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土地オーナー・賃貸オーナーなら知っておきたい建築基準法の改正について

公開日: 2025.06.09

最終更新日: 2025.06.10

2025年4月、建築基準法が改正されます。今回の改正は多岐に渡るため、土地オーナー・賃貸オーナーに与える影響は計り知れません。
そこで今回は、予定している主な改正内容と、土地オーナー・賃貸オーナーに与える影響についてお伝えします。

1. 今回の主な改正箇所について


今回の改正は多岐に渡り、国土交通省から公表された説明資料も119ページにも及ぶほどの内容量となっています。
いきなりその全てを把握しておくことは困難ですから、まずは特に大切な部分に絞って、その内容と、それぞれ土地オーナー・賃貸オーナーにどういう影響があるのか、しっかり確認しておきましょう。

1-1. 4号特例の見直し

そもそも、「4号特例」とは、どのような内容でしょうか?

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出典:国土交通省 建築物省エネ法「改正法制度解説資料」


「4号特例」とは、4号建築物=小規模な建築物なら、建築する際に必要になる構造審査を省略できるという特例=制度です。
小規模なアパート建築を行う場合に該当する可能性がありますし、一般的な戸建て住宅もその大半が該当します。この特例によって、その分だけ申請が少なくて済むので、早く工事に取りかかれるわけです。

この特例が、以下のように見直されることになりました。

image2.png出典:国土交通省 建築物省エネ法「改正法制度解説資料」


つまり、「今後、ほとんどの建物建築で、構造審査を省略することができなくなった」ということです。

土地オーナー・賃貸オーナーからすれば、それだけ時間や手間、費用がかかるようになります。

その一方で、構造計算に関するしっかりした対応・・・書類作成などが必要になりますから、それが可能な高い業務ノウハウや技術力を持った業者選びが大事になるわけです。

1-2. 構造規制の合理化

そもそも「構造規制」とは、何か?というと・・・「建物建築には構造計算が必要になる」ということです。

2005年(平成17年)に起きた耐震性に関する構造計算書が偽造された「構造計算書偽造問題(耐震偽装問題)」から20年の時が経ちましたが、記憶に残っている方もいらっしゃると思います。

つまり、「構造計算」とは、「建物の構造が安全かどうか」を確認するために行う作業(計算)になります。

想像できるとは思いますが・・・この計算は、建物が大きくなるほど困難になるため、一定以上の大きさになると一級建築士しか計算できないと規制されていたわけです。

それが、今回、以下のように改正されることになりました。

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出典:国土交通省 建築物省エネ法「改正法制度解説資料」


つまり、「二級建築士でも対応できる範囲が広がった」ということです。

具体的には、高さの規制が緩くなった一方、計算が必要な規模(面積)については縮小された点には注意が必要になります。

これについては、土地オーナー・賃貸オーナーから見ると・・・2~3階建ての賃貸アパートの建築を想定するならば、他の法令をクリアーしていることを前提として、より高い高さの賃貸物件を建築することができるということですから、有利に働く可能性が高くなります。

その一方、4階建て以上の賃貸物件の建築を想定する場合は高度な構造計算が必要になるので、不利に働くかもしれません。

1-3. 省エネ適合基準の義務化

今回の改正によって、今後、新築の建物を建てる際には、以下の通り「省エネ基準適合が義務付けられる」ことになります。

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出典:国土交通省 建築物省エネ法「改正法制度解説資料」


「省エネ基準適合」とは、文字からも伝わる通り、建物を省エネで快適に使えるようにするための一定の基準があり、その基準に適合するように設計・建築することを指します。

これについては、以前にも別コラムにて詳しく解説していますので、そちらをご参照下さい。

>>関連記事:「建築物省エネ法」が賃貸オーナーに与える影響とは?

そもそも、今回の建築基準法の改正はこの省エネを推進することを主目的にしています。現在、日本は2050年のカーボンニュートラル実現に向けてさまざまな施策が取られており、その具体的な対応が、今回の建築基準法改正というわけです。

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出典:国土交通省 建築物省エネ法「改正法制度解説資料」

少し内容がズレますが、この省エネについては今回の改正で終わりというわけでは無く、あくまで通過点になります。すでに以下のように公表されていますが、2050年を最終段階として、2030年までの計画が立てられています。

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出典:国土交通省 建築物省エネ法「改正法制度解説資料」

「省エネ」は、土地オーナー・賃貸オーナーからすると、初期費用が割高になる一方で、ランニングコストの低減や入居率のアップが見込める可能性があります。
先手を打って、今から2030年を見据えて、ZEH・ZEB水準の省エネ性能を備えるのも一案です。

1-4. 防火規制の合理化

今回、延べ床面積が3000㎡を超える木造建築物について、以下のように改正されます。

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出典:国土交通省 建築物省エネ法「改正法制度解説資料」


今までは3,000㎡超の大規模建築物は鉄筋コンクリートなど耐火性に優れた構造のみ認められてきました。
ただ、前述の省エネ=環境対応にも連動することですが、世界的にも環境に優しい木を大規模建築物にも利用しようという気運が高まってきました。

基本的に、木にはどうしても鉄筋コンクリートなどと比較し、構造上、耐火性が劣るという特徴があるのですが、技術の向上により、耐火性能に優れた凖耐火性能の木造も存在します。また、さまざまなデザインの建物を作ることも出来ます。

そこで、今回の改正で規制緩和がなされました。これにより、建築の際、耐火を優先するあまり損なわれてきた「デザイン性」が、材木の良さを前面に打ち出したデザイン設計が可能になることで改善されます。
今後、さまざまなデザイン性豊かな大規模建築物が誕生するでしょう。

