老後2000万円問題は事実?必要額の求め方と不安解消のために大切なこと
公開日: 2023.08.10
最終更新日: 2023.08.21
老後2000万円問題という言葉が記憶に新しい人も多いのではないでしょうか。
平均寿命が伸びて人生100年時代と言われている現在では、公的年金だけで老後の生活費を賄うのは困難とされています。老後資金について収支バランスを見直すためにも「なぜ老後に2000万円も資金が不足するのか」理由を理解したうえで、老後生活の準備と対策をしておくことが大切です。
この記事では老後資金に不安がある人に向けて、老後2000万円問題の内容や老後資金の不足額を補う対策を解説していきます。
目次
1.老後2000万円問題はなぜ話題になったのか
老後2000万円問題はなぜ多くの関心を集め、話題になったのか。そもそも老後2000万円問題とは何か。
老後資金が2000万円不足する根拠はあるのか、見ていきましょう。
1-1.老後2000万円問題とは
老後2000万円問題とは、金融庁が発表したレポート(調査年は2019年、金融庁の金融審議会「市場ワーキング・グループ」が発表した報告書)をきっかけに「老後は2000万円が不足する」という考えが広まった問題のことです。
実際に2000万円が不足するケースとして夫が65歳以上、妻が60歳以上で夫婦のみの世帯(高齢夫婦無職世帯)では社会保障給付などの実収入が209,198円、一方で食料や住居などの生活費合計(実支出)が263,718円となり、毎月約5.5万円の赤字額になると記載されています。
この場合、年間で約66万円が赤字になる計算で20年間で合計約1300万円の不足、30年間で合計約2000万円が赤字になると試算されています。
1-2.老後2000万円問題で指摘されていること
生活資金の赤字額はあくまで一例であって、全ての家庭に当てはまるわけではありません。
金融庁が発表したレポートで用いられている家計調査の数値は収集したデータの平均的な値であって、家計調査の数値は生活を取り巻く経済状況などを理由に毎年変化します。そのため「2000万円」という数字だけが独り歩きしている状態です。
老後2000万円問題は2019年の数値を切り取って「老後は2000万円不足する」という結論を出していると言えます。
あくまでモデルケース上の試算であり、各家庭の生活環境、ライフスタイルによって必要な資金は大きく異なるため、参考程度に捉えたほうが良いでしょう。
1-3.老後2000万円問題が多くの関心を集めた理由
これだけ老後2000万円が話題になった理由としては老後の生活にかかる資金について、漠然とした不安を抱えている人が多いからでしょう。
高齢化社会で人生100年時代と言われ多くの人が長生きできるようになった分、必要なお金も当然多くなります。
退職後同じ条件で20年間生きるのと30年間生きるのでは、トータルでかかる費用が異なるのは明白です。
また、退職金が減少傾向にあることや物価の上昇も伴って、老後の生活資金の確保がより難しい状況になっていることも、人々の不安をかき立てる要因になっています。
2.老後に増える支出と減る支出
支出にはライフステージの変化によって増える支出と減る支出があります。
そのため、老後に必要な資金をシミュレーションする前に支出の変化を把握しておくことをおすすめします。
増える支出と減る支出とは何を指すのでしょうか。
具体的に説明していきます。
2-1.住宅に関する支出
住宅ローンで住宅を購入した場合、返済が完了していれば住宅ローンの月々の支払いは発生しません。
毎月の負担となっているローン支払いがなくなれば、支出の額は大きく減少するでしょう。
しかしながら住宅がマンションの場合、管理費や修繕積立金の支払いは継続して発生します。
また、住宅の状態などによってはメンテナンス費用やリフォーム費用が別途かかるケースもあります。
一方で家を持たず賃貸住宅に住み続けることを想定しているのなら、引き続き家賃の支出は発生します。
2-2.子どもの教育費
教育費はほとんどの家庭の支出で多くの割合を占めているでしょう。
しかしながら子どもが学校を卒業し独立すれば、教育にかかる支出はなくなるため、老後資金の際は考慮しなくて良いケースが多くあります。
2-3.生活費
生活費は老後どのような生活を送りたいかによって変動するため、家庭の価値観によって決まります。
ゆとりある生活を維持しつつ、娯楽や趣味を楽しみたい場合は支出が増えるケースもありますが、必要最低限慎ましく暮らせれば良いと考えるのなら支出は少なめになるでしょう。
2-4.医療費
厚生労働省が令和5年1月に発表した医療保険に関する基礎資料によると一人当たりの生涯医療費は約2,700万円となっています。
男女別で見ると男性が約2,600万円、女性が約2,800万円となっていて女性の方が生涯医療費がかかっていることになります。
