温故知新 ~未来へのバトン~ 第2回: 「2×4工法」商品の歴史<前編>

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大東建託の商品開発の歴史を振り返る「温故知新 ~未来へのバトン~」が9月からスタートしました。本連載では、商品開発の最前線で戦い続ける社員とともに、時代の変遷を辿りながら、大東建託のあゆみや商品開発における思いを紐解いていきます。
創業50年目を迎えた大東建託が目指す「賃貸住宅の在り方」とは何か。これまでの軌跡の中から未来へとつながるバトンを商品開発部の先輩・後輩社員による対談を通して見つけていきます。

右/清水 蒔子(しみず まいこ):商品開発部 商品開発課、2017年4月入社。新卒として入社後、八王子支店の設計課で2年間設計業務に従事。その後商品開発部へ配属となり、現在は新商品の意匠(建物デザイン)を担当。「ニューライズ」をメインに担当する他、これまで「ルタンⅢ」「ポポラ」などの商品開発にも携わる。商品開発歴4年
中央/田﨑 俊幸(たざき としゆき):商品開発部 課長、1992年11月入社。大東建託初となる2×4(ツーバイフォー)工法による賃貸住宅の商品開発に関わり、発売当時大ヒットとなった「ニュークレストール24(ツーフォー)」を誕生させた生みの親。現在はスペシャリストとして商品開発に携わりながら後進の育成にも取り組む。商品開発歴29年(その他の本社歴も一部含む)
左/永井 千尋(ながい ちひろ):商品開発部 商品開発課、2019年4月入社。新卒として入社後に商品開発部へ配属される。清水さんと同じく「ニューライズ」の意匠を担当。その他、大東建託の高付加価値商品シリーズ「シエルオーナー」「シエルガレージ」などの商品開発にも携わる。商品開発歴4年
第2回目は、商品開発部課長の田﨑さんと、後輩社員の清水さん・永井さんによる対談です。田﨑さんは、大東建託初となる2×4工法商品の開発を担当しました。 田﨑さんの入社当時、当社の賃貸住宅は創業時から貸倉庫・貸工場などの事業用賃貸建物で培ってきた技術を活かし全て鉄骨造で建てられていました。ところが、当時未知の分野であった木造2×4工法が、今では完成建物の約7割を占めるまでになりました。今回は“2×4工法の歴史”に焦点を当て、2×4工法が当社の主力工法へと成長するまでの軌跡を辿っていきます。

■ 第1部:起死回生の一手「ニュークレストール24」の誕生

清水ー鉄骨造主軸でやってきた大東建託が、なぜ新たに2×4工法に挑戦することになったのでしょうか?鉄骨造のままでは難しかったのでしょうか?

 田﨑ーその理由は、私自身の入社時代まで遡りますね。当時商品開発部には、私と2×4工法経験を持つ社員の2人が同時期に入社していました。入社後に私達2人が2×4工法の商品開発担当となったところから、大東建託の木造の商品開発は始まりました。その頃はまだ鉄骨造が主流でしたが、鉄骨造だと建てることが難しい 敷地であったり、家賃を抑えたい、等の課題があるエリアに向けた新たな販売促進策として、2×4工法の商品開発がスタートしたんです。その後、地域限定商品として初めて2×4工法で販売開始したのが「クレストール24」です。この「クレストール24」がその後、爆発的に大ヒットした「ニュークレストール24」へとつながっていきます。

 永井ー「ニュークレストール24」の前身となる商品があったのは知らなかったです!

清水ー木造2×4工法という言葉自体がまだ新しく、しかも鉄骨造が当社ではまだ主力だった中、社員もクレストール24の販売に苦労したのではないでしょうか?

田﨑ー2×4工法の営業や設計・施工体制が社内でまだ整っておらず、そう上手くは売れなかったですね。販売開始(リリース)に合わせ、私達商品開発担当者が支店で説明会も行いながら社内浸透を図っていましたが、新しい工法の商品を懐疑的に思う社員も多く、中には「あれ(2×4工法)には手を出すな」と敬遠されていたのも事実です。
体制や売上げ、社員への浸透もままならない状況にもかかわらず、一般地域(全国)向けに再び新たな2×4商品を作る号令が掛かったんです。当時売上げが伸び悩む状況の中での経営判断で、創業者がこの頃に視察で訪れたアメリカで、2×4工法の住宅を目の当たりにしたことがきっかけでした。その工法に可能性を見出した創業者からのトップダウンで、当社初の全国向けの2×4工法商品が誕生しました。 起死回生を狙いこの時指示された内容は、「輸入っぽいもの(輸入住宅風賃貸住宅)を作れ!」でした。

永井ー「輸入っぽいもの」の指示に対して、どうやってデザインへ落とし込んでいったんですか?

