温故知新 ~未来へのバトン~ 第3回: 「鉄筋コンクリート造」商品の歴史<前編>

鉄筋コンクリート造商品の誕生から見る、大東建託の挑戦の軌跡

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賃貸住宅商品の開発者とともに大東建託の商品開発の歴史を振り返る「温故知新 ~未来へのバトン~」。第3回目は「鉄筋コンクリート造(以下、RC造)商品の歴史」をテーマに、これまでの大東建託のあゆみや商品開発における思い、そして創業50年目を迎えた大東建託の目指す「賃貸住宅の在り方」を紐解きます。

右/戸田 宗稔(とだ むねとし):商品開発部 課長、2013年4月入社。RC造商品「リグノ」の商品開発を担当し、当社独自の中層建築向け建築システム「リグノ式」の開発にも携わる。その他、木造企画型商品シリーズである「シエルガレージ」と「シエルオーナー」の商品開発も担当。商品開発歴10年
左/今村 由吏(いまむら ゆり):商品開発部 商品開発課、2018年4月入社。新卒として入社後に支店設計課で3年間設計業務に従事した後、本社の首都圏設計センターで特注RC案件の設計を担当。現在は商品開発部で実物件設計やエクステリア設計プレゼンテーション資料作成等の支店支援に携わる。
今回は、商品開発部課長の戸田さんと後輩社員の今村さんによる対談を通して、RC造商品の開発現場について伺っていきます。当社がRC造に取り組み始めたのは、1995年。当社で初めて全国展開された木造ツーバイフォー工法※1(以下、2×4工法)商品「ニュークレストール24」の開発から翌年のことでした。
※1 木造建築の工法である「木造枠組壁工法」の一つで、木材で作る枠組に合板を付けてパネル化し、壁・床・天井に組み合わせて六面体の構造を形成する工法。「面」で支えられるため地震や強風などの外力に強く、頑丈な構造を持つ。主に断面が2インチ×4インチの規格材を使用することから、「2×4工法」と呼ばれている。

■第1部 : 大東建託が木造からRC造に参入した背景とは?

今村:販売実績の8割が木造と、「大東建託=木造(2×4工法)」のイメージが強い当社が、RC造に参入したのには、どんな背景があったのでしょうか。

今村 由吏さん

ーー戸田:1990年代、当時の都市計画法により防火地域・準防火地域※2には高い防火性能が求められ、土地オーナー様からアパート建設のご相談いただいても木造アパートを建てることが制限※3されていました。これが、当社がRC造に取り組み始めたきっかけです。
※2 都市計画法で「市街地における火災の危険を防除するため定める地域」として指定されるエリア
※3 2000年に建築基準法が改定され、現在では木造でも階数が3以上、または延べ床面積が100㎡を超える建物でも耐火建造物の基準を満たせば建設が可能です。

戸田 宗稔さん

ーー戸田: 賃貸住宅市場へ参入して以降、当社は多様化するオーナー様のニーズに対応するため、商品建物のバリエーション拡大を目指してきました。創業期から鉄骨造も扱っていましたが、鉄骨造を得意とするハウスメーカー系の競合他社に対抗するには、様々な課題がありました。一方、RC造には造形の柔軟性があり、外観デザインや間取りなどの設計において自由度の高い設計が可能です。当社はこの柔軟性を活かし、当社が考える“造形の美しさ”を追求した建物デザインで他社との差別化を図りました。

エストレーノランデュール(2004年)/RC造の豊かな表現力を活かし、建物の細部に装飾を施すことで、大東建託独自の魅力を演出した

今村:当時の商品カタログを見ると、RC造においても海外の建築物に見られるデザインを意識した細部の造形がとても特徴的だと感じました。大東建託は2×4工法商品で作り上げたデザインイメージをRC造でも踏襲させていくことで、差別化につなげていったんですね。

ーー戸田:当時、世帯の最小単位は「家族(ファミリー)」で考えられていました。初代商品である「ニューマリッチRC」は、どこでも建てられる “スタンダードなRC造賃貸住宅” として開発されました。共用廊下の片側に住戸の玄関扉が並ぶ「片廊下型タイプ」の賃貸住宅で、和室を含む一般的なカップル・ファミリー向け2LDK~3LDKの間取りになっています。

ニューマリッチRC(1996年)※パンフレットより抜粋


ーー戸田:当社の商品開発は、1つの商品を継続的に改良を重ねることで新しい商品へと進化させていきます。初代の商品をベースにして、その時代の世帯の特徴や建設地域で求められる居住者ニーズに合わせていくことで、現在のような多種多様なタイプの商品開発となっています。