また、年齢別一人当たりの医療費は60歳~64歳で182万円、65歳~69歳で220万円、70歳~74歳で263万円、80歳~84歳については302万円と年齢を重ねるごとに増える傾向にあります。
2-5.介護費
高齢者になると自身や家族など介護が必要なケースも出てきます。介護が必要になった場合は施設やヘルパーなどを利用する機会が増えるでしょう。
厚生労働省の介護保険サービスにかかる利用料によると、施設サービスを利用した場合の介護費用の限度額は要介護1で167,650円、要介護2で197,050円、要介護3で270,480円、要介護4で309,380円、要介護5については362,170円となっています。
要介護とは日常生活全般において誰かの介護が必要な状態のことを言い、要介護1から要介護5まで要介護度があります。
要介護の中で要介護1が介護の必要度が低く、要介護5になると高いということになります。
2-6.葬儀費
経済産業省が行っている特定サービス産業動態統計調査によると、2022年度の葬儀業の売上高は約5,748億円、葬儀件数は501,345件になっていることから1件当たりの葬儀費は約114万円となっています。
近年「終活」という言葉をよく耳にしますが、葬儀費も終活の費用の一部です。
すなわち老後資金に必要な資金の一つといえるでしょう。
3.老後に必要な資金のシミュレーション
老後に必要な資金は老後の過ごし方によって変化しますが、シミュレーションによって算出できます。
老後生活を楽しむために旅行やレジャーを楽しむようなゆとりのある生活をしたいのか、あるいは、旅行やレジャーに余暇を使う気はないけど、子どもや孫などの学費や生活を少しくらいは援助したいと考えるのか、あるいは、住むところがあって外食などせずに日々食べていける程度の最低限の生活で良いのかなど、何に費やす費用がどれくらい必要なのかを整理すると良いでしょう。
シミュレーションしていく際のポイントは、実際にどの程度の資金が必要なのか把握することです。
2022年の家計調査報告書によると総世帯の消費支出は1世帯あたり約24.4万円、2人以上の世帯の消費支出は1世帯あたり約29万円です。
ゆとりある生活を送るには36.1万円が必要だと言われています。
仮に20歳から40年間、国民年金に加入していた場合の1ヶ月あたりの年金収入は一人当たり最大6.5万円、厚生年金の年金収入は平均で14.6万円となっています。そのため、夫婦2人とも厚生年金に加入していた場合は29.2万円、どちらかが厚生年金でもう一方が国民年金の場合は21.1万円となります。
夫婦2人とも国民年金のみの場合は、最大13万円です。
年金収入に加えて退職金が出るケースもあります。退職金の平均支給額は約1,100万円です。
65歳から年金受給をする前提で上記の収入額をベースにシミュレーションしていきます。
ケース1
【条件一覧】
・夫婦共働き
・2人とも厚生年金と国民年金(基礎年金)を受給する
・退職金あり
・会社勤めしているときに近い水準でゆとりある暮らしをしたい
・余暇を使って旅行に行きたいと考えている
このケースでは、ゆとりある暮らしをしたいため毎月必要な金額は29万円です。
余暇を使って旅行に行きたいと考えているため、年間20万円程度は必要になるのではないでしょうか。
<必要な資金>
361,000円(月)×12(ヶ月)+200,000円(旅費)=4,532,000円(年)
<年金収入>
292,000円(月)×12(ヶ月)=3,504,000円(年)
<不足額>
4, 532,000円ー3,504,000円=1,028,000円(年)
年間約100万円の不足を補う必要があります。
また、旅費においては海外や高級旅館などを選ぶことで更に増えるため、余裕を持たせるためにはまだまだ必要ではないでしょうか。
例え2人分の退職金があったとしても2,200万円の退職金は約20年程でなくなってしまうため、資金を増やすことが重要です。
ケース2
【条件一覧】
・夫婦共働き
・2人とも厚生年金と国民年金を受給する
・退職金あり
・会社勤めしているときより支出を抑えて、必要最低限の生活費で暮らしたい
ケース1と同様に必要な資金に対して不足するか否か、収支を見ていきましょう。
<必要な資金>
255,000円(月)×12(ヶ月)=3,060,000円(年)
<年金収入>
292,000円(月)×12(ヶ月)=3,504,000円(年)
<不足額>
3,504,000円ー3,060,000円=+444,000円(年)
このように最低限の生活費で暮らしたい世帯は年金受給額によっては十分と言えるでしょう。さらに退職金の2200万円は手元に残したままになるため、老後資金に余裕がもてます。
ケース3
【条件一覧】