田﨑ーまず「輸入住宅風デザイン」のイメージを膨らませるために、視察地だったアメリカに限らず、雑誌や旅行パンフレットに載った住宅の写真など、あらゆるものを参考にしながら、商品アイデアを考えました。でも、こうして完成した初回プレゼンでの経営層の評価は「今までの賃貸住宅と何も変わっていない」の一言。全くダメでしたね。

出来上がった最初の「輸入住宅風デザイン」は、従来からある中階段タイプだった

永井ー「変わっていない」という指摘を受け、変化をつけるためにどうアプローチしていったんですか?

田﨑ー初回プレゼンでは、日本にある賃貸住宅(共同住宅)の住戸形態をそのままに、外観を輸入住宅っぽくデザインしていました。ですので「外観だけじゃなく根本から変えなくてはいけない」と、原点に立ち戻ってプラン(間取り)から考え直すことにしたんです。再考した商品デザインが完成したのは、初回プレゼンからわずか2週間後でした。

2回目プレゼンのデザイン画。外観だけでなく屋根形状や間取りも一から考え直し、1つの「邸宅」に見えるような、これまでにないデザインが完成した。

永井ーここから2週間で新たなデザインとプレゼン資料を作っていったのはすごい!!この新商品の開発から、当時はめずらしかった賃貸住宅の形態「長屋住宅※1」が生まれたんですよね。何がきっかけだったんですか。
※1 廊下や階段などの共用部分を持たない集合住宅

田﨑「1階に2階の玄関があっても面白いんじゃないか」という発想ががきっかけでした。もともとアメリカは戸建住宅がメインだったため、新たなデザインでは、戸建住宅らしい外観を残しながら集合住宅の間取りを取り入れることにしたんです。そこでポイントになったのが「玄関」でした。2階住戸の階段を住戸内の専用階段にし、1階に玄関を配置することで外部階段や共用廊下をなくし、より戸建感覚あふれる外観シルエットと間取りが実現できたんです。

1回目プレゼン時のフロアプラン/当時の集合住宅では一般的な「中階段形式」を採用した

2回目プレゼン時のフロアプラン/各階に配置されていた玄関が1階に集約されたことで、1Fと2Fの間取りが異なる賃貸住宅が完成した

永井ー  再プレゼンした時の反応はどうだったんですか?

田﨑ー  資料を見せた途端に「これ自分の家にいいなぁ!」と好評価を受けました。即商品化が決定し、そこから2か月半後にフラットタイプ※2とメゾネットタイプ※3の2タイプ、計22プランが、全国に一斉販売されることが決まりました。こうしてできたのが、ニュークレストール24です。社内に浸透しづらかった2×4工法第1号商品のクレストール24から一転、ニュークレストール24は社員にも好評となりました。
※2 1階層からなる部屋、※3 室内に階段があり、2階層以上からなる部屋

2回目プレゼン時の外観デザイン案/海外住宅を模した「輸入住宅風デザイン」の外観が完成。

完成したニュークレストール24。開発着手から2か月半で販売開始に至った。

当時の商品パンフレットに掲載された内観※(一部抜粋)/玄関から2階リビングまでの吹き抜けや、戸建で使われる建材を採用するなど、これまでのアパートとは一線を画した、魅力ある空間となった ※メゾネットタイプ

永井ー  構造や住戸形式が異なる2タイプを同時に販売開始するのは今では考えられないです。私が担当した「NEWRiSE(ニューライズ)」は、9月に新たな2LDKタイプの間取りが増えましたが、この時販売開始したのは南入り玄関と北入り玄関の計2プランです。現在の商品開発では、同時進行で複数タイプの商品開発をすることはなく、少しずつタイプを増やしていくことで、商品バリエーションを拡充させています。また、新商品は主に既存商品と入れ替える形で開発し、現代の社会課題や入居者ニーズを捉えた新しい商品として生まれ変わるようにしています
田﨑ー  今の商品開発は、ニーズの多様化によってプランバリエーションも多種多様になり、より建設地の敷地条件や地域環境に合わせたプラン選択ができるようになりましたね。

ニューライズ(2022年)

ニューライズには、多彩なプランバリエーションに加え、趣の異なる4つの外観デザインも用意されている

第2部:2×4工法から始まった木造賃貸住宅への挑戦

清水ー初めて全国展開する商品が鉄骨造ではなく、2×4工法に決まった背景は何だったんでしょうか。前例がない中での全国展開に、ハードルはなかったんでしょうか?

