【令和7年度(2025年)税制改正要望から読み解く】 今から備える税制改正とは!?
公開日: 2024.09.25
最終更新日: 2024.09.26
令和7年度の税制改正要望が出そろいました。
税制改正要望は賃貸経営に大きく関わってくることも多いので、賃貸オーナーにとって、特に押さえておくべき情報といえます。今回は令和7年度の税制改正要望について、詳しくお伝えします。
目次
2-1.長寿命化に資する大規模修繕工事を行ったマンションに対する特例措置の延長
2-4-2.企業年金・個人年金制度の見直しに伴う税制上の所要の措置
1.税制改正とは?
そもそも税制改正とは、「税制=税金の制度を変えること」です。
世の中は常にさまざまなことが変化しています。
それにもかかわらず税制がそのままだと、制度と世の中の状況にズレが生じ、結果として、税制の在り方に問題が出てくるわけです。
このような理由から、税制は毎年、状況に合わせて改定=見直されています。
ただ、税制改正はあくまで、徴収元である「国の視点」から行われるわけです。
このため、納税者である個人や法人の立場から見れば、有り難い改正の場合もあれば、都合が悪くなるような改正もあります。
その改正内容がどちらに転ぶかは、個々人の状況次第です。
だからこそ税制改正が発表されたら、自身の状況を客観的に捉えつつ、税制改正に合わせた行動を計画し、実行してくことが大事になります。
1-1.税制改正要望とは?
税制改正要望とは、「税制改正の前に行われる意見提出」です。
税制改正とは、何もないところから国が勝手に改正しているわけではありません。
税制改正される際には、事前に「政府税制調査会や国土交通省などの各省庁」などから「どんな風に改正して欲しいか」という要望を集め、担当省庁である財務省が、これらの意見を元に改正内容をまとめ、政府の予算案として国会の議論を経て、決まります。
このファーストステップである「どんな風に改正して欲しいかという要望」が、税制改正要望になります。
ですから、来年度の税制改正がどのようにされるのかは、どのような税制改正要望がされたのかを確認することで、予測することができます。
もちろん、税制改正要望がされたからといって、その全てが税制改正に反映されるわけではありません。
税制改正要望がされても、内容が反映されなかったり、反映されたとしても内容が変わったりすることも多々あります。
情報の価値の1つは、速報性です。
ですから、この税制改正要望の内容を事前に把握しておくことで、「来年はどのような税制改正がされそうか」を把握しておくことが大切です。
年末時点で、突然、制度改正の内容を知る場合はそれだけ対処も困難になりがちです。
ですから、今回、早めにその内容を確認できれば、それだけゆとりを持った準備や先取りした行動が可能になります。
2.令和7年度の税制改正における注目政策予測
ここから、今回の税制改正要望の具体的な中身について見ていきましょう。
ただし、この税制改正要望は膨大な量になりますから、賃貸オーナーに関係しそうなものに絞ってお伝えします。
その他、気になることがあれば、直接、国土交通省のHPをご確認ください。
2-1.長寿命化に資する大規模修繕工事を行ったマンションに対する特例措置の延長
この特例は、一定のマンション(管理計画認定マンション等)が、より長寿命になるよう大規模修繕工事をした場合に、固定資産税を減額するという制度です。
この特例を2年間(令和7年4月1日~令和9年3月31日)、延長することを要望しています。
該当する工事は「外壁塗装等工事・床防水工事・屋根防水工事」の3つです。この特例を受けるには、この3つの工事すべてを実施する必要があります。
この特例を受けられれば、各区分所有者に課される工事翌年度の建物部分の固定資産税が基本的に1/3(1/6~1/2の範囲で市町村の条例で定める割合)が減額されます。
2-2.サービス付き高齢者向け住宅供給促進税制の延長
この税制は、サービス付き高齢者向け住宅(いわゆるサ高住)を新築した場合、その住宅に関わる不動産取得税と固定資産税を減額する、という特例措置です。
この措置を2年間(令和7年4月1日~令和9年3月31日)、延長することを要望しています。
なお、サービス付き高齢者向け住宅の登録基準は以下の通りです。
【ハード面】
・各住戸の専用部分の床面積は原則25㎡以上
・バリアフリー構造
【必須サービス】
・状況把握サービス
・生活相談サービス
【契約内容】
・敷金・家賃・サービス対価以外の金銭を徴収しない
この特例措置の具体的な内容は、以下のようになっています。
