1. TOP
  2. 土地活用ナビ
  3. 賃貸経営
  4. 個人事業主になってアパート経営を行うメリットは?法人との比較

土地活用に役立つ情報が満載!土地活用ナビ

個人事業主になってアパート経営を行うメリットは?法人との比較

公開日: 2024.02.26

最終更新日: 2024.03.12

土地オーナーが個人で賃貸経営による不動産収入を得る場合、確定申告により不動産所得を申告しなければなりません。

個人事業主として開業すると、所得の控除などのメリットを受けることができます。

このコラムでは、アパート経営における個人事業主について説明します。個人事業主になるメリットや、法人との違いなど基本的な知識を徹底解説します。

目次

1. 個人事業主としてアパート経営を行うメリット

1-1.所得を一定額控除できる

1-2.経費計上できる項目が増える

2. アパート経営における個人事業主と法人の違い

2-1.かかる税金の種類が異なる

2-2.事業開始までの手続きが異なる

2-3.会計処理の複雑さが異なる

2-4.赤字を繰り越せる年数が異なる

2-5.事業引き継ぎの方法が異なる

3. 個人事業主に関連するQ&A

Q1.個人事業主として事業を始めるには具体的に何をすれば良いでしょうか?

Q2.個人事業主にならずにアパート経営をすることはできますか?

Q3.個人事業主と法人のどちらを選んだら良いでしょうか?

4. 経営状況に合わせて、適切な事業形態を検討しよう

1.個人事業主としてアパート経営を行うメリット

アパートの場合、10室以上の部屋を貸していると「事業的規模」とみなされます。
事業的規模にみなされると個人事業主として開業することができます。

開業は任意ですが、さまざまなメリットがあります。

 

1-1.所得を一定額控除できる


個人事業主になるメリットの一つ目は、青色申告が選択できることです。

青色申告に認められている制度を適用すれば、青色申告特別控除として所得から最大65万円を控除することができます。
そのため、課税所得が実際の所得より低く扱われ、負担する税額を少なくすることが可能です。

なお、控除額は、確定申告書の届け出の方法により異なります。より多くの控除を受けたい場合は、複式簿記で記帳する必要があります。 
  

・青色申告(複式簿記・e-Taxを使用した電子申告):65万円

・青色申告(複式簿記・紙での申告):55万円

・青色申告(単式簿記):10万円

・白色申告:なし

1-2.経費計上できる項目が増える


経費計上できる項目が増えることもメリットです。


課税対象となる不動産所得は、家賃収入から必要経費を差し引いた利益が元となります。
個人事業主として開業すると、計上可能な経費の金額が増え、結果として所得と税負担を抑えることが可能です。

経費計上できる項目の例としては、建物の購入・建築費などの資本的支出(減価償却費として均等償却)、経営においてかかる税金(登録免許税、不動産取得税、固定資産税、都市計画税、不動産売買契約書などに用いた印紙税、消費税)や、入居者募集等を行う不動産会社に対して支払う物件管理費、融資にかかるローン金利などが挙げられます。

また、不動産運営に関して発生した支出であれば、事務所の水道・電気代などの光熱費、電話代などの通信費、交通費、修繕費、消耗品費、接待交際費、新聞図書費、地震保険料・火災保険料などの支払いも経費化できます。

また、生計を一にする配偶者などの親族が事業に従事している場合は、この家族に対して支払う青色事業専従者給与も経費として計上することが可能です。

 

不動産貸付業で認められる経費やその条件については、下記のコラムで詳しく紹介しています。


>>関連記事:不動産投資の経費まとめ|認められるものと認められないものは?

2.アパート経営における個人事業主と法人の違い

事業規模とみなせるほどのアパート・マンション経営を行う場合、個人事業主のほか法人として事業を始める選択肢もあります。

双方の違いや、ポイントを確認していきましょう。

 

2-1.かかる税金の種類が異なる


個人事業主と法人では、課せられる税金が異なります。

個人事業主の所得に課せられる税金は、所得税、住民税と個人事業税です。

法人の所得に課せられる税金は、法人税と法人住民税、法人事業税です。

 

 

 

個人事業主

法人

税金の種類

所得税

※累進課税

 税率が5~45

法人税

※税率1523.20

個人住民税

法人住民税

個人事業税

法人事業税

赤字の場合

税負担なし

法人住民税7万円は発生

 

税金の中でも大きな割合を占めるのが、算出した所得に応じて発生する所得税・法人税です。

税金の観点で個人事業主・法人どちらを選べば良いかは、後述します。

 

2-2.事業開始までの手続きが異なる


個人事業主の場合、開業手続きはシンプルです。
税務署に「開業届」という届出書を提出するのみで、手続きは無料で行うことができます。

一方、法人の場合、手続きは煩雑です。会社の概要(社名や住所、事業目的、株主構成など)を決め、法人の定款、法人用の実印を作成し、登記申請書類とともに法務局で申請しなくてはなりません。

その後、税務署・都道府県事務所・市町村役場に法人設立届出書を提出し、法人口座の開設などを対応します。
その他、年金事務所や従業員を雇う場合は労働基準監督署やハローワークにも書類を提出しなければなりません。

