令和6年度(2024年)の税制改正大網が発表! 税金はどう変わる?
公開日: 2023.12.22
最終更新日: 2023.12.22
【令和6年度(2024年)税制改正要望から読み解く】今から読み解く税制改正とは!? にて内容を予測しましたが、その後の準備具合はいかがですか?
今回は、ついに発表された令和6年度の税制改正大網について解説していきます。
目次
2-1.現下の住宅取得環境の悪化等を踏まえた住宅取得促進策に関わる所要の措置
2-1-3.認定住宅等の新築等をした場合の所得税額の特別控除の延長
1.そもそも税制改正大網とは?
税制改正大網とは、ズバリ「税制改正案」のことです。
まず、政府与党の税制改正大網を基に、政府≒財務省の税制改正大網が作成され、国会でこの内容が議論されることになります。
最終的に、令和6年度の税制改正が法案として決定され、令和6年度から施行されます。
ですから、先読みするには、この政府与党の税制改正大網を読むことが先決!と言うことになります。
ただ、税制改正大網はあくまで案ですから、今後の国会の議論によって内容が変わる可能性もあります。ただ、政府与党が衆議院・参議院ともに多数を占めているので、この内容で決まる可能性が高いです。
それでは、今回の大網の中身で、賃貸経営に関連しそうな内容を見ていきましょう。
2.注目すべき改正内容は?
令和6年度の税制改正大網は、全体として120ページ程度もあります。
とはいえ、内容すべてを把握しておく必要はありません。
以前の税制改正要望の内容と重ねながら、注目しておくべき部分について、まずはじっくり見ておきましょう。
2-1.現下の住宅取得環境の悪化等を踏まえた住宅取得促進策に関わる所要の措置
この税制改正要望は、簡単に言えば、昨今の物価高騰などによって住宅取得環境が悪化しているため、何とかして欲しいという要望です。
また要望の資料によると、住宅価格と住宅ローン金利の高騰には触れられていたものの、具体的な改正内容には触れられておらず、どのような回答になるかが注目されていました。
この税制改正要望に対して、(明確な関連性は示されていないものの)国は以下の3つの改正案を提案してきました。一つずつ見ていきましょう。
2-1-1.住宅ローン減税の借入限度額及び床面積要件の維持
まず住宅ローン減税の借入限度額について、それぞれの住宅における限度額が来年以降、以下のように改定される可能性があります。
※出典:国土交通省 令和6年度「税制改正概要」
この通り、本来令和6年度からは住宅の種類に応じて借入限度額が縮小される予定でした。
その縮小予定を来年は撤回し、さらに令和7年もそれを継続する方向性の様子です。
対象は、一定の国の施策に合う新築(と買取再販)住宅に限られていますが、それでも嬉しい改定といえるでしょう。
また合わせて床面積の要件も50㎡から40㎡に緩和される様子であり、上記と同じく、この改正も令和7年度も継続する方向性となっています。
自宅として使う床面積が緩和されるということは、特に賃貸併用住宅の場合、それだけ自宅部分を小さく、賃貸部分を大きくすることが可能です。
ただし、賃貸併用住宅で建物全体を住宅ローンで賄おうとする場合、自宅部分の床面積が50%以上である必要があります。この点はケースバイケースとなるので、税理士や担当の不動産業者さんなどに相談しながら、慎重に事を進めましょう。
2-1-2.住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置等の延長
住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置とは、簡単に言えば、父母などの直系尊属から、住宅に関係する資金の贈与を受ける場合、一定の金額までなら非課税扱いになる特例制度です。
金額は、質の高い住宅なら1000万円、一般住宅なら500万円となっており、本来この制度は令和5年12月31日で終了する予定でした。
この制度を今回、3年間(令和8年12月31日まで)延長する、という改定案になっています。
なお、「質の高い住宅」は、以下のいずれかに該当することが必要です。
新築住宅 |
|
既存住宅
|
|
また同じ趣旨で、親の年齢が60歳未満であっても相続時精算課税制度を選択できる特例措置についても、同様に3年間延長するという内容になっています。
賃貸オーナーが相続対策で賃貸経営をしている場合、どちらかの制度を活用することで、相続税(相続財産)の圧縮に繋げることが可能です。贈与がまだなら、ぜひ期間中の利用を考えてみましょう。
2-1-3.認定住宅等の新築等をした場合の所得税額の特別控除の延長
認定住宅等の新築等をした場合の所得税額の特別控除とは、簡単に言えば、一定の良質な住宅(長期優良住宅・低炭素住宅・ZEH水準省エネ住宅)の基準に適合する床面積の分だけ、所得税額を特別控除するという制度です。
金額は4万5300円×床面積(上限650万円)の10%となっています。
この制度を、2年間(令和7年12月31日まで)延長するという改正案です。
