはずです。また耐震性の制度改定などにより、適正な利用法が変わったり、税金や修繕費などが当初の想定と違ってきたりすることも多いので、当初の計算通りの家賃収入や利益が入ってこなくなる事態に陥ることもあります。
今回は、賃貸物件の築年数が経っていくうえで気を付けるべきポイントについて、詳しくお伝えします。
1.ポイント①:必要な機能が維持できているか
賃貸事業を通して入居者から家賃を頂く以上、大家として賃貸物件を「適切な状態」で使用させる貸主責任という義務が発生します。
「建物が古くなったから適切な状態を維持できなくても仕方ない」ということにはなりません。
築年数が経過していても、一定の機能の維持や安全の確保が必要という点を、しっかり意識しましょう。
1-1.賃貸物件で維持し続けなければならない機能とは
大家には入居者(賃借人)に、建物を適切な状態で使用して貰う必要があります。
また使用に適するように、適切な修繕をすることも必要です。
十分に利用できなくなったり、建物などの不備が原因で入居者(賃借人)に何らかの被害・損害が発生したりすると、基本的に大家は責任を取らなければならなくなります。
たとえば、建物の老朽化による雨漏り、備え付けのエアコンの故障、エレベーターの不具合などを放置している状態では、賃貸物件として適している状態とは言えないでしょう。
また貸主責任という義務があることを抜きにしても、入居者に継続的に住みたいと思ってもらえるように建物の状況を維持することが必要です。
1-2.機能を保つ修繕ができているか
賃貸経営は長期に渡るものなので、賃貸物件も長期で活用することが基本です。
長くモノを使えば、建物自体も経年劣化を起こしますし、設備の故障や不具合の頻度も自然に増えてきます。
このような劣化や不具合が起こった箇所や起こりそうな箇所に対して、修理や補修、取替えなどを行い、問題なく利用できる状態に保つことが「修繕」です。
国土交通省が作成した「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」には、修繕の目安イメージが以下のように示されています。
(このガイドブックは2008年のものであり、2021年に少し修正が入れられました。しかし最新版は、まだガイドブックの体になっておりません。ひとまずの参考として、ご確認下さい)
適切な修繕をしていないと、いずれ賃貸物件としての機能を保てなくなります。
ひいては、いずれ入居者の不満や被害・損害に繋がりかねません。賃貸経営を長期に渡って続けるためにも、賃貸物件の機能維持に努めましょう。
1-3.耐震性を確保できているか
近年、頻繁に発生する大地震の影響を受けて、国も賃借人も「耐震性」を意識するようになっています。
具体的には、国は平成7年の阪神・淡路大震災、平成16年の新潟県中越地震、平成23年の東日本大震災、平成28年の熊本地震を気にしており、今後、近い将来に発生しかねないとされている南海トラフ地震、日本海溝・千島海港周辺海溝型地震、首都直下地震、中部圏・近畿圏直下地震などの大規模地震を警戒しています。
このような思惑から、国土交通省は「令和12年までに耐震性が不十分な住宅、令和7年までに耐震性が不十分な耐震診断義務付け対象建築物をおおむね解消する」ことを目標に掲げている状況です。
1997年の阪神淡路大震災の折には、アパートマンションの倒壊によって入居者が亡くなり、大家に1億円を超える損害賠償が発生した事例もあります。十分な耐震基準を満たしたうえでの被災なら、大家には責任が及ばないのが基本です。
国土交通省の発表によると、昭和56年以前に建築された建物は特に、耐震基準が強化される前の「旧耐震基準」で建築されているため、耐震性が不十分なものが多く(令和2年の調査によると、平成30年時点では昭和56年以前の建物の約26%である約5万棟)存在しているとあります。
入居者のためにも自身のためにも、建物の機能とともに耐震性についても意識しておきましょう。
2.ポイント②:周辺の賃貸物件に対して競争力が確保できているか
巷には賃貸物件が溢れています。入居者は、その溢れるほどある賃貸物件の中からさまざまな角度で比較検討して、より良いと感じる物件を選ぶのが基本です。
逆にいえば、周辺物件と比べてより良いと感じられない場合は、どうしても入居者に選んでもらいにくくなります。
現在の賃貸物件がそういう状態なら、自然と入居率も悪くなりますし、改善のために家賃を下げざるを得なくなりがちです。
新築時には当時の周辺状況やどのような賃貸ニーズがあるか、調査をしたうえで建築をしていることが多いため、周辺の賃貸物件と比べて競争力がある状態と言えます。
しかし、10年15年20年と月日を重ねるごとに入居者のニーズや周辺状況が変わっている可能性がありますので、建築当初から何も手を加えていなければ、入居者のニーズと乖離してしまっている恐れがあります。