また今回、中層程度の木造建築物についても、以下のように改正されます。

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出典:国土交通省 建築物省エネ法「改正法制度解説資料」


つまり、木造と鉄筋コンクリートなど違う構造を同じ建物で利用する場合、防火規制では、より厳しい方の規制内容に従うことになっていました。
それを一定の条件の下、規制緩和することとしました。

具体的な緩和内容は、以下の通りです。


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出典:国土交通省 令和4年度「建築基準法改正」


今までは先ほどの大規模建築物と同じく防火性を担保するために、被覆した木材を使う必要がありました。
今回の改正によって、屋上から数えて5~9階建ての場合は、一定の区画を防火壁などで遮断すれば、一部を"あらわし(※)"で木造化した より簡易な耐火性能(90分間の耐火)で良いことになりました。

※「あらわし」とは、柱や梁など構造材が見える状態で仕上げること

どちらの改正も、土地オーナー・賃貸オーナーからすれば、より木造建築がしやすくなるわけです。

1-5. 既存不適格建築物の増築等にかかる規制の合理化

「既存不適格建築物」とは、建築された当時は法令上適格だったのに、その後の法改正などによって不適格になってしまった建築物のことです。
法改正などによって「既存不適格建築物」は、さまざまな形で活用が制限されてきました。

それが今回、以下のように改正されることになります。

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出典:国土交通省 建築物省エネ法「改正法制度解説資料」


つまり、中古物件=既存物件の活用を促進させるため、現行法を適用させる範囲を一気に小さくしました。

また、同様に中古物件=既存物件の活用が制限される主な要因の1つ・・・接道義務などについても、今回、以下のような改正がされます。

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出典:国土交通省 建築物省エネ法「改正法制度解説資料」


つまり、こちらも既存不適格物件については現行法を適用しないことになりました。

これらの改正は、既存不適格物件を持つ、または活用しようとしている土地オーナー・賃貸オーナーからすれば、大きな朗報といえます。

今まで既存不適格であるゆえに物件活用に悩んでいた方は、積極的に活用方法を検討しましょう。

2. 今回の改正における土地オーナー・賃貸オーナーにとってのメリット


賃貸経営の観点から考えると、建物を省エネ化する大きなメリットの一つは、「ランニングコストの減少」です。
つまり、光熱費が少なくなりますし、より高耐久の資材を使うことになるので、諸々の修繕費も時間単価で考えれば割安になりやすいといえます。
また、このような価値の高い建物は、必然的に「建物の資産価値の向上」にも繋がるはずです。

今後も省エネ化や耐震性へ意識も高まり、災害に強い建物を増やすような施策が進むと思われます。光熱費が割安で災害にも強いという賃貸物件を持てば「集客率の向上」にも繋がるはずです。

今回の建築基準法の改正は、文中でもお伝えした通り、建築物省エネ法の改正を軸に、関連した内容について改正されています。ですから、今回の改正の影響は別コラムで記載した「建物の省エネ化」を意識して考えると分かりやすいでしょう。

つまり、建物の省エネ化は国が推奨しています。そのため、建物を省エネ化する際には(今なら)さまざまな補助金や助成金制度が用意されている状況です。どうせなら、これらの制度が使えるうちに、前向きに検討しましょう。

2-1. 今回の改正における土地オーナー・賃貸オーナーにとってのデメリット

今回の改正はメリットが大きい一方で、やはりデメリットも考えられます。
建物の省エネ化が義務になる=実質的に避けられないわけですが、並行的にデメリットへの対策も大切です。デメリットについても正しく理解し、事前に備えておきましょう。

まず一番に上げられるデメリットは、「建築費・リフォーム費の向上」です。
前述の通り建物の省エネ化は、ランニングコストは下げられるものの、そのための初期費用は割高になります。今なら補助金や助成金が使える可能性があるものの、この点には注意が必要です。

また建物を省エネ化する=より高度な技術を用いるわけですから、どうしても「工期の長期化」が避けられないと思います。
同時に、そのような技術を持っている業者にしか建築などを依頼できませんから、自然と「業者選定が困難になる」でしょう。

総じて、やはりポイントは「資金面」だと思います。今なら補助金や助成金が使える一方、基本的な資金準備にはアパートローン等を使う方も多いでしょうが、今は金利が上昇基調です。
十分な経営計画・資金計画を持って、今回の改正に対応していきましょう。

3. まとめ:今回の改正を見据えて土地オーナー・賃貸オーナーがすべきことは?


そもそも今回の改正は、量もそうですが質的にも専門性が高く、個人で対応するには限界があります。このため、実績や技術のある頼れる業者選定が何より大切です。

業者とともに、まずは土地診断をして、そのうえで経営計画の立案や見直しを行っていきましょう。

■監修者プロフィール

株式会社優益FPオフィス 代表取締役
佐藤 益弘

マイアドバイザー®
Yahoo!Japanなど主要webサイトや5大新聞社への寄稿・取材・講演会を通じた情報提供や、主にライフプランに基づいた相談を顧客サイドに立った立場で実行サポートするライフプランFP®として活動している。
NHK「クローズアップ現代」「ゆうどきネットワーク」などTVへの出演も行い、産業能率大学兼任講師、日本FP協会評議員も務める。
【保有資格】CFP®/FP技能士(1級)/宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士/住宅ローンアドバイザー(財団法人住宅金融普及協会)/JーFLEC認定アドバイザー(金融経済教育推進機構)