この制度は、(厳しめですが)要件が合えば賃貸併用住宅などでも利用できますから、検討中の方は前向きに考えてみましょう。
総じて、一定の優良な住宅を対象にするものが多いものの、住宅ローン減税、住宅取得等資金の贈与、所得税の特別控除という3点で、要望にあった住宅取得環境の悪化を支援するという回答になっています。これでどこまでの効果があるかは未知数ですが、少なくとも確実に住宅取得に対しての追い風となるでしょう。
また利用方法によっては、相続対策や賃貸併用住宅などでも活用できる可能性があります。賃貸オーナー(予定)の方も、しっかり押さえておきましょう。
2-2.上場株式等の相続税に関わる物納要件等の見直し
これは簡単に言えば、相続時に上場株式等で物納しようとする場合に、もっと使いやすいように特例を作って欲しいという要望です。
何らかの特例が作られれば、同じく物納財産としても使われやすい不動産に対して、何らかの大きめの影響があるだろうという予測でした。
この要望については、残念ながら今回の大網では改正を見送られた様子です。とはいえ背景が変わらない限りは、今後また要望がある可能性があります。いつか改正されるかもしれませんから、アタマの片隅で覚えておきましょう。
2-3.既存住宅の耐震・バリアフリー・省エネ・長期優良住宅化リフォームに係る固定資産税の特例措置の延長
この特例は簡単に言えば、既存住宅に一定のリフォームをした場合、工事翌年度の固定資産税の一定割合を減額するという措置です。
具体的な対象工事と減額割合は以下のようになっています。
要望では、この措置を2年間、延長してほしいという内容でした。
|
減額割合 |
耐震 |
1/2を減額 |
バリアフリー |
1/3を減額 |
省エネ |
1/3を減額 |
長期優良住宅化 |
2/3を減額 |
大網では、この措置は令和6年3月31日が期限でしたが、要望通りに2年間(令和8年3月31日まで)の延長が提案されています。
リフォームを検討中の賃貸オーナーは、要件が合うなら使えるかもしれませんから、この制度の活用を検討してみましょう。
2-4.既存住宅のリフォームに係る特例措置の拡充・延長
この特例は簡単に言えば、既存住宅に一定のリフォーム工事をした場合、工事費用相当額の10%を所得税から控除するという措置です。
そして要望では、この措置を以下のように拡充しつつ、2年間延長して欲しいという内容になっていました。
大網では、この措置は令和5年12月31日が期限でしたが、要望通りに2年間(令和7年12月31日まで)延長するとともに、子育てに対応するためのリフォームも含まれました。また子育て対応のリフォームについてのみ、適用期限は令和6年12月31日でしたが、令和7年度以降も継続する方向性で検討されるという内容になっています。
一つ上と同じく、これも賃貸オーナーにとって嬉しい制度です。
中でも子育て向けのリフォームは初めての追加要素になります。周囲との差別化を図れるかもしれませんから、ぜひ使える場合は考えてみましょう。
3.その他、賃貸オーナーも知っておくべき税制改正ポイント
税制改正大網では、間接的に賃貸オーナーにも関わってきそうな内容がいくつか発表されています。
賃貸オーナー個人に関係するようなものもあるでしょうから、こちらについても基本的に、税制改正要望に沿った形で目を通しておきましょう。
3-1.NISAの利便性向上等
これは簡単に言えば、来年から始まる新しいNISAについて、さらに利便性を向上させるために、書面・郵送で行われる一部の手続きをデジタル化してほしいという要望でした。
この要望については、残念ながら今回の大網では見送られた様子です。もし通っていれば、
賃貸オーナーにとっても今後のライフプランや資産形成の観点で有利になったでしょうが...。とはいえ、来年からのNISAの利用者具合などによっては、また要望される可能性があります。今後の動きに注目しておきましょう。
3-2.生命保険料控除制度の拡充
そもそも生命保険料控除とは簡単に言えば、何らかの生命保険に加入すると、その保険料が「一般生命保険料控除・介護医療保険料控除・個人年金保険料控除」のいずれかの対象になり、一つにつき最大で4万円、3つ合計で最大12万円の所得控除になるという制度です。
要望では、この制度を拡充して欲しいという内容でしたが、大網では23歳未満の扶養親族がいる場合、現在の4万円を6万円にするという回答になっています。
ただし、3つ合計で最大12万円という点については変更しないという内容です。
また一時払いの生命保険については、控除の適用対象から除外するとも回答しています。
最大12万円が変わらないので、すでに満額加入している場合は対象外ですが、そうでない場合は賃貸オーナーにとっても朗報です。ぜひ今回の拡充を利用し、保障を増やしつつ節税効果を高めましょう。
3-3.死亡保険金の相続税の非課税限度額の引き上げ
現在の生命保険から支払われる死亡保険金は、「法定相続人数×500万円」までは非課税になる扱いです。