特に最近の日本は、大規模な自然災害や凶悪犯罪が増加傾向です。
新型コロナによってテレワークが浸透したことも含めて、生活スタイル(生活ニーズ)が変化した方も少なくありません。
このような入居者ニーズに対応できていないほどに、入居者に選んでもらいにくくなります。
入居率が落ちてきたと感じる方は特に、周辺の賃貸物件と比べて、自身の賃貸物件の競争力を考えることが必要かもしれません。
2-1.美観や機能向上のためのリフォームができているか
競争力を念頭に大家として優先的に考えるべきことは、賃貸物件の「美観」です。
一般的な入居者は、少しでも見栄えが良い賃貸物件を選びます。特に最近は、入居者は自宅にいながら簡単に物件を細部に至るまで比較検討できる時代となっており、少ない時間でより多くの物件を比べるようになりました。
それにより、より多くの物件と比較されることとなり、美観が悪いだけで選択肢から外されるということも考えられます。
築年数が経過するほどに、どうしてもヒビや汚れなどが目立ち、美観が悪くなりがちです。
そもそものデザインが、今となっては古臭いと感じられてしまうこともあります。冷静に客観的に、自身の物件を見てみましょう。
競争力を考える際には、「設備などの機能向上」も大切です。
今や、エアコンやウォシュレットなどは標準設備ですし、無料インターネットや防犯カメラ、宅配ボックスなどもよく見かけます。
今までこれらを普通に使ってきた入居者からすれば、これらがないだけで選択肢から外されますし、あったとしても古びているという印象を与えると、やはり選択肢から外される可能性があります。
最近の入居者は、手軽に物件を比較検討できるからこそ「選ぶ目」が厳しくなっています。
築年数の経過によって競争力が落ちてきたと感じる方は、早めにリフォームなどで建物の美観や機能の回復・向上に努めましょう。
2-2.入居者の満足度を高めるための管理サービスができているか
先ほどの美観や機能をハード面とすれば、「管理サービス」というソフト面も競争力において重要になります。
優れた管理サービスは、入居者の満足度を高めるとともに、賃貸経営自体の満足度も高める、いわば大家の満足度も高められる大切な要素です。
管理サービスは多岐に渡りますが、代表例として以下のようなものがあります。
契約管理...入居者との賃貸借契約や手続き、重要事項の説明やカギの受け渡し等も
建物管理...建物の美観や機能の確認、早期のリフォームに繋げられる
敷地管理...敷地や共用部の美観や機能の確認、定期的な清掃も
家賃管理...家賃をスムーズに回収、家賃滞納発生時の対応も重要
※築年数が経過し、家賃を下げた結果、入居者の質も下がったなら尚更大切
入居者管理...入居者からの要望やクレームへの対応、特に夜間や休日の対応に差が出がち
空室管理...次の入居者が決まるまでの状態保存、空室を埋める分析や工夫も
ハード面の競争力が同等程度であれば、管理などサービス≒ソフト面での違いが大切です。
中でも一般的な入居者視点に立つと、「建物管理・敷地管理・入居者管理」あたりは、直接的に生活に関わってくるので重要といえます。
管理サービスは、大家が自分自身ですることもできますが、一人でするには手間も多いですし、専門的な知識が無ければ不十分になりがちです。
幸いなことに管理サービスは、全般的に引き受けてくれる不動産会社がたくさんあります。
頼れる不動産会社を探して管理サービスを高めることも、競争力を高める一環として考えていきましょう。
3.ポイント③:支払っている所得税額に改善の余地はないか
賃貸経営は長期に渡るものだからこそ、安定した可処分所得(手取り収入≒儲け)の確保が大切です。
そして安定した可処分所得を確保するには、これまでお伝えしたポイントを通した、安定した集客による入居者の確保などの観点のほかに、「節税」も大事な要素になります。
たとえば不動産所得とは、「総収入金額-必要経費=不動産所得」で決まります。つまり税制上の支出である必要経費が大きいほど、不動産所得が減り、税金も減ります。この必要経費は、一般的に、賃貸物件の築年数が進むと減ってしまい、ひいては税金が増えてしまっていることがあります。
築年数が経過すると家賃収入は変わらないのに可処分所得が減ってしまう原因の一つは、築年数が進むと減ってしまう減価償却費(詳しくは後述)が主な必要経費の1つだからです。
またアパートローンの支払利息も、ローンを完済すればなくなります。
必要経費以外にも、節税に繋がる特別な方法もいくつかあります。
必要経費は少ないに越したことはないのですが、減価償却費のような実際の支出を伴わない「税金計算上の経費」や「節税に繋がる方法」も多く、活用できれば、手元の資金が残るので有利です。
このような観点から、結果的に納税額を減らすことができる可能性のある対策例をお伝えします。