【不動産取得税】
・家屋:課税標準から1,200万円/戸を控除。
・土地:税額から一定額(150万円、または200㎡を限度に床面積の2倍に相当する土地価格のどちらか大きい額に税率をかけた額)を減額。
【固定資産税】
・5年間、基本的に2/3(1/2~5/6の範囲内で市町村の条例で定める割合)を減額。
2-3.住宅ローン減税等に係る所要の措置
この措置とは、令和6年度の税制改正大網(翌年度以降の税制改正についてまとめたもの)において示されていた内容(以下の表)のことです。
これをそのまま実行してほしいという要望になります。
出典:国土交通省令和7年度「税制改正要望」
この制度は、自身の住居について使えるだけでなく、「賃貸併用住宅の場合」でも使うことができます。
賃貸部分が控除対象にならない、床面積が50㎡以上かつ1/2以上が自己の居住用など、いくつかの条件がありますが、タイミングが良ければ使えるかもしれませんから、ぜひ賃貸オーナーも知っておきましょう。
2-4.その他の注目政策予測
上記以外にも今回の税制改正要望では、いくつかの賃貸オーナーが知っておくべき内容があります。
直接的に賃貸経営には関係がなくとも、間接的または将来的に関係してくるかもしれませんから、確認しておきましょう。
2-4-1.公的年金制度の見直しに伴う税制上の所要の措置
現在、人口減少&超高齢化に伴い、公的年金などの大規模な制度改定が議論されています。この結論が出た暁には、その結果に合わせて、税金面も変更してほしい(変更するべきだ?)という要望が、厚生労働省から出ています。
公的年金制度などが制度改定された暁には、当然に現在の税金制度とは合わなくなるでしょうから、変更自体はされると思います。
ただ、制度改定自体が、まだどのような改定をするのか決まっていないため、税金面の変更内容も未知数です。
余談ですが...現在のところ、さまざまな角度で年金制度改定の議論がされていますが、一番大きいと感じる内容は「基礎年金の拠出期間の延長(20~59歳→20~64歳)」が挙げられます。
また、より短時間のアルバイトや個人事業主なども被用者保険(いわゆる厚生年金)の対象者にする案も出ている状況です。
今すぐ...というわけではありませんが、公的年金制度などが改定されたら、合わせて税金面も改定される可能性が非常に高い...と思っておきましょう。
2-4-2.企業年金・個人年金制度の見直しに伴う税制上の所要の措置
先ほどの公的年金制度とともに、企業年金と個人年金(特にiDeCo)についても現在、改定が議論されています。
こちらについても、制度が改定されたら、それに合わせて税金面も相応の改定をしてほしい...という要望です。
公的年金制度と同じく、こちらも改定の中身が定まっていないため、税金面の改定についても内容は未知数となっています。
それぞれの年金制度が近々、改定される可能性が高く、改定されたら税金面も変わる可能性が高い...と考えておきましょう。
2-4-3.上場株式等の相続税に係る物納要件等の見直し
相続税の納付は現状、まずは現金による納付が基本であり、どうしてもそれがダメな場合にのみ、物納(上場株式などの財産による納付)が可能となっています。
今回、金融庁からの要望では、この点を問題視しており、特に換金しやすい上場株式等については特例を作ってほしい...という内容です。
この見直し案は昨年度も出されており、令和6年度の税制改正大網で「早急に検討し、結論を出す」と示されています。
今回は要望が通り、何らかの税制改正がされるかもしれません。
2-4-4.金融所得課税の一体化
これは、税金計算上で損益を相殺=「損益通算できる範囲をもっと広げて欲しい」という要望です。
現在は上場株式等に加えて特定公社債等まで範囲が拡大されていますが、さらにデリバティブ取引と預貯金等にまで範囲を広げて欲しい...という要望になっています。
出典:金融庁令和7年度「税制改正要望」
これについても令和6年度の税制改正大網に示されているものの、こちらは「総合的に検討する」とあります。
先ほどの物納要件に比べると重要度や緊急度は低い様子なので、どちらかといえば今年度での実現の可能性はさほど高くないかもしれません。
2-4-5.生命保険料控除制度の拡充
これは文字通り、生命保険料控除を拡充してほしいという要望です。
具体的には、以下のような拡充を要望しています。
この拡充は、令和6年度の税制改正要望では「令和7年度に措置をする」旨が示されていました。
このため、今回の税制改正で改正される可能性がかなり高いと思われます。
