温故知新 ~未来へのバトン~ 第2回: 「2×4工法」商品の歴史<後編>

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賃貸住宅商品の開発者とともに大東建託の商品開発の歴史を振り返る「温故知新 ~未来へのバトン~」、第2回目は「2×4工法商品の歴史」をテーマに、これまでの大東建託のあゆみや商品開発における思いを紐解きます。
創業50年目を迎えた大東建託が目指す「賃貸住宅の在り方」とは何か。これまでの軌跡の中から未来へとつながるバトンを商品開発部の先輩・後輩社員による対談を通して見つけていきます。

右/櫻井 正雄(さくらい まさお):商品開発部 課長、2000年5月入社。2020年よりスタートした企画型商品「シエルシリーズ」の第1号商品「シエルコート」と、当社初の長期優良賃貸住宅「シエルパティオ」の商品開発を担当。その他、約30商品の開発に携わる。商品開発歴22年
左/永井 千尋(ながい ちひろ):商品開発部 商品開発課、2019年4月入社。新卒として入社後に商品開発部へ配属される。大東建託の高付加価値商品シリーズ「シエルオーナー」「シエルガレージ」などの商品開発に携わる他、環境配慮型商品「ニューライズ」の意匠も担当。商品開発歴4年
第2回の前編では、商品開発部の田﨑さんから、大東建託初の2×4工法による商品開発や、大ヒット商品となった「ニュークレストール24」の開発秘話などを伺いました。後編となる今回は、商品開発部課長の櫻井さんと後輩社員の永井さんによる対談で、現在の2×4工法商品の開発現場について伺っていきます。

■ 第4部:大東建託の新たな挑戦となる「シエルシリーズ」が始動

時代とともに住まいに対する価値観も変化し、賃貸住宅にもこれまでのように高い収益性だけでなく、社会変化への対応力も求められるようになってきています。大東建託は土地オーナー様へより幅広い提案を行えるよう、これまで主軸としていた賃貸効率の高い「基幹商品」の開発に加え、新たに入居者様の多様なライフスタイルに合わせて様々な高付加価値賃貸住宅を提案できる、「企画型商品」の開発に着手しました。この商品シリーズとして2020年に誕生したのが、「シエルシリーズ」です。櫻井さんは、シリーズ第1号商品「シエルコート」の開発者として、シエルシリーズの立ち上げにも参加をしていました。
 永井ー 「企画型商品」はこれまで開発されてこなかったのでしょうか。

  櫻井ー 過去にも「〇〇を超える賃貸」をコンセプトに、主力商品よりワンランク上の商品を作ったこともありました。この時は素材や広さなどの“住まい”視点で生活の豊かさを表現していて、“ライフスタイル(暮らし)”視点でコンセプトを立てる今の「企画型商品」とはちょっと異なる印象です。
“暮らしの在り方”の多様化によって個々がライフスタイルを持つようになり、賃貸住宅に求められることは“住まいのグレード”ではなく、“ライフスタイルにどれだけ寄り添えるか”に変化してきています。「企画型商品」の登場によって、こうした市場の変化に合わせて柔軟な商品開発ができるようになりました。


<「〇〇を超える賃貸」をコンセプトに開発された商品>

“賃貸住宅を超える賃貸”(メリディオ24 2004年)/イタリアンヴィラ様式の外観デザイン。南北両方に玄関(1階住戸は南側、2階住戸は北側)がある「リバースフラット形式」を採用。

“戸建住宅を超える賃貸” (サンレミ 2004年)/素焼風の屋根と、塗装と石積み風の外観が特徴のプロヴァンス風の外観デザイン。室内には天然石の対面カウンターや鋳物調のカーテンレールなどを採用。

 永井ー 櫻井さんが商品開発されたシエルシリーズの第1号商品「シエルコート」には、入居者共用のエントランスゲートや中庭、 そしてその中庭を囲うようにコの字型に建物を配置するなど、これまでの大東建託にはない“新たな挑戦”がたくさん詰まっているのを感じます。「企画型商品」開発に向け、どこから着想を得たのでしょうか?

