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賃貸住宅の需給バランスについて

公開日: 2022.10.28

最終更新日: 2023.07.03

公開日:2022年7月25


どんな事業でも安定経営を継続するためには実需に応じた供給を心掛けることが重要で、それは建物賃貸事業においても同様です。

昨今では"賃貸住宅に空き家が多くて問題"などのニュースも目にすることがあるかと思います。
果たして本当はどうなのか。

今回は、人口動態に対する住宅ストックという観点で、賃貸住宅の需給バランスについて考えてみたいと思います。

1.住宅ストックと世帯数について

国土交通省の我が国の住生活をめぐる状況等についての住宅ストック数と世帯数の推移を確認すると、2018年時点で住宅ストック数は約6,200万戸となり、総世帯数約5,400万世帯に対して約15%多く、供給量としては十分な数字が確認できます。(別荘など2次利用目的の住宅も含まれている数字です

また総世帯に対する住宅ストック数としては、全都道府県で住宅総数が世帯総数を上回った1973年から約5%?15%多い割合を推移しています。

加えて特に1998年からは約13%?15%ということで、一定の水準で推移していることから住む人間に対して住宅がどんどん増え続けているというわけではないということが見てとれます。


出典:国土交通省 我が国の住生活をめぐる状況等について


それでもやはり住宅が世帯数に対して多いのにかわりありませんが、その住宅の内訳はどうなのでしょうか。

1-1.住宅に対する民間賃貸住宅の割合

住宅ストックに対する民間賃貸住宅の割合は2018年時点で28.5%となっており、1988年からの推移をみてもおおむね30%弱で推移していることがわかります。

出典:国土交通省 我が国の住生活をめぐる状況等について


次に住宅ストックを建築年代別にみていきます。

1-2.建築年代別の住宅ストック数

居住されている住宅ストック総数約5,362万戸(平成30年時点)を建築年代別に見ると、1980年(昭和55年)以前に建築された住宅ストックは1,160万戸存在し、1981年(昭和56年)以降に建築された住宅ストックは3,612万戸存在することが確認できます。

*尚、不詳(建築年又は住宅の種類が不明)は除いた数字となります。

出典:国土交通省 我が国の住生活をめぐる状況等について


2018年(平成30年)の調査によると住宅ストック総数の中に1970年以前の住宅ストックが437万戸、1980年以前の住宅ストックが723万戸、合計すると1,160万戸あることが確認できます。

この数字は、不詳のものを除くと住宅ストックの総数5,362万戸の22%を旧耐震基準の住宅ストックが占めることを表しており、本来は除去すべき旧耐震基準の住宅ストックが1,160万戸あり、老朽化の進んだ旧耐震基準の物件が住宅ストックとして相当数、混在していることが確認できました。


次に住宅ストックには空き家がどれくらいあるのかを見ていきます。

1-3.住宅ストックに対する空き家の状況

平成30年住宅・土地統計調査によると住宅ストック約6,200万戸に対して空き家は846万戸もあるとされています。
ここだけ見ると空き家率は13.6%と過去最高を記録します。

その空き家の内訳では賃貸用の住宅の空き家が約430万戸あるそうです。

空き家にも種類があり、「売却用」、別荘などの「二次的住宅」、それら以外の空き家である「その他の住宅(例えば転勤、入院などで居住世帯が長期にわたって不在であったり、建て替えや取り壊す予定となっている空き家)」があります。

下記データによると平成15年以降「賃貸用の空き家」が減っていることがわかります。

これらのことから賃貸住宅は空室が増えて問題となっているということではなく、賃貸住宅の需要を考えるときに貸し出す意思のある物件で考えるべきということがわかるでしょう。

2.賃貸住宅の新規供給戸数と減失戸数の現状

ここでは、賃貸住宅の新規供給戸数と減失戸数の現状を確認することで、賃貸住宅市場の供給状況が現在どうなっているのかを確認していきます。

まずは、新設住宅着工戸数がどうなっているのか見てみましょう。

2-1.新設住宅着工戸数について

国土交通省が発表した『我が国の住生活をめぐる状況等について』(参考資料1)で、新設住宅着工数における首都圏のシェアの賃貸住宅(貸家)を確認してみると首都圏が36%を占めており、中部圏が10%、近畿圏が15%となり、この3つの地区だけで全体の61%を占めていることが確認できました。