要望では、この非課税になる金額を上げて欲しいという内容でした。
この要望については、残念ながら今回の大網では見送られた様子です。
もし通っていれば、相続対策で賃貸経営をしているオーナーにとって、非課税枠を増やせるチャンスだったのですが...。
とはいえ今回、上記の生命保険料控除については改定される予定ですから、いずれこちらも改定されるかもしれません。
3-4.所得税・個人住民税の定額減税
これは税制改正要望にはなかったものですが、ニュースなどでご存じの方も多いのではないでしょうか。
大網によると、まず所得税について、所得税に係る合計所得金額が1805万円以下(給与所得者なら年収2000万円未満)の場合、当人の所得税額を限度として、本人は3万円、また同一生計の配偶者や扶養親族一人につき3万円が所得税から減税されます。さらに同様の条件で、住民税からは1万円が減税される予定です。
なお、これは大網には記載がない話ですが、この定額減税に合わせて、住民税非課税世帯などの低所得世帯に対して5~10万円の給付措置も行う予定となっています。
この政策は基本的にすべての国民が対象であり、当然に賃貸オーナーも対象です。低所得世帯向けのほうは該当しないでしょうが、減税のほうはしっかり恩恵を受けておきましょう。
3-5.その他
あとは、以下の改正についても知っておくと良いかもしれません。
・交際費の損金不算入制度の除外措置拡大
交際費ではなく会議費扱いになる一人あたり5000円以下の飲食費を1万円以下にする。
・土地に係る固定資産税の負担調整措置および条例減額制度の延長
行政によって固定資産税を減額できる措置を3年間(令和9年3月31日まで)延長する。
少しでも知っていれば(覚えていれば)、必要な際には思い出して詳しく調べることができる可能性があります。そういう意味で、少しでも関係しそうな情報には目を通しておきましょう。
4.今回の税制改正によるポイントは?
今回の税制改正大網では、やはり「現下の住宅取得環境の悪化等を踏まえた住宅取得促進策に関わる所要の措置」に対する3つの改定案が大きいと感じます。
それほど国も住宅取得環境の悪化を危惧しているからこそ、3つもの対策を打ち出したのだろうと伺わせる結果です。
これらの税改正内容は賃貸オーナーにとっても活用できる可能性がありますから、しっかり見ておきましょう。
また2種のリフォームに関係する特例の拡充・延長も大きいと感じます。
こちらは特に、リフォームを検討中の賃貸オーナーにとって確実にメリットになる改定です。中でも今回、拡充された「子育て」は、今までになかった角度のリフォームが有利にできることになります。もしかすると、近隣の競合物件との差別化を図れるかもしれません。
総じて今回の改定は、賃貸オーナーにとっても有利となる改定が多かったように思います。
ひいては、これから賃貸オーナーになろうか検討中の方にとっても、追い風となる可能性が極めて高い改定です。既存の賃貸オーナーも新規の賃貸オーナーも、ぜひこのチャンスを活かしていきましょう。
5.まとめ
今回の税制改正は賃貸オーナーに有利なものが多かったですが、税制は毎年改定されています。
直接的な賃貸経営は元より、節税や相続・資産承継などの観点からも、このような変化・情報は常にキャッチし続けることが重要です。
また税制改正によって、具体的に自身にどの程度の、どのような影響が出るのかをシミュレーションして、課題を発見していくことも大切といえます。頼れる不動産業者などにも協力してもらいながら、常に変化に対応していくことを心がけましょう。
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■執筆者プロフィール
山本FPオフィス 代表
山本 昌義
商品先物会社、税理士事務所、生命保険会社を経て、2008年8月8日に開業。
現在は日本初の「婚活FP」として、恋愛・婚活・結婚・離婚×お金をメインテーマに活動中。婚活中の方や新婚夫婦、または独身を貫きたい方など、比較的若い方向けのご相談や執筆、講演を行っています。趣味は漫画(約6,000冊所有)。
【保有資格】
・CFPR(婚活FP)
■監修者プロフィール
株式会社優益FPオフィス 代表取締役
佐藤 益弘
マイアドバイザー®
Yahoo!Japanなど主要webサイトや5大新聞社への寄稿・取材・講演会を通じた情報提供や、主にライフプランに基づいた相談を顧客サイドに立った立場で実行サポートするライフプランFP®として活動している。
NHK「クローズアップ現代」「ゆうどきネットワーク」などTVへの出演も行い、産業能率大学兼任講師、日本FP協会評議員も務める。
【保有資格】CFP®/FP技能士(1級)/宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士/住宅ローンアドバイザー(財団法人住宅金融普及協会)
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