法人設立は簡単にはできないことから、司法書士など専門家に相談することをおすすめします。

 

2-3.会計処理の複雑さが異なる


個人事業主は、収支を帳簿に集計し、毎年の所得額を計算。それを確定申告書の形で申告します。

簿記の知識が多少必要ではあるものの、昨今では確定申告書を作成できるクラウドサービスなども普及したことから、個人で届け出を行うこともできます。

一方、法人の会計処理は、複雑な決算報告書を作成しなければなりません。
損益計算書・貸借対照表・キャッシュフロー計算書など、作成する業務が複雑なため、税理士の力を借りるのが一般的です。

 

2-4.赤字を繰り越せる年数が異なる


個人・法人とも、赤字が出た場合に、該当する損失を翌年以降繰り越し、翌年以降の所得と相殺することができます。

しかし、繰り越すことができる年数は異なり、個人事業主の場合は最大3年、法人の場合は最大10年です。
繰り越せる年数は長いほど良いため、この点では法人が有利と言えます。

 

2-5.事業引き継ぎの方法が異なる


事業を第三者に引き継ぐ方法も異なります。

個人事業主は、あくまでその個人の事業であるという扱いであるため、事業承継する側が「事業廃止届出書」を提出する必要があります。

承継される側も「開業届」を提出しなければなりません。
また、事業で用いていた資産についても、渡す場合は贈与や相続、売却で所有権を移転させる必要があります。

一方、法人の場合は簡単です。
事業承継する側の株式をされる側に移転することで、法人が所有する資産まるごと引き継ぐことができます。

この点から、事業承継のしやすさにおいても、法人が有利と言えます。



メルマガ訴求.png

 

3.個人事業主に関連するQ&A

最後に、個人事業主に関してよくある質問について回答していきます。

 

Q1.個人事業主として事業を始めるには具体的に何をすれば良いでしょうか?


自分の住民票がある自治体の税務署に「開業届」を提出します。

開業届は、「事業を開始した日から1カ月以内」に提出しなければなりません。

確定申告を青色申告により行う場合は、「青色申告承認申請書」も提出します。
この申請書の締切は、開業日が11日から115日の場合は315日まで、開業日が116日以降の場合は開業から2カ月以内と定められています。

 

Q2.個人事業主にならずにアパート経営をすることはできますか?


できます。
実際、会社員の方でも、副業として木造アパート経営などを行っている人はいらっしゃいます。
ただし、このコラムで説明した通り、個人事業主として開業したほうが得られるメリットは多いです。

不動産貸付業で個人事業主になるには、不動産経営が一定の規模を超え「事業的規模」としてみなされる必要があります。

国税庁のWebサイトには、アパート経営の場合は「貸与することのできる独立した室数がおおむね10室以上であること」、戸建て経営の場合は「おおむね5棟以上であること」が基準として記載されています。

 

【出典】No.1373 事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分(国税庁)

 

Q3.個人事業主と法人のどちらを選んだら良いでしょうか?


個人事業主と法人どちらを選ぶかについては、賃料収入を含む全体の所得で判断することをおすすめします。
その基準は、「課税所得が900万円を上回るかどうか」です。

所得税が所得に応じた累進課税制度を採用していることから、所得が多いほど税率が上がってしまいます。

所得900万円を超えると、所得税は33%となり、法人税の23.20%を上回ります。

もちろん、法人にはそれ以外にもさまざまな経費が発生するため一概には言えないものの、課税所得がいくらかというのは、重要な観点と言えます。

 

【所得税率と法人税率の比較】

所得税の区分

所得税の税率

法人税の区分

※資本金1億円以下

法人税の税率

1,000円 から 1,949,000円まで

5%

800万円まで

15%

1,950,000円 から 3,299,000円まで

10%

3,300,000円 から 6,949,000円まで

20%    

800万円超

23.20%

6,950,000円 から 8,999,000円まで

23%    

9,000,000円 から 17,999,000円まで          

33%    

18,000,000円 から 39,999,000円まで          

40%    

40,000,000円 以上          

45%    

【出典】「No.2260 所得税の税率」(国税庁)

 

4.経営状況に合わせて、適切な事業形態を検討しよう

今回は、不動産賃貸業における、個人事業主について説明しました。

収益が一定規模以上になると、個人事業主になることができます。
個人事業主は青色申告特別控除などさまざまなメリットを受けることができます。
土地活用が事業規模になった場合には、検討すると良いでしょう。

また、所得金額が900万円を超えるタイミングでは、法人化したほうが良い可能性もあります。
自らの経営状況に合わせて、適切な事業形態を検討しましょう。

■監修者プロフィール

有限会社アローフィールド代表取締役社長
矢野 翔一

関西学院大学法学部法律学科卒業。有限会社アローフィールド代表取締役社長。不動産賃貸業、学習塾経営に携わりながら自身の経験・知識を活かし金融関係、不動産全般(不動産売買・不動産投資)などの記事執筆や監修に携わる。

【保有資格】2級ファイナンシャルプランニング技能士(AFP)、宅地建物取引士、管理業務主任者