3-1.修繕(リフォーム)による減価償却費の再計上
賃貸経営において、アパートなどの建築や庭・駐車場などの整備にかかったお金は「減価償却資産」という扱いになります。この資産は、最初に一括してお金を支払うものの、同じく一括で最初に経費にするわけではなく、住宅用なら最大で47年(これを減価償却期間という、年数は内容や構造による)をかけて毎年少しずつ減価償却費として経費にするのが税金計算のルールです。
住宅用の代表的な減価償却期間(法定耐用年数ともいう)は、以下のようになっています。詳細は、国税庁のサイトにある「主な減価償却資産の耐用年数表」をご確認ください。
築年数が経ってこの期間を過ぎれば、減価償却費という経費は計上できなくなります。
木造・合成樹脂造り |
22年 |
木骨モルタル造り | 20年 |
(鉄骨)鉄筋コンクリート造り | 47年 |
れんが造り・石造り | 38年 |
金属造り(骨格材4㎜超) | 34年 |
金属製の日よけ設備 | 15年 |
給排水・ガス設備 | 15年 |
電気設備(照明設備を含む) | 15年(蓄電池電源設備は6年) |
ただし、先ほどお伝えした修繕(リフォーム)をした場合、この費用も減価償却費として計上できる可能性があります。
アパートローンが活用できるなら、直接的な支出はともないません。
すでに減価償却期間が終了しているなら、節税の意味合いでも大きめの修繕をするのも対策法の一つです。
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3-2.小規模企業共済の活用
小規模企業共済とは、簡単にいえば小規模な企業の経営者や役員のための税制優遇をともなう退職金制度です。
毎月、掛金を拠出することで、退職時や廃業時に一括・分割で相応のお金を受け取れます。
小規模企業共済の具体的なメリットを挙げると、以下の通りです。
1:月々の掛金全額が所得控除になる(最大年84万円・小規模企業共済等掛金控除)
※月々の掛金は加入後も増減可能
2:共済金は一括受取なら退職所得控除、分割受取なら公的年金等控除が使える
※一括受取と分割受取の併用も可能
3:(掛金の範囲内で)低金利の様々な事業用の貸付制度を利用できる
※即日の貸付も可能
1と2のメリットは、純粋な節税目的として使えます。また3のメリットは、修繕のための資金準備方法としての活用が可能です(現状、修繕のための他の公的な積立制度はありません)。経年に関係なく先々の修繕のために、今からこの方法で積立をしていくのも対策法の一つといえます。
3-3.法人化
法人化とは、今のところ個人(事業主)として賃貸経営をしている場合に、以後は法人として経営していくことです。個人が法人になると、収入の分散による節税とともに、所得税制より有利な法人税制を活用できるようになります。
簡単にお伝えすると、所得税の最高税率は45%(所得金額4000万円以上の場合)ですが、法人税の最高税率は、資本金1億円以下の法人なら23.2%(年800万円超の部分、令和4年4月以降)です。
所得金額が大きいほどに、法人化したほうが有利になります。
法人化すると、さまざまな手続きや経費が必要になりますし、確定申告が複雑になるなどのデメリットもあるため、良いことばかりではありません。それでも、税金が割安になる可能性があるのは大きなメリットです。節税の対策法として、少し考えてみることをおすすめします。
4.順調に賃貸経営が進んでいても注意・警戒が必要
現在は順調に賃貸経営が進んでいても、経年劣化や入居者ニーズ・周辺事情の変化などによって、いつ状況が変化するか分かりません。
このため、目先の表面的な視点だけではなく、定期的に建物や経営状況を診断し、合わせて先々を予測して課題を見つけ、常に改善・向上を図っていくことが重要です。
一人での対応が困難であればムリせず頼れる不動産業者を味方につけ、今後も安定的に賃貸経営ができるよう経営環境を整えましょう。

■監修者プロフィール
株式会社優益FPオフィス 代表取締役
佐藤 益弘
マイアドバイザー®
Yahoo!Japanなど主要webサイトや5大新聞社への寄稿・取材・講演会を通じた情報提供や、主にライフプランに基づいた相談を顧客サイドに立った立場で実行サポートするライフプランFP®として活動している。
NHK「クローズアップ現代」「ゆうどきネットワーク」などTVへの出演も行い、産業能率大学兼任講師、日本FP協会評議員も務める。
【保有資格】CFP®/FP技能士(1級)/宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士/住宅ローンアドバイザー(財団法人住宅金融普及協会)/JーFLEC認定アドバイザー(金融経済教育推進機構)
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