経営する賃貸物件の賃料の決め方は?検討材料の例や具体的な計算方法
公開日: 2024.05.17
最終更新日: 2024.05.21
賃貸経営をするオーナーにとって、家賃設定の検討は重要です。
物件の賃料は、オーナーが自由に決められます。
しかし、適正に設定するには、得たい家賃収入の額を明確にし、家賃相場とすり合わせていかなければなりません。
この記事では、アパートやマンションのオーナーが知っておきたい、家賃設定の考え方について説明します。
利回りから考える賃料の決め方、相場から考える賃料の決め方の2つを詳しく説明し、後半では、家賃見直しにおいて押さえておきたいポイントや注意点も紹介します。
最後まで是非チェックしてください。
目次
1.賃料の決め方
アパートやマンションにおける賃貸料は、オーナーが求める収入を確保しつつ、入居者が許容できる程度が理想です。
まずは、決定するうえで押さえておきたいポイントを見ていきましょう。
1-1.利回りを想定して決める
目指す利回りが決まれば、そこに近づくための家賃収入がどれくらいあれば良いのかを逆算できます。
利回りには収受賃料を投資額で割った「表面利回り」と、収受賃料から諸経費を引いた利益を投資額で割った「実質利回り」があります。
賃貸物件の支出は固定資産税等の維持費もあるため、より経営の実態にあった数値を出すためには、「実質利回り」で計算をすると良いでしょう。
<実質利回りの計算式> 実質利回り(%)=(年間家賃収入-年間経費)÷(物件投資価格+取得時の諸経費)×100 |
一棟アパートの 実質利回りは、立地や構造などにより大きく異なりますが、5%~8%が目安と考えられます。
投資額の5~8%程度の年利が得られる家賃設定はいくらになるのか、試算してみましょう。
なお、利回りについては、以下の記事で詳しく説明しています。
>>関連記事:アパート経営の利回りの理想と最低ラインの目安は?計算方法や注意点
1-2.競合物件と比較して決める
経営する賃貸物件の周辺にある競合物件の相場から決めるのもよいでしょう。
周辺の物件と極端に賃料が異なると、入居者から選ばれなくなるためです。
競合物件の賃料は不動産会社からの情報や賃貸情報を公開しているWebサイトで確認できます。
比較する際は、自分が所有する物件と似たような条件を持つ物件を対象に選びましょう。
駅からの距離や建物の階数、築年数、部屋の大きさ、間取り、設備の有無、など類似物件で比較することで適切な賃料相場が分かります。
なお、一般的に住まいの賃料は、以下の要素によって変動します。
立地 | 駅などの公共機関や商業施設、公園などに近く、生活利便性が高いほど家賃が高い傾向にあります。 |
築年数 | 新しい物件ほど家賃が高い傾向にあります。およそ築10年ほどでは機能や美観に大差なく賃料も変わりませんが、築古物件では状態により家賃が下落する恐れがあります。 |
階数 | 高いほど家賃が高い傾向にあります。 |
設備 | オートロックや宅配ボックスなど生活に必要な設備が充実しているほど家賃が高い傾向にあります。 |
構造 | 同じような規模の物件の場合、鉄筋コンクリート造・鉄骨造・木造の順で家賃が高い傾向にあります。 |
2.利回りから考える賃料の決め方
不動産鑑定士が用いる不動産鑑定評価の方法で、適正な賃料を検討することも可能です。
評価法の一つである積算法について説明します。
2-1.積算法とは
積算法とは、投資した元本によって期待できる利益を基準にして賃料を計算する方法です。
積算法の計算式は以下の通りです。
賃料=基礎価格×期待利回り+必要諸経費 |
基礎価格とは、対象となるアパート・マンションの不動産価格のことで、いわば物件の時価です。
これに期待利回りをかけ、大家が支払う必要経費を足すと、その物件で設定すべき家賃が算出されます。
この場合の必要諸経費には、維持管理費、固定資産税・都市計画税、火災・地震などの損害保険料、減価償却費などを含みます。
期待利回りは、自分がその物件で得たい収益の利回りを年利(%)で設定します。
この手法は、オーナーの利益を確保できる賃料を算出できるというメリットがあります。
また、家賃相場の情報が必要ないことから、主に相場調べの参考になる物件が少ないときに使われます。ただし、家賃相場とは乖離する恐れが あります。
2-2.積算法による賃料の計算例
では、積算法を用いた賃料の計算例をご紹介します。
賃料=基礎価格×期待利回り+必要諸経費
・基礎価格:1億円 ・期待利回り:年利5% ・必要諸経費:年100万円
1億円×5%+100万円=年600万円(月50万円) |
この物件では、全室合計で月50万円の家賃設定をすれば、年利5%が確保できるということがわかります。
3.相場から考える賃料の決め方
続いては、周辺物件の相場を元にして賃料を決める方法を解説しましょう。
3-1.賃貸事例比較法とは
賃貸事例比較法とは、賃貸市場の家賃相場を調べ、比較して賃料を求める手法です。
近隣エリアや類似したエリアに立地した、類似条件の情報を集めます。類似物件の情報が多ければ多いほど、より正確に賃料を算出できるのが特徴です。
何か特殊な事情があれば、適宜その事情にあわせ補正します。
この手法は、家賃相場に合った賃料を算出できるというメリットがあります。