また、総戸数952,936戸に対して、貸家390,093戸と全体の40.9%を貸家が占めていました。



我が国の住生活をめぐる状況等について


次に新設住宅着工戸数の持ち家と貸家の推移を割合でみてみましょう。

下記グラフの黄色の折れ線グラフに注目してください。
新設住宅着工戸数に対する持ち家の比率となります。概ねずっと60%前後を推移していることがわかります。
このことから貸家(民間賃貸住宅含む)は基本的に40%前後を推移していることがわかります。

「1-1建築年代別の住宅ストック数」で述べたことと併せて示すと、住宅の総数の40%が貸家であり、その貸家のうち約22%が旧耐震基準で、老朽化対策など手を打たなくてはいけないストック数といえるのではないでしょうか。
つまり建て替え需要による供給もあるので供給過剰ということに敏感になる必要はないと考えられます。



一方、減失戸数の状況はどうなのかをみてみましょう。

2-2.滅失戸数について

「統計でみる日本 建築物滅失統計調査(国土交通省)」の2020年の月次調査結果を1月?12月までを集計したところによると、除却建築物(災害建築物除く)は約9.7万戸あり、関東および中部、近畿圏の割合を見てみると関東で約25%、中部で約17%、近畿で約12%となっていました。
関東、中部、近畿地区で全体の約54%を占めており、ここでも利便性の高い地域において住宅についての動きが高いことを裏付けていました。

「統計でみる日本 建築物滅失統計調査(国土交通省)」より引用 ※2020年1月?12月集計データ 執筆者作成



しかし本来は除去すべき旧耐震基準の住宅ストックが1,160万戸あるのにもかかわらず、年間10万戸しか除去されておらず、老朽化の進んだ旧耐震基準の物件が住宅ストックとして混在していることが確認できます。

前項で「建て替え需要による供給もあるので、供給過剰ということに敏感になる必要はないと考えられる」と述べましたが、「むしろ建て替えや新規供給を増やさなくては、健全な住宅に住む人の割合が増えないと言える」とも考えられます。

3.住宅ストックの実態と今後の予想

供給量として十分とされている住宅ストックですが、内容をよく調べてみることで、約22%も旧耐震基準の物件が入っていることが確認でき、早い段階での建て替えの必要がある物件が多いことがわかりました。

旧耐震基準の物件については、防災や防犯の面からも改修もしくは建て替えの必要があり、耐震化の対策として国土交通省も支援制度を出しており対応が急がれています。

3-1.住宅ストックの姿(国の考え方)

国としては耐震基準を満たしていない住宅に関して多くの施策を打ち出していますが、耐震基準以外にも目指しているエネルギー効率の基準(ZEHやノンカーボン、省エネなど)やバリアフリー化を目指している状況があり、このような側面から考えれば手を加えなければいけない住宅は多くあることが読み取れます。

国としては住宅ストックのうち約1,500万戸に関しては耐震基準を満たしておらず、急を要する物件として考えており、バリアフリーや省エネなどの基準を満たしていない物件が約2,200万戸あると考えています。
つまり空き家などを除く約3,700万戸、人が居住している物件の約70%の物件が建て替えもしくはリフォームなど手を加える必要があると考えています。
このことは新築着工戸数の推移から、貸家の割合が一定数あることから、貸家についても同様に言うことができると考えられます。


以上のことから世帯数約5,400万戸に対し、健全に管理、運営されている住宅は約3,700万戸しかなく、日本の住宅において満足に供給できている住宅は不足しているといえるのではないでしょうか。

国としてはさまざまな施策で健全な住宅ストック数を増やす取り組みをしています。
次に具体的にどのような取り組みを通して健全な住宅ストック数を確保しようとしているのか紹介していきます。

3-2.国が住宅に対して行っている施策(空き家対策)

まずは、空き家問題について考えていきましょう。

国土交通省の我が国の住宅ストックをめぐる状況について(補足資料)によると、空家となった住宅の取得原因の半分以上が相続で占めており、空家にしておく理由として、解体に係る費用負担や当面の必要性がないことが挙げられています。