シエルコート(2022年) 

櫻井ー シエルコートは、企画型商品のテーマである「高付加価値」や「ライフスタイル」をキーワードに、「セキュリティ」に着目して考えました。一般的なアパート※1の場合、住居へは直接玄関から入るため、マンション※2にあるようなオートロック機能の付いた建物はまだ数少ないのが現状です。そこから、「マンションと同じような安心感を提供できる“オートロック型の2階建てアパート”が作れたら、これまでにはない新たな付加価値の付いた賃貸住宅ができるのではないか」と発想しました。

※1 主に木造や軽量鉄骨造でできた2階~3階建ての集合住宅。
※2 主に鉄筋コンクリート造や鉄骨造でできた3階建て以上の集合住宅。廊下、階段等の共用部分がある。

アパート例/外部から各住戸へ直接出入りが可能(ニューデフィ 2023年)

マンション例/共用エントランスにオートロック機能がある(リヴァーサRC ロコモK 2021年)

永井ー 確かに、セキュリティ面はアパートとマンションとで違いが出ますね。デザインの面ではどう考えたのでしょうか。

櫻井ー 当社の商品開発は、近年の賃貸住宅ニーズの高まりに合わせ、モダンデザインが主体となっています。その一方で、「ニュークレストール24※3」以降続いてきた“外国様式の邸宅風デザイン”も、「大東建託のアイデンティティとして継承して欲しい」という声が社員から上がっていました。そうした背景から、このシエルコートでは、今の時代に合わせた新たな外国様式の外観デザインを追求していくことにしました。
※3 2×4工法による当社初の全国向け賃貸住宅(1995年)

永井ー 第1号商品は、「セキュリティ」「外国様式の邸宅風デザイン」の2つを軸にイメージを膨らませていったんですね。参考にしたイメージはあったんですか。

櫻井ー この時にイメージとして参考にしたのが、12年前の海外視察で訪れた各地の街並みや建築様式です。シエルコートのような外観デザインの建物があったわけでは勿論ないですが、特に印象に残ったフランス郊外の住宅が、シエルコートのアイデアのヒントになりました。また、様々な国を巡る中で国や文化の違いによって異なる様式や考え方に触れられたことが、“これまでにない”「セキュリティ」の着想につながりました。

シエルコートの中庭

永井ー 海外視察の話は前回田﨑さんからも伺いましたが、その後も行われていたことは初めて知りました。ニュークレストール24のように、シエルコートもその時のアイデアがもとになって誕生していたんですね。視察はどんな場所を訪れたんですか。

櫻井ー 海外視察は4つのグループに分かれ、それぞれの視察ルートで計11か国を約15日間で周りました。この視察を通して異文化を実際に“体験”することで、住まいの新しいヒントとなる新商品の“種”を発掘し、次世代の新商品開発に活かすことを目的に行いました。戸建住宅や集合住宅を巡る他にも、寺院などの歴史的建造物の見学や、先進の建材・資材や環境などの情報収集も行いました。シエルコートの他にも、この視察で得たアイデアから、「コッティ」「ビオーラ」「アシェイド」の新商品開発、そしてCLT工法の開拓にもつながっています。


<視察後の報告レポートより抜粋>

コッティ(2012年)

ビオーラ(2012年)

アシェイド(2012年)

永井ー 海外視察は、当社の商品開発においてとても大きな役割を担っていたんですね。
シエルシリーズは今後どのようなシリーズとして展開されていくのでしょうか。

櫻井ー シエルシリーズは、時代のニーズに対する当社の考えを反映した新しい賃貸住宅の在り方を提案することで、入居者様の多様な嗜好に合わせた市場競争力の高い商品を創り出すことを目指しています。「いままでにない賃貸住宅」をテーマに、シエルシリーズは今後も、全商品コンセプト設計から作り上げる企画型商品シリーズとして新たな挑戦を続けながら、さらなる商品ラインナップの拡充を図っていく予定です。


<シエルシリーズから誕生したコンセプト型賃貸住宅>

シエルパティオ(2022年)/当社初の長期優良住宅。1階住戸にはプライバシーを確保した専用テラスがあり、 「家時間」を自分らしく楽しむ暮らしを実現。

シエルガレージ(2022年)/ガレージ付き賃貸住宅。レーシングカーなどのデザインに使われる「レーシングストライプ」を水平ラインに取り入れ、車やバイクとともに住まう遊び心を表現。




 シエルオーナー(2022年)/賃貸併用住宅。建物の大きさ・形状・デザインを自由に組み合わせることが可能な「セミオーダー式」を採用。3つの外観デザインをラインナップし、オーナー様ごとのデザイン嗜好に対応。