田﨑ー2×4工法でやることになった直接的な要因は特にないと思っています。2×4工法の目新しさと海外の合理的な作り方に、創業者自身が可能性を感じたのではないでしょうか。もちろん、当時の当社には2×4工法の施工体制はなく、材料調達も施工体制も一から作り上げていくしかありませんでした。しかも、「ニュークレストール24」は輸入住宅風の外観が人気を集め、当時TVCMも流していたこともあり、入居待ちが出る程の人気商品になっていました。想像以上の反響に施工体制が追い付かず、販売しながら地域に体制を作っていかなくてはいけませんでした。2×4工法を全国に展開できたのは、創業者のカリスマ性とリーダーシップによって、施工体制整備のために社員一丸となれたことが大きな原動力になっていたと思います。

清水ー全国展開に向けて、どのように材料調達と施工体制を整備していったんですか。

 田﨑ー 「ニュークレストール24」で使用する木材やサッシなどの建材は全て海外から調達することになり、安定した供給網を築くためにカナダのバンクーバーに法人を設立しました。ところが、建材の調達は目途が立ったものの、建材に関する図面などの資料は全くなく、納まり(部材の取り付け方など)も全然分からない 。資料を取り寄せてみても中身は全て英語表記であったり、何もかも手探りの状態からのスタート でした。一方、施工面では、当時は2×4工法の経験がある職人は国内におらず、現場指導のためにカナダから直接職人を呼ぶところから始め、私達もニュークレストール24の商品開発 をする傍らで、施工体制整備に向けた施工マニュアル作りも行いました。大東建託の2×4工法の体制は、職人や技術者を育てながら整備されてきたんです。

永井ー 2×4工法の体制作りには大変な苦労があったんですね。

永井ー2×4工法が定着した後も、当社は新たな工法(ネオフレーム工法※4)の開発などに挑んできていますが、それはどうしてでしょうか。

※4 2×4工法の特徴である耐力パネルを強度の高い集成材フレームにはめ込んだ当社オリジナル工法。現在は販売終了しています。

田﨑ー ネオフレーム工法は、使用する集成材をすべて工場でプレカットすることで、現場での廃材量の削減にも、施工精度の向上にも寄与できる合理的な工法です。この新工法の開発には、私も参加していました。
2×4工法は、「ニュークレストール24」の開発をきっかけに、大東建託の主力工法へと成長しましたが、その道のりは平坦なものではありませんでした。特に、1994年にアメリカ(クリントン大統領政権下)で策定された森林計画 を受け、輸入木材を入手できなくなくなったことを背景に、木材ではない“スチールハウス工法 ”に取り組んだこともあります。その後、木材に頼らない当社オリジナルの“Kブレース工法(鉄骨造)”の開発や、国内林業活性化に向け国産材を活用した“ネオフレーム工法”の開発などが進められ、当社の商品開発 はさまざまな社会課題と向き合うことで多様化してきたんです。現在では、現場作業の負担を軽減するなど、昨今深刻化する大工の担い手不足といった課題解決にも貢献できる工法として、エコプレカット工法もありますね 。

永井ー 「今までにないことをやろう」という大東建託の柔軟な考え方が、社会や求められるニーズの変化も、成長のきっかけへと上手く切り替えることができたんですね。

第3部:これからの未来へ、つないでいきたいこと

永井ー田﨑さんの考える「大東建託らしさ」とはどんなものでしょうか。

田﨑ー 昔から言われてきたことが、「会社のアイデンティティを作れ」です。昔の商品は「“賃貸住宅らしからぬ”住まい」を追求し、「輸入住宅風」や「邸宅風」のデザインとすることで、その独自性を確立してきました。

永井ー 確かに、外観を見ただけで大東建託の建物だと分かります!そう考えると、最近の商品はより建物の中での「暮らし」に焦点を当てていて、生活の豊かさの表現方法は「“賃貸住宅らしからぬ”間取り」へと変化してきたのかなと感じました。

田﨑ー 時代の変化とともに人々の価値観や暮らし方が変わってきたのだろうと思います。最近の商品の中には、これまでの賃貸住宅には当たり前にあった“バルコニー”に代わり、“サンルーム”を取り入れた 間取りも出てきていますね。これも近年の小家族化やライフスタイルの多様化に合わせた新しい挑戦だったと思います。商品開発の現場でも、私達の生活を取り巻く環境の変化に合わせて、アプローチの仕方や時間の掛け方など昔とは違ってきていますが、「設計者として自分自身の“思い”を一番大切にする」という事だけは、これからの世代のみなさんにも、ずっと持ち続けていって欲しいなと思っています。

サンルーム仕様の間取り例/入居者様の暮らしにゆとりをプラスする自由な空間「エクストラルーム」を設置(クルールピット)

清水ー 今の現場では、商品開発チームのメンバーをシャッフルして、新商品につながるアイデア出しも行っています。互いのナレッジを共有することでチーム間の壁を無くし、枠にとらわれない自由な発想力を育てることが狙いです。田﨑さんのお話を聞いて、“思い”を持ち続けることが、その一歩なのかなと感じました。これまで大東建託が大事にしてきた「新しいものを生み出す力」に変えられるよう、私達も引き続き挑戦していきたいと思います!


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