・夫は会社員で、妻は結婚してからは専業主婦
・厚生年金は夫だけ
・夫の退職金あり
・会社勤めしているときに近い水準でゆとりある暮らしをしたい
・余暇を使って旅行に行きたいと考えている
<必要な資金>
361,000円(月)×12(ヶ月)+200,000円(旅費)=4,532,000円(年)
<年金収入>
211,000円(月)×12(ヶ月)=2,532,000円(年)
<不足額>
4,532,000円ー2,532,000円=2,000,000円(年)
このケースでは資金が足りません。退職金も約5年程度で底をつきます。
そのため、生活費をさげて必要最低限の暮らしをしつつ余暇の旅行も我慢しなければ老後破綻の可能性が高くなるため、目指したい暮らしに向けて年金受給額を増やす確定拠出型年金などの地道な資産形成や家賃収入が期待できる不動産投資などの運用で資金を増やすことをおすすめします。
ケース4
【条件一覧】
・夫は自営業で、妻は結婚してからは専業主婦
・夫と妻ともに国民年金のみ
・自営業のため夫の退職金なし
・支出を抑えて、必要最低限の生活費で暮らしたい
<必要な資金>
255,000円(月)×12(ヶ月)=3,060,000円(年)
<年金収入>
130,000円(月)×12(ヶ月)=1,560,000円(年)
<不足額>
3,060,000円ー1,560,000円=1,500,000円(年)
このケースでは資金が足りず最低限の生活すら出来ません。
退職金も約8年程度で底をつきます。
そのため、ケース3同様に生活費をさげて年金受給額を増やす確定拠出型年金などの地道な資産形成や不動産投資などの運用で資金を増やすことをおすすめします。
4.老後2000万円問題の不安を解消するために大切なこと
老後資金2000万円問題の不安を解消するには自分の年金額はいくらなのか把握し、その上でライフプランを可視化し不足額を補うことです。
それぞれ説明していきます。
-
受給できる年金の額を把握する
多くの人にとって老後の主な収入源になる年金を把握することが、不安解消につながるでしょう。
日本年金機構のWebサイト「ねんきんネット」を活用すれば、将来の年金見込額の試算ができるため、見込額を把握しておくことをおすすめします。
参考:https://www.nenkin.go.jp/n_net/
ねんきんネットは氏名、生年月日、住所、郵便番号、基礎年金番号などを入力すれば登録でき、マイナンバーを用いた登録も可能です。
また、基礎年金番号は年金手帳に記載されているので自身の年金手帳を用意しておくと良いでしょう。
-
ライフプランを可視化する
老後に必要な資金は、どのような暮らしをしたいかによっても変化します。
暮らしの中で娯楽に多くの時間を割きたい場合はかかる費用は多くなりやすく、一方で慎ましく暮らせれば良いと考えるなら費用は少なくなります。
自分が今後どのようなことにお金を使いたいかを明確にすることが重要です。
-
資産形成の検討を始める
2,000万円ほどではないにしても、老後に備えて資産を増やすことは重要です。
ただし、子供や孫の援助などをしたい場合は2,000万円では収まらない可能性もあるため、お金を増やすのと同時にお金を働かせることも考えたいところです。
方法として株式、NISAやiDeCoなどの投資信託、不動産投資などの資産運用、個人年金保険などが選択肢として挙げられます。
その中でも資産価値が高くさまざまなメリットがある不動産投資がおすすめです。
不動産投資がおすすめな理由は下記の記事で説明しています。
>>関連記事:不動産投資は老後資金の対策になる?おすすめの理由、失敗しないコツ
5.老後2,000万円問題は対策すれば補える
金融庁が発表した老後2,000万円問題は大きな話題となりました。
退職金制度を廃止する企業が増加する中で、老後も給与収入があれば老後資金の上乗せが可能ですが、すべての人が定年後に働けるとは限りません。
今の時点で貯蓄額や消費支出に不安がある人は家計収支や老後のプランニングを含め、お金の専門家でプロのFP(ファイナンシャルプランナー)に相談するのも良いでしょう。
老後に必要な資金を把握し、不足額があればリスクと注意点を十分に理解し、不動産投資や個人型確定拠出年金、個人年金保険などを早めに始めておくと良いでしょう。
■監修者プロフィール
宅地建物取引士/FP2級
伊野 文明
宅地建物取引士・FP2級の知識を活かし、不動産専門ライターとして活動。賃貸経営・土地活用に関する記事執筆・監修を多数手掛けている。ビル管理会社で長期の勤務経験があるため、建物の設備・清掃に関する知識も豊富。
【保有資格】
・宅地建物取引士
・FP2級
・建築物環境衛生管理技術者
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