ただしオーナーの利益を確保できる家賃が分かるわけではないため、前述の積算法とセットで検討することをおすすめします。
3-2.賃貸事例比較法による賃料の計算例
では実際に計算してみましょう。
まずは、比較対象として、類似物件の情報を集めます。
ここでは、以下2つの物件を例としますとします。
アパート1 ・面積:100㎡ ・賃料:800,000円 ・敷金:1か月 ・礼金:2か月 |
アパート2 ・面積:100㎡ ・賃料:1,000,000円 ・敷金:2か月 ・礼金:なし |
ここから、それぞれの物件の実質賃料を計算します。
実質賃料とは、賃料に入居者から受け取る敷金や礼金などから得られる運用益などのキャッシュインを加えたもので、その入居者から得られる実質的な収入の合計です。
質賃料は以下の計算式で算出します。
実質賃料=支払賃料+敷金の運用益+礼金の償却額 |
敷金を銀行で1%で運用するとし、居住期間5年だった場合、礼金の償却額は0.20604を乗じれば求めることができます。
アパート1の実質賃料
800,000円+800,000円×1%+800,000円×2か月×0.20604=1,137,664円(㎡単価11,376円) |
アパート2の実質賃料
1,000,000円+1,000,000円×2か月×1%=1,020,000円(㎡単価10,200円) |
㎡単価にして、10,200円~11,376円あたりが相場ということが分かりました。自らの物件の賃料を設定する場合には、この相場を参考にするとよいでしょう。
このように、賃貸事例比較法では、類似物件の情報を集め、それぞれの特徴に合わせて額を補正しながら適正な賃料を算出します。
なお、賃料を決める方法は積算法と賃貸事例比較法のほかに収益分析法があります。
企業経営に基づく収益に着目したもので、店舗用ビルや商業施設の賃料を求める際に主に使われ、賃貸住宅にはあまり使われません。
4.賃料を決める際のポイント
ここまで適正賃料の考え方について説明してきましたが、それに加えて押さえておきたいポイントが3つあります。
順番に見ていきましょう。
4-1.収支のシミュレーションをする
収入と支出を洗い出し、シミュレーションを立てましょう。
今後どれくらいの収入が得られるかどうかは賃料の設定によって決まるため、賃料決めは経営の収入源を決める大事な作業です。
賃貸物件の賃料は何十年もずっと同じとは限りません。周辺環境の変化による需要の増減、築年数の経過による競争力の低下など、将来的に賃料が低くなる可能性も考慮し、シミュレーションをするのがよいでしょう。
4-2.売却のことも想定して決める
売却するケースのことも考えておきましょう。
中古物件の購入において、投資家が重要視するポイントとして、「投資額に対してどの程度の利回りで運用できるか」が挙げられます。
一般的に、高い賃料収入を得られる物件ほど、収益性が高いと評価され高く売却できる傾向にあります。
賃料が物件の売却価格を決める要素の1つになるため、経営する物件の売却を想定する場合、賃料設定は慎重に行うようにしましょう。
4-3.信頼できる不動産会社に相談する
不動産会社に相談するのもおすすめです。
不動産会社には物件売買や賃貸の仲介を行う会社や、賃貸管理のみを行う会社、その両方を行う会社があります。仲介と管理、それぞれに豊富な実績を持っている会社ほど、入居者のニーズに精通しています。
仲介業務においては、借主となりうるお客様を日々内覧で案内しているため、彼らがどんなニーズをもっているかも把握しています。賃貸管理業務においては、物件の状態や既存入居者とのコミュニケーションにより内情をよく把握しています。
まずは不動産会社に家賃設定の希望額を伝えてみて、意見を聞いてみましょう。
なお、一般的に信頼できる不動産会社の特徴としては、以下のようなものが挙げられます。
- 長期的なサポートを受けられる
- 物件を建てる場所の周辺地域に詳しい
- 類似物件を多く取り扱っており実績が豊富である
- 土地活用の専門知識を持ったスタッフが在籍し、専門的な視点に基づいたアドバイスを受けられる
複数の会社に相談し、信頼できる不動産会社を探してみましょう。
5.さまざまな賃料設定を検討してみよう。
今回は、賃貸住宅の貸主が把握しておきたい、賃料条件設定の考え方を説明しました。
賃料決めは複数の要因が複雑に絡むため、適切に設定するのは簡単ではありません。単純に賃料の金額を変える以外にも、敷金・礼金の設定を変える、フリーレントの期間を設けるなど、さまざま な条件設定をすることができます。
また、費用はかかりますが、リフォームで物件自体の価値を上げ、成約率や募集賃料を上げることも可能です。空室対策にお悩みの方は、さまざま な可能性を探ってみるとよいでしょう。
■監修者プロフィール
株式会社グロープロフィット・取締役
竹内 英二
不動産鑑定事務所・グロープロフィットの代表取締役を務める。
不動産鑑定士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、公認不動産コンサルティングマスター(相続対策専門士)、住宅ローンアドバイザー、中小企業診断士。不動産鑑定事務所および宅地建物取引業者
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