我が国の住宅ストックをめぐる状況について(補足資料)



住宅が足りていない現状とずさんな空き家の管理状況を改善するために、平成27年に「空き家等対策の推進に関する特別措置法」いわいる空家法が、施行されました。

?倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
?著しく衛生上有害となるおそれのある状態
?適切な管理が行われないことにより著しく景観を損なっている状態
?その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態

上記4つのような不適切である状態を「特定空家」とし、特定空家等に対しては、除却、修繕、立木竹の伐採等の措置の助言又は指導、勧告、命令が可能となり、さらに要件が明確化された行政代執行の方法により強制執行が可能となっています。

今後、放置された空家については、対策が取られることとなり減少が見込まれ結果として建て替えの要因・健全な住宅ストックの確保の一因となりそうです。

建て替えに関して、自治体によっては、空き家対策として解体費用の助成金制度があります。

また、平成31年度税制改正の空き家の発生を抑制するための特例措置(空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除)も建て替え要因の一つとなります。

3-3.国が住宅に対して行っている施策(省エネ対策)

ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの推進に向けた取り組みとして、2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、経済産業省、国土交通省、環境省が連携して住宅の省エネ、省CO2化に向けた取り組みが始まっており、開発する事業者や個人に対して補助事業がスタートしています。

経済産業省の省エネポータルサイトによると、ZEH(ゼッチ)とは、外皮の断熱性能等を大幅に向上させ、高効率な設備システムの導入し、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギーを実現し、再生可能エネルギーを導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロとすることを目指した住宅と紹介されています。

今後、健全な住宅ストックを確保するための建て替え需要の一つとなることが期待されています。

地球温暖化対策や世界的なSDGsの流れもあり、ZEH(ゼッチ)(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)は、注文戸建て住宅だけでなく賃貸住宅としても注目が集まっています。

4.まとめ

今回、世帯数や建築物の推移を確認することにより、住宅の健全なストック数は足りていないということがわかりました。

また、住宅の動きに関しては都市圏や利便性の高い地域で動きが多いという特徴もわかりました。

空き家問題に対して、国の施策が実施されていますが、まだまだ整備が進んでいない状況があり継続的に一定量の賃貸住宅の供給が必要とされています。

とはいえ、今後の賃貸住宅の新規供給については、最新の市場環境を確認し、綿密なエリアマーケティングに基づく物件供給をすることが重要となるため、プロの手を借りることも必要です。それにより、円満な資産継承、家賃収入による安定した収益源の確保、資産価値を落とさない活用が見込まれる事業となってきます。


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エリアマーケティングレポート

執筆者プロフィール
ぷらんにんぐるーむ 代表 貴子】

マイアドバイザーR。印刷会社で資材担当から社内で初の女性DTPオペレーターに。結婚退職後、自動車関係の仕事に従事。自動車保険の取り扱いを機会にFPを取得。
お客様に寄り添うあなたサイズのFPコンサルタントとして活動。
地域でファシリテーションを学ぶ会の立ち上げに関わり5年、毎月勉強会を運営委員として企画、実施中。あわせて防災イベントや災害支援活動に参加。演を行っています。趣味は漫画(約6,000冊所有)。物の設備・清掃に関する知識も豊富。

【保有資格】

・AFP・FP技能士(2級)・相続診断士・2級キャリアコンサルティング技能士・国家資格キャリアコンサルタント

監修者プロフィール
【株式会社優益FPオフィス 代表取締役 佐藤 益弘】

マイアドバイザーR。Yahoo!Japanなど主要webサイトや5大新聞社への寄稿・取材・講演会を通じた情報提供や、

主にライフプランに基づいた相談を顧客サイドに立った立場で実行サポートするライフプランFPRとして活動している。

NHK「クローズアップ現代」「ゆうどきネットワーク」などTVへの出演も行い、産業能率大学兼任講師、日本FP協会評議員も務める。


【保有資格】

・CFP・FP技能士(1級)・宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士

・住宅ローンアドバイザー(財団法人住宅金融普及協会)

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