今村:当社の商品バリエーションがとても多いのは、“建設地域の住宅需要と供給バランスに即した賃貸住宅を提供していくため”という理由もあったんですね。


ーー戸田:2000年代に入り核家族化が進むと、1K・1LDKといった間取りの都市部向け高層建築(5階建て以上)、都市近郊向け中層建築(3~4階建て)の開発を行うようになりました。そして、都市部とその周辺エリアへの営業が強化されたことで、当社の販売領域はさらに拡大していきました。

■第2部 : 後発組の利点を活かすことで生まれた販売戦略

今村:競合他社も首都圏での販売を強化している中、当社はどのようにして競争力を高めてきたのでしょうか。


ーー戸田:当社は、都市部においては後発で賃貸住宅市場に参入したため、他社にはない独自の価値を創出し、競争力を確立していく必要がありました。そのため、当社が首都圏の販売強化策として最初に取り組んだ戦略は、賃貸効率を高め収益力を向上させることでした。

そこで生まれたのが、当社が独自に開発した「アンダー10(以下、U10)」という仕組みです。これは、建物の高さが法規定10m以下のエリア※4でも、室内天井高2.3mを確保しながら、通常よりも1階層多い4階建ての建設を可能にするシステムです。これにより、「低コストで建てられる木造(2×4工法)提案」と、「賃貸効率の高い4階建てRC造の提案」が可能になり、競合他社の「3階建て鉄骨造の提案」と比較しても同等以上の提案力を得ることができました。
※4 第一種・第二種低層住居専用地域

ライルフィット(2012年)

今村:U10として最初に開発された商品が「ライルシリーズ(2009年~)」ですよね。U10はその後改良され、ユニットバスを上下階で交互に配置することで施工性を向上させた「リグノ」に生まれ変わりましたね。

ーー戸田:そうですね。この新システム開発のために、社内プロジェクトが立ち上げられ、構造・設備・商品開発の担当者がそれぞれの視点から意見を出し合いながら、幅広い議論を行いました。私も商品開発者としてこのプロジェクトに参加していました。この改良によって、居住性が向上するだけでなく、コスト削減と高さ調整に関わる現場作業の軽減にもつなげることができました。また、このシステムは「リグノ式」として特許も取得※5しています。
※5 特許6662816号

リグノ(2017年)

リグノ式/ユニットバスを上下階で交互に配置することで、 ユニット内上部の設備機器・ダクトスペースの確保と室内天井高2.0mの確保が可能になった。

今村:首都圏エリアは敷地条件が複雑なため、特注で建物を設計することが一般的です。なぜ私たちは首都圏エリア向けの商品開発に積極的に取り組むのでしょうか。


ーー戸田:全国で事業を行う当社にとって、商品開発には品質の均一性や、支店での設計業務の負担軽減が求められます。これらを踏まえ、首都圏エリアでの販売強化策として、U10を採用した中層建築商品「リグノ」に続き、2021年には高層建築商品「リヴァーサRC ロコモK(以下、ロコモK)」を開発しました。

リヴァーサRC ロコモK(2021年)

ーー戸田:この商品の特徴は、建物の幅と奥行きを敷地条件に合わせて自由にカスタマイズできることです。ロコモKは支店で請け負う特注物件における“ひな形”の役割を担っており、事前にプランごとに設定された仕様基準※6によって、積算※7から発注に至るまでの詳細な情報がデータ化されています。首都圏の複雑な敷地条件下では特注で建てられることがほとんどですが、設計業務から積算、発注、現場管理までの一連の業務を支店で一つ一つ行うのは非常に大変な作業です。 このロコモKを“ひな形”にすることで、営業担当者はオーナー様へのスピーディなご提案、設計担当者はプランデータを活用した設計作業の効率化、工事担当者は資材の一括調達による品質の安定につなげることができるようになっています。
※6 賃貸住宅の品質や性能、機能、特性などを定めるための基準や基準値
※7 建築工事において、建築物の完成に必要な材料や労力、費用などを推定・計算する作業

今村:私は入社後に支店配属になって、すぐに設計担当として現場でプランの設計業務を任されました。まだ右も左も分からない新入社員だったので、大東建託がこれまで蓄積してきたプランデータや設計資料があったことで、一つ一つ調べながらやれば、例え経験の少ない社員でもプラン設計ができる環境があって、すごく助けられた実感があります。

商品化によってすべてが効率的に設計されているので、積算も精度が高く、建築価格の抑制にもつなげられているなと思いました。


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