2-4-6.結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の拡充・延長
この措置は、親が子供や孫へ「結婚・妊娠・出産・育児」のための費用を一括で贈与した場合、贈与税を非課税にするというものです。
今回の要望は、該当する費用に「乳児等通園支援事業」に係るものも追加しつつ、制度の2年間の延長(令和9年3月31日まで)を求める内容になっています。
出典:子ども家庭庁令和7年度「税制改正要望」
これは賃貸オーナーなら、相続対策の一環としても使える制度です。
相続対策を検討中の方は、しっかり覚えておきましょう。
3.今回の税制改正要望を通した分析・考察
今回の税制改正要望を賃貸オーナーの視点で考えると、やはり「長寿命化に資する大規模修繕工事を行ったマンションに対する特例措置の延長」と「サービス付き高齢者向け住宅供給促進税制の延長」がポイントかと思われます。
内容は違いますが、どちらも「今後の日本を見据えた工事をしたら優遇する」という内容です。
また、「生命保険料控除制度の拡充」と「上場株式等の相続税に係る物納要件等の見直し」も、今回の税制改正で改正される可能性が高いので、注目しておくべきかと思われます。
特に後者の物納要件等の見直しは、上場株式等と同じ第一順位(物納に充てることができる財産の順位、第一順位は最優先で物納に充てることができる)に不動産が入っています。
もし、上場株式等とともに不動産もより物納に充てやすくなれば、不動産市場に一定の影響を及ぼす可能性が考えられます。
物納しやすくなったから現金化の売買がされにくくなって不動産価格が下がるか、または物納しやすくなったから相続を気にせず売買が活発化して不動産価格が上がるか...どちらに転ぶかは未知数ですが、ひとまず注視しておきましょう。
3-1.今回の税制改正要望を通して賃貸オーナーがすべきこと
賃貸オーナーの立場で考えると、優先的に補修などの「工事をするのか否か」を考えることがおすすめです。
先ほども上げた通り、今は長寿命化に資する工事か、サ高住に対応するための工事をすれば、一定の優遇を受けられます。
これは視点を変えれば「国からの"管理重視"の要望」でもありますから、この話に乗れば、今後も何らかの優遇がある可能性が考えられますし、助成金なども含めたさまざまな恩恵も期待できます。
工事をするのか否かの判断ポイントは、端的にいえば「現状の賃貸経営の状況次第」です。
現状のままでも、十分な利益が今後も含めて期待できるなら、ムリな工事はしなくて良いと思われます。
しかしそうでないのなら、何らかの手を打たねばと検討中なら、優先的にこの話を検討してみると良いでしょう。
一人では判断がつかない場合は、お付き合いのある頼れる不動産業者に相談してみることをおすすめします。
そうすれば、先々も含めた賃貸経営の状況を客観的に分析してくれるでしょうし、資金面の計算やエリア・マーケティングなどもして、多角的に判断材料を集めてくれるはずです。そういう業者がいない場合は、まずはそういう業者を探し出して、一緒になって行動を起こしていきましょう。
4.最後に...税制は毎年変わる。先々を見据えて早めに対処していこう
税金制度は毎年変わります。
賃貸経営は長期的視点が大切ですが、細かな点で、税制が変わっても対応できるようにしておくという心構えが大事です。
また、税制改正に合わせて行動を変えると、助成金等が使えるようになることもありますから、長期的かつ多角的に検討・常に情報収集しておくことも大事といえます。
しっかり対応するのは簡単ではありませんが、一人で対応する必要はありません。
賃貸オーナーには不動産業者という頼れるパートナーがいるでしょうから、存分に力を借りて、最大限の対応をしていきましょう。
■監修者プロフィール
株式会社優益FPオフィス 代表取締役
佐藤 益弘
マイアドバイザー®
Yahoo!Japanなど主要webサイトや5大新聞社への寄稿・取材・講演会を通じた情報提供や、主にライフプランに基づいた相談を顧客サイドに立った立場で実行サポートするライフプランFP®として活動している。
NHK「クローズアップ現代」「ゆうどきネットワーク」などTVへの出演も行い、産業能率大学兼任講師、日本FP協会評議員も務める。
【保有資格】CFP®/FP技能士(1級)/宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士/住宅ローンアドバイザー(財団法人住宅金融普及協会)
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