アパートの部屋数を多くしたときと少なくしたときのメリットは?
公開日: 2024.02.14
最終更新日: 2024.02.15
アパート経営は、所有地を有効活用する「土地活用」の代表的な方法の1つです。アパート経営における重要な要素の一つは、部屋数(戸数)です。部屋数を多くすれば建築費用や維持費などの諸費用が増加する一方、収益性は高まるので、賃貸経営を始める際は特に注意して部屋数を設定しましょう。今回は部屋数を多くするメリット、少なくするメリットのほか、決め方のポイントなどを解説します。とても重要な情報なのでアパート建設を予定している人はぜひ確認してください。
目次
1.アパートの部屋数を多くするメリット
アパートの部屋数(戸数)を多くすることで得られる代表的なメリットである「家賃収入の見込みの増大」、「空室リスクの分散」、「税制優遇」の3つについて解説します。
1-1.家賃収入が多く見込める
部屋数が多いほど、受け入れられる入居者の上限が増えるため、より多くの賃料を得ることができます。
反対に入居者からのニーズが高いにもかかわらず、部屋数が少ない場合はより多くの利益や収益を得られるチャンスを逃す「機会損失」につながるでしょう。
土地活用としてのアパート経営の目的はさまざまですが、長期的に賃貸経営を行うのであれば機会損失は避けたいところです。
また、部屋数が多い場合、家賃を低く設定しても部屋数の少ないアパートよりもトータルで得られる家賃収入は大きくなるケースもあります。
例えば、計4部屋しかないアパートの場合、家賃8万円に設定すると1カ月あたりの賃料は最大32万円です。
一方、合計8部屋あるアパートでは家賃を5万円にしても最大40万円の賃料になります。
もちろん、建築費や設備費などの初期費用、維持費や管理費、諸経費などのランニングコストも増えるので、家賃設定を下げることが適切な判断とは言い切れません。
ただ、立地条件やターゲット層などが同じ周辺のアパートやマンションと比較検討された際、相場よりも賃料を下げることで「比較優位」を取りやすいのは、入居率の維持・向上を図るうえで大きなメリットといえるでしょう。
1-2.空室リスクを分散しやすくなる
賃貸物件に関する不動産経営や不動産投資において、物件が空室になって家賃収入が得られない「空室リスク」は対策すべき代表的なリスクです。
空室リスクを図る指標の1つが、部屋の総数に対する空室の割合である「空室率」で、基本的に空室率が低いほど空室リスクも低く、収益性の高い物件と考えられます。
空室率は「空室数÷全体の部屋数×100」で求められるため、アパートの部屋数が多ければ母数が増えるため、同じ空室数であっても空室率は低くなります。
例えば、ワンルームマンション投資などで一部屋だけ経営した場合、その部屋が空室になると空室率は100%です。
一方、10部屋のアパートを経営していれば、一部屋が空室になっても空室率は10%になるというわけです。
部屋数と空室率の関係は賃料においても同様で、空室率が低いほど賃料の減少率も低くなる傾向があります。
具体的な例としては、一部屋が空室になったケースでは、4部屋の場合は賃料の減少率は最大時と比較して25%。8部屋あれば12.5%となります。
このように空室リスクを分散することで空室対策ができることも、うまく長期的なアパート経営をするコツです。
1-3.税制面の優遇が受けられることがある
アパート経営をする目的の1つが「税制面の優遇」を受けることです。
アパートを経営する際、10室以上を保有すれば「事業的規模」とみなされるため、青色申告が可能になります。
青色申告特別控除を受けると、最大65万円を所得から控除して所得税を納めることが可能です。白色申告よりも大きな額が控除されるため、より税制面で優遇を受けやすくなるといえるでしょう。
2.アパートの部屋数を少なくするメリット
アパートの部屋数を少なくすることにもメリットが存在します。
以下の3つのメリットは部屋数を多くすることのデメリットと対になる関係なので、ぜひ併せて覚えてきましょう。
2-1.建設費用を抑えられる
同じ規模のアパートを建築する際、部屋数が少ない方が建物全体の構造がシンプルになりやすく、各部屋に必要なフロ・トイレ、キッチンなどの設備の数が少なくなります。
そのため、設計料や資材料といった本体工事の設計施工にかかる費用(本体工事費用)を部屋数が多いケースよりも抑えられます。
また、附帯工事費も安くなる傾向があります。
アパート建築に要する初期費用が安くなることで、求められる自己資金や年収、ローンの借入額を減らせるため月々の返済額も削減できるでしょう。
固定費の削減は赤字のリスクを減らしたローコストな経営は、支出と収入の収支バランスの安定を実現するための重要なポイントといえるでしょう。
2-2.維持管理にかかる費用を抑えられる
アパート経営において避けられないのが、部屋や共用部などの定期的な「修繕」です。
一般的に一定年数が経過すると部屋ごとに修繕しなければならないため、部屋数が多くなるほど単純に修繕費用も増大すると考えられます。
また、部屋数が多くなるほど建物自体も規模が大きくなるため、10~15年、建物全体を修繕する「大規模修繕」の費用も増大します。
部屋を少なくすることで修繕などの維持管理にかかる費用を抑えられるのは、大きなメリットといえるでしょう。
2-3.自由度の高い設計ができる
同じ広さの土地では、部屋数が少ない方が部屋の大きさ、間取りや内装などを自由に設計しやすいのもメリットです。
空室リスクを低くするには、部屋の数だけでなく「質」も重要な要素の1つです。
例えば、配置を工夫して日当たりや風通しを向上させれば、需要が高まります。