■ 第5部:商品開発への向き合い方

永井ー 「これまでの賃貸住宅にはないもの」を創り出す過程で、“大東建託のアイデンティティ”はこれまでどのようにして受け継がれてきたのでしょうか。

櫻井ー 「1つの邸宅に見えるようなデザイン」という考え方は先輩社員からアドバイスとして受けていましたが、 決して“大東建託らしさ”の『正解』が存在するわけではありません。これまで社員一人ひとりが “新しいもの(新たな挑戦)”を考え積み重ねてきたことが、“大東建託らしさ”を形成してきたのだと思います。商品開発者自身の価値観の違いがあったからこそ、大東建託は豊富な商品バリエーションを生み出し、お客様から支持を得てこられたのではないでしょうか。

永井ー 確かに、「大東建託の建物はすぐ分かるよね」と言っていただくことがありますが、技術者の目で個々の商品を見てみると、商品開発者によって商品デザインにそれぞれの個性を感じます。一人一人の価値観が違うからこそ、“大東建託らしさ”の表現の仕方に違いが出てくるんですね。櫻井さんのデザインする建物は、やさしくてあたたかな建物という印象です。櫻井さんの考える「大東建託らしさ」とはどのようなものでしょうか。

櫻井ー “外国様式の邸宅風デザイン”の外観だけでなく、今回シエルコートで表現した明るくやわらかな色使いや、アール(丸み)の付いたデザインから生み出される「親しみやすさ」が「大東建託らしさ」の1つだと私は考えています。

■ 第6部:これからの未来へ、つないでいきたいこと

<未来のバトン>後輩社員へ向けて、伝えていきたい思いとは

櫻井ー私の若い頃と今は時代も違うので状況も変わってきていますが、商品開発の現場はアイデアを出してもスムーズには進まなかったり、商品販売後も施工の様子やお客様の反応が気になったりと、気は抜けないと思います。それでも「諦めない」「楽しく」というのは大切にして欲しいです。「自分の開発した商品を見た人にいいなと感じてもらうにはどうしたらいいのか」という視点で、仕事の中に楽しみを見出してほしいと思っています。
今、私のチームには若手社員が永井さんを含めて6人います。一人ひとりとの対話を大切にしながら、それぞれが個性を発揮できる環境を作っていきたいと考えています。最近では、若手社員の一人ひとりの考え方や発言・発想に成長を感じています。このコミュニケーションの中から面白いアイデアを見つけることも私の楽しみの1つにもなっていますね。

永井ー昨日私も櫻井さんからお題をもらいましたね、今考え中です!(笑)業務をこなしながら考えるのは大変ですが、「楽しく」という気持ちで心の余裕を作っていかなくてはいけないですね。

<インタビューを通して感じたこと>大東建託の未来の姿を考える

永井ー田﨑さんと櫻井さんのお話を伺ってみて、 “大東建託らしさ”を絶えず追求し続けてきた歴史の積み重ねによって、「見れば分かる(大東建託の建物だと分かる)」と言われるような “大東建託らしさ”が形成されてきたことを実感できました。そのことをアイデンティティとして受け継いでいく大切さを感じる一方で、時代の変化によって生まれる新たな価値観に合わせて賃貸住宅のカタチにも“進化”が求められている、ということも感じました。私達若手社員に求められるのは、自分たちのありのままの視点で考えることで大東建託のこれまでの価値観や感性を変え、これからの新しい賃貸住宅の在り方(大東建託らしさ)を創造していくこと。私達の世代だからこそ気付ける視点を大切に、今後商品開発と向き合っていきたいと思います。

櫻井ー 10年、20年先には全く違うものがあってもいいと思います。ニュークレストール24と現在の商品を比較してみても、どちらも“大東建託らしさ”を追求しているのにカタチは全然違っていますよね。その時代、その時代の価値を追い求めていけば変わっていくのはとても自然なことだと思います。住まいの機能として時代が変わっても変わらない部分は勿論ありますが、“暮らし方”に合わせて住まいの「在り方」はどんどん変わってきています。暮らし方の進化は早いです。永井さんたち若手社員のみなさんの感性を大切にしながら、新しい価値観を大東建託の商品に注ぎ込んでいってもらえることを期待しています。


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