また、部屋数が少ない分、部屋を大きくすることができるため、家族世帯をターゲットにした戦略を練ることもできるのでおすすめです。
また、駐車場などの設備を設けやすいのも特徴の1つです。
特に新築アパートの一棟建ての場合、このような入居希望者に則した設計をしやすいのは、部屋数を少なくするメリットです。
3.アパートの部屋数の決め方
アパート経営における部屋数は「多ければ良い」「少ない方が悪い」というわけではありません。
周囲の環境にニーズや自分の管理能力を適切に把握し、それに応じた部屋数を決める必要があります。
そのための2つのポイントを紹介します。
3-1.想定するターゲットで決める
建物や土地周辺の環境から入居者のターゲットを洗い出し、そのターゲットに応じた部屋の広さ、間取りから部屋数を逆算してみましょう。
単身者と家族連れでは求められる部屋の広さや間取りは明らかに異なります。
例えば、小学校が近くにあり家族連れが多いと見込まれる住環境であるにもかかわらず、部屋数を多くしようとワンルームタイプや1Kの間取りの部屋に決めてしまうと、ニーズとは合致せず入居者が少なくなるリスクが高まります。
一方、ニーズに合わせて1LDKや2LDKを中心に部屋を設計すると、必然的に部屋数は少なくなるでしょう。
反対に駅近で通勤・通学に便利な土地であれば、単身者の会社員や学生の需要が高いです。
1Kといったように最低限な部屋の広さ、設備でも十分需要が期待できます。
このようにターゲットの世帯層に適した部屋をつくるためには、事前のエリアの市場調査を行ったうえで間取りや部屋数を決め、収益などのシミュレーションを行ったうえで建築プランを立てることが大切です。
市場を無視し「利回りを優先し、とにかく部屋数を増やす」などとならないようにしましょう。
3-2.管理できる範囲を考慮して決める
アパートをオーナー自らが管理する「自主管理」の場合、自身が適切に管理できる範囲の部屋数にすることも考慮しましょう。
アパートの管理業務には鍵の管理からクレーム対応、入居者が退去したときの清掃業者の手配、さらに家賃の入出金・督促、入居手続きまでさまざまな手間が発生します。
また上記の業務のほとんどは部屋数が増えるほどに負担も増大する傾向があります。
管理業務の徹底は入居者の満足度や物件の評判につながるため、自身の環境・管理能力に応じて部屋数を決めることが大切です。
ただし、アパート管理は専門の業者に「管理委託」することで大きく負担を軽減することができます。
この場合、専門業者に家賃収入から一定の割合の報酬を請求されますが、アパート管理を代行してくれるため、自身の労力や手間がかからずに収益物件から不動産所得を得られるでしょう。
4.アパートの部屋数に関わる建ぺい率と容積率の考え方
アパートの部屋数はオーナーが自由に決められるわけではありません。
建物の建ぺい率や容積率などが法律や条例によって定められているため、広い土地であっても際限なく高い建物を建てることは不可能なのです。
建ぺい率と容積率について以下で紹介します。
4-1.建ぺい率とは
建ぺい率は「敷地面積に対する建築物の建築面積」のことで、用途地域を含む各地域で建ぺい率の上限が定められています。
例えば、建ぺい率が70%以下と定められている土地であれば、その土地面積の70%を超える広さのアパートは建てられません。
そのため、建物の大きさに対する部屋の数も自然と上限が決まってくると考えられます。
建ぺい率は不動産業者が公開している土地情報や各市区町村の都市計画課に問い合わせることで把握できます。
4-2.容積率とは
容積率は「敷地面積に対する各フロアの床面積の合計である建物の延床面積の割合」です。
容積率は高い建物の乱立を防ぐために設けられているため、狭い土地であっても部屋数を増やすために無制限に階数を多くすることは困難といえるでしょう。
建ぺい率・容積率については以下の記事で詳細に説明しているので、興味がある方はぜひチェックしてみてください。
>>関連記事:建物の広さや高さを決める建ぺい率・容積率とは?計算方法と緩和条件
4-3.斜線制限、日影規制、絶対高さ制限
建ぺい率や容積率のほかにも、周辺地域の日照を確保するための建物の上限規制「日影規制」、風通し・最高を確保するための「斜線規制」、容積率よりも優先度が高い「絶対高さ規制」なども、建物の高さや大きさ、ひいては部屋数に関わる法律や条例になります。
これらの制限と建築可能なアパートの大きさを把握したうえで、部屋数を考える必要があるでしょう。
5.アパートの部屋数決めは専門業者の手を借りるのも有効
アパートの部屋数(戸数)のメリットと考え方について解説しました。
アパートの部屋数は、一度建築してしまうと後から変更するのは費用的にも大きな負担になるため、事前にしっかりとリサーチして決める必要があります。
また、接道義務や建築規制など建築基準法といった各法令に則って、建物やワンフロアの大きさを決めなければなりません。
土地活用方法の代表的なアパート・マンション経営の成否を分ける重要なポイントであるため、専門の不動産会社に支援を依頼するのもおすすすめできる有効な手段といえるでしょう。
■監修者プロフィール
有限会社アローフィールド代表取締役社長
矢野 翔一
関西学院大学法学部法律学科卒業。有限会社アローフィールド代表取締役社長。不動産賃貸業、学習塾経営に携わりながら自身の経験・知識を活かし金融関係、不動産全般(不動産売買・不動産投資)などの記事執筆や監修に携わる。
【保有資格】2級ファイナンシャルプランニング技能士(AFP)、宅地建物取引士、